第19話 歓迎会開催前

 色々あったオリエンテーションが終わり、翌日からはいよいよ通常の授業が始まった。


 授業内容としてはまだ中学時代の復習であり、入学に向けてがっつり勉強していた部分でもある。


 だが、元々勉強が得意でない俺は、授業終わりに由香里や詩音に分からない内容を逐一確認する事で、授業についていけなくなるのを未然に防ぐことにした。


――2人には迷惑をかけるから、何か恩返しをしないとな……


 どちらも見返りを求めて来るようなタイプでは無かったが、だからこそ恩を返したいと強く思う。


 それ以外の学園生活――人間関係については、上級生達が入学式を終えて寮に戻ってきたことで、一つ分かったことがある。


 それは、多くの生徒は編入組だの在校生組だのと言った事を気にしていないものの、一部の生徒は声高に叫んでいるという事実だった。


 幸いにして、俺と由香里が所属している1年A組に関しては、詩音や真司と居る事も相まってか表立って差別する様な人間は居ない。


 ただ、一部の生徒が学食の席一つで言い合いをしている姿を見た時には、思わず呆れ返った。


「そう言えば、今日は食堂で歓迎会があるんだったっけ?」


 帰り支度を整えながら皆に話を振ると、隣の詩音が最初に反応する。


「はい。例年上級生の授業が始まった週の金曜日に、歓迎会をする事に決まっているので」


「話には聞いてたけど、歓迎会ってどんなことをやるの?」


 由香里が俺達の方へ振り返りながら尋ねて来ると、代わりに真司が口を開いた。


「基本は立食形式のパーティみたいなもんで、途中ビンゴ大会だのレクリエーションも用意されてる感じだな」


「成程なぁ、ビンゴってどんなものが出るんだ?」


 思わず気になって問いかけてみると、詩音が少し考えた後に応える。


「確か去年はマッサージ機器とかマスクメロン、遊園地のペアチケットとかが有りましたね」


「……すげぇ金かかってんなぁ」


 思わずそうつぶやくと、真司が苦笑いする。


「まぁ他の学校ではまず無いわな。ただ、遊園地のペアチケットとか独り身の男が貰っても困るだけよな」


 そう真司が言ったので、苦笑いしながらも頷く。


――俺もそんなもの貰っても正直困るしな


 そんな事を考えていると、由香里が俺の方を見ている事に気付いた。


「どうかしたか、由香里?」


「べつに、ただ海人君はもしペアチケットが当たったら誰を誘うのかなって思って」


 そう言いながら髪の毛をいじり始める由香里を見て、思わず笑いがこぼれる。


「そんなに欲しいなら、俺が当たったら由香里にやるよ。詩音と由香里には勉強見て貰ってるし、2人で行ってきたらどうだ? まぁ、当たったらだけど」


 我ながら名案だと思いながら提案すると、由香里がジト目をした後ため息を吐いた。


「はぁ、そう言う意味で言ったんじゃないんだけどなぁ……」


「由香里さんは、私と遊園地へ一緒に行くのは嫌ですか?」


 少し悲し気な声で詩音がそう言うと、由香里が首をブンブンと横に振った。


「そんな訳ないんだけど……あーもう、全部海人君のせいだからね!」


 そう言いながら由香里が少し頬を赤くして、1人教室の扉に向けて歩き出した。


「ほんと、お前らを見てると飽きないな」


 真司が俺の肩を叩きながら呆れ気味にそう言って来たので、心外だとばかりに真司の肩を軽く叩いた。





 寮に戻ると目立つところに「夕方6時から食堂にて歓迎会開始」という横断幕が張られており、既に5時半を過ぎているせいか何人かの生徒がエントランスで談笑しながら待っていた。


 その様子を見て同じように集合する事に決めた俺達は、鞄を自室に置いてすぐに戻って来ると、先ほどまでよりも多くの生徒が、学食前のエントランスに待機している。


―― 2人はどこにいるかな?


 そう思いながら見回していると、すぐに声をかけられた。


「あっ、海人君!」


 声をかけられた方を見てみれば、由香里と詩音が軽く手を振っていたので、足早に近寄って行く。


「よくこの人ごみの中で俺達を見つけられたな、由香里?」


 そう尋ねると、困ったように目を泳がせながら真司の恰好を見た。


「その……真司君は見つけやすいから」


 少し言いにくそうに由香里が言うと、真司が口元に笑みを浮かべながら肩をすくめた。


「まっ、確かにこんな格好してるのは1年では俺くらいだわな」


「後、身長がデカいってのも見つけやすい要因かもな」


 そう言いながら172cmの俺より10㎝近くデカい真司を見ていると食堂の扉が開き、中から出てきた上級生が新入生の誘導を始めた。

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