第20話 歓迎会開幕
先輩に誘導されながら食堂へと入ると、普段の一定間隔でテーブルが並んだ様子とは異なっている。
食堂の中央には食事や飲み物が並べられた大きな机があり、その周りを囲む様にして円形のテーブルが配置され、既に席には先輩達が座っていた。
「座る場所に決まりはないから、好きなところに座ってね」
そう言われたので、何処に座ろうかと周囲を見回していると、ざわついてる食堂の中で良く通る声が響き渡った。
「しーちゃん、こっちこっち!」
しーちゃんって誰だ? そう思いながら声のした方をみると、1人の女生徒が明らかにこちらへ向けて大きく手を振っている。
――しーちゃんってまさか?
そう思って隣に立つ詩音の方を見ると、耳まで真っ赤にしながら、握った手をプルプルさせていた。
「あー……呼ばれてるみたいだから、あっち行くか」
真司が頬をかきながら、手が振られてる方を指さしたので、俺達は黙って頷きながら移動する。
「やっと来た! もー、遅いよ」
少しむくれた様子の、肩で髪を切り揃えた先輩が、猫の様な目をしながら詩音を見ていた。
――と言うか、この先輩どっかで見た事あるな?
そんな事を考えていると、詩音が席に座りながら消え入りそうな声で抗議した。
「……しーちゃんは止めてくださいって言ってるじゃないですか、渚さん」
「えー、でも子供の頃からそう呼んでるんだから今更変えられないよ」
そう言って詩音の抗議を軽く流す様子を、周りの先輩方がやや呆れた目で見ている。
しかし、詩音にここまで気安く接する生徒は初めてだな……そう思いながらジッと渚さんと呼ばれた女性を見た所で、目の前の女性が誰だかを思い出す。
――入学式で在校生挨拶をしてた生徒会長だ、この人
壇上で毅然と話していた印象と余りに違ったため、頭の中で結びつくまで時間がかかった。
「それで、君たちがしーちゃんのお友達かな?」
そう言いながら、真司、由香里と目を合わせた後、俺の事をジッと見てくる。
「えーっと、どうかしました?」
長い事見つめてくるので何となく座りが悪くなり、思わずそう尋ねると生徒会長がニッと笑った。
「いーや、何でもないよー。ただ、個人的に君に興味があるだけかな」
そう生徒会長が言うと、由香里や詩音だけでなく、周りの先輩方も目を見張り、横でヒューと真司が口笛を吹く。
「モテる男はつらいな、海人」
そう言って真司に肩を叩かれたので、脇腹を叩き返す。
「別にそう言う意味じゃないだろ。ですよね? 生徒会長」
「あはは、どうだろうねー……っと、そろそろ開始の挨拶しなきゃだから、ちょっと席外すね」
そんな風に言葉を濁して生徒会長が去っていくと、同じテーブルに座っていた女性の先輩方がキャイキャイ話だし、由香里からはジト目を送られた。
「すいません、海人さん。渚さんは悪い人では無いんですが……その、ちょっといたずら好きな所があるので」
隣に座った詩音にそう耳打ちされたので、思わず生徒会長の態度で気になった事を、小声で問いかけてみる。
「生徒会長って、もしかして俺と詩音の例のこと知ってる?」
「……はい。実は海人さんについて、色々お話してます」
そう言われて、思わずどんなことを話しているのか気になったが、その気持ちをグッと堪えていると、会長のスピーチが始まった。
「今日は新入生歓迎会に集まって下さり、ありがとうございます。そして新入生の皆さん、改めてご入学おめでとうございます。本日司会を務めさせて頂く、生徒会長の神楽坂 渚です」
凛とした立ち姿でハキハキと話すその姿は、先ほどまで人をおちょくっていた人と同一人物とはとても思えない。
だが同時にその姿が、詩音と被って見えてくる。
「……これからの皆さんにはきっと楽しい事だけでなく、大変な事、苦しい事も有ると思います。ですが、是非それらも友人や家族、先輩や先生方と一緒に乗り越えてもらいたいと思います。それでは長くなりましたが、皆さんグラスをお持ちください」
そう言って会長がグラスを掲げると、皆一斉にグラスを掲げ始める。
「ではご唱和下さい……乾杯!」
「乾杯!」
会長の掛け声と共に、食堂内で一斉に乾杯の声や、グラスのうち合わさる音が重なった。
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