第24話 気持ちと想い
咲耶さんに相談をした翌日の朝のこと、私は寮の前で1人立って居ました。
理由は、咲耶さんがした1つの提案――海人さんへの気持ちが分からないなら、一度2人きりで出かけてみてはどうかと言われたからです。
正直それで何かが分かる事も無いとは思いましたが、男女の経験が乏しい私では反論する事も出来ず、海人さんが来るのをただ待って居ました。
「あっ、ゴメン。詩音さん、待った?」
そう言って声をかけられた方を見てみれば、以前おじい様の家で見ていた時よりもパリッとした襟付きのシャツに、グレーのズボンを履いた海人さんの姿がありました。
「いえ、私も今来た所です」
思わずそう返しながらも、ふとその台詞が以前見たドラマの台詞と重なって、赤面しそうになってしまいます。
「そっか、ならよかった。所で買い物を手伝って欲しいって、どんな事を手伝って欲しいの?」
不思議そうな顔で海人さんに尋ねられたので、昨日咲耶さんと話をしている中で思いついた今日の予定を口にする。
「従弟の誕生日が近いので、プレゼントをと思ったのですが、私では5歳位の男の子の好みが分からなくって……」
そう言うと、海人さんが頬を掻きながら納得した様に頷いた。
「なるほど、そういう事なら俺でも役に立てそうかな。現状何か目星は付いてるの?」
「はい、幾つか考えてるので付いてきてもらっても良いですか?」
そう言って目的地に向けて歩き出そうとすると、海人さんに呼び止められる。
「あっ、詩音さん。そのっ……えーと」
海人さんにしては珍しく歯切れが悪く、視線をあちこち行き来させている様子に、思わず首を傾げていると、意を決した様にジッと目を見てきました。
「その恰好、凄く似合ってるね」
少し小さい声ながらも海人さんが言ったその言葉に、思わず頬が熱を持ってくると同時、思わず挙動不審になってしまいます。
今日は咲耶さんから頂いた、丈が短めのチェックのスカートに、白いブラウス。
そして、履きなれないハイヒールを合わせていて……普段とは少し違う格好だっただけに、そう言ってもらえてとても嬉しかったですけど、思わず海人さんの目が見れなくなってしまいます。
「……ありがとうございます」
そう言うと、海人さんがニコリと笑ってきて……それを見てすぐに目をそらしてしまいました。
――海人さんは、実は女性を褒めるのが得意なズルい人なのかもしれません
そんな感想を抱きながら必死に自分の鼓動を抑えると、目的地に向かって歩き始めながら、何気ない風を装いつつ問い掛けてみます。
「そう言えば海人さんは、普段寮へ戻ってからどんなことをされてるんですか?」
「寮に戻ってからかぁ……学園から出された宿題なんかをやってる以外は、真司と駄弁ったり他の寮生の部屋に遊びに行ったりしてるなぁ」
「他の寮生の方ですか? クラスメイトでは無く?」
「そうだね、割と他のクラスだったり別学年の人の所に行くことも有るよ。大体、朝ランニングしてて知り合った人とかが特に多いかな」
「そうなんですね。学園に溶け込めている様で何よりです」
そう言って笑いかけると、海人さんも笑顔を返して下さります。
その純粋な笑顔は、普段私が向けられる打算交じりのものでは無くて……坂崎家の娘に対して向けているのとは違い、純粋に私自身を見て笑って下さっていると思うのは、私の勝手な思い込みでしょうか?
……坂崎家の娘として生まれたこと、それ自体は私もとても誇らしいと感じています。
ただ、私に声をかけて下さる方……特に男性の方々は、常に私のお父様や家柄を見てお声がけ下さる方がとても多いです。
ですがこれまでは、そのことに対して思うところは有れど、私が私で有る以上それは仕方がない事だと周りからも説得され、私自身も諦めていました。
――そう、海人さんと出会うまでは……
私が海人さんと過ごした時間は、たったの1ヶ月です。
でも、その1ヶ月は殆ど家族の様に一緒に居たのにも関わらず……海人さんは常に、私を一人の同年代の少女として見て下さいました。
そのことは、私にとってはとても衝撃的で……。
たったそれだけの事にも関わらず、言い表せない喜びを覚えてしまった私は、単純すぎる人間なのでしょうか?
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