第14話 俺達の気持ち
クラス全員の自己紹介が終わった所で、担任の伊藤先生から明日の登校時間と、寮での過ごし方に関しての注意を受けると、昼前には今日の予定が終了となった。
「海人、お前どこで飯食う?」
既に帰り支度を終えて、鞄を担いだ真司にそう聞かれ、俺は思わず首を捻る。
「ん? 普通は寮で飯食うもんじゃないのか?」
そう言った所で、隣に座っている詩音を見ると、首を横に振った。
「寮では基本的に朝、晩しか食事が出てこないので、お昼は各自で取る事になっているんです」
「えっ、そうなんだ」
完全に寮で食べる気満々だった俺は、思わずさっき配られた寮則の書かれた手帳を確認すると……本当だ、原則朝・晩しか食事は提供されない旨が書いてある。
危ない、危ない……2人に説明されてなければ、誰も居ない寮の食堂へ行くところだった。
「寮で食べれないってなると、皆は普段どんな所で食べてるの?」
由香里がそう尋ねながら、学園内の敷地を記載した校内マップを取り出したので、皆で覗き込む。
地図の真ん中辺りには高等部の校舎があり、食堂やカフェテリアが校舎内の各所に点在している。
距離的には近い所では100m程の所、遠い所では軽く2,3キロ程あり、結構な距離を歩かされる。
「俺はここがお勧めだな。かなりガッツリした肉料理が食べられるし、今日みたいな時間がある時じゃないと行きづらいってのもある」
そう言って真司が指さしたのは、地図の右上にあるかなり遠くの運動部棟近くに有る大き目の食堂。
立地的にも運動部が頻繁に使いそうで、パワー系の料理が出てきそうだ。
今日は散々歩かされた事もありガッツリした物が食べたい気分だし、時間がある時にしか行きづらい事には一理あるが……由香里や詩音的にはどうなのだろう? そう思っていると、詩音が小学部近くにある少し小さめの食堂を指さす。
距離的には学生寮への通り道から脇にそれるだけな為、食堂へ行くのも食べ終わった後に寮へ行くのもこっちの方が断然楽だろう。
「私のオススメはこちらですね。基本的に和風なお料理が出てきますが、肉料理とかもあるので男性でも満足できると思いますよ?」
そう言われて、俺は思わず腕を組んで考える。
和食が嫌いなわけでは無いが、今の腹具合を満たせるかと言うと難しい所だ。
……そんな事を考えていると、由香里が少し苦笑しながら口を開いた。
「私はどちらかと言ったら詩音ちゃんの方かな、これ以上遠くに歩くのは結構しんどいかも」
それを聞いて、皆で真司の方を見て確認すると、両手を上げて降参の意思を示した。
「んじゃ、詩音さんの案で決定だな」
そういうと机に出していた物を鞄に仕舞いこみ、未だ残っていたクラスメイトに軽く挨拶して教室を出ると、まだ雑談している生徒達が多くいる廊下を歩いていく。
「そう言えば海人と坂崎さんや南雲さんは、どんな仲なんだ?」
思いついた様に真司がそう尋ねて来たので、俺達の関係について改めて考える。
「由香里に関しては幼馴染で――」
詩音に関しては嫁候補だが……それを言うのは流石に
恋人? と言うにはまだ結構距離有るな。
友達? と言うのとも少し違う気はするが……恋人よりは近いかな。
「詩音さんは友達……かな?」
そう言いながら詩音の方を見ると、肯定も否定もしない曖昧な笑顔で笑っていた。
――詩音は俺の事を、どう思っているんだろうか
「ほーん……てっきりどっちかとは付き合ってるのかと思ってたわ」
サラッとそんな事を言われて、思わずドキッとする。
「いや、そんなんじゃないっての」
笑ってそう誤魔化すが、由香里や詩音の顔が今は正直見れない。
詩音の婿候補になってから、余りにバタバタし過ぎていたのと、仮の嫁と婿候補って言う現実感の無い物で言われたから考えていなかったが……要は、詩音と許嫁関係にある様なものだ。
詩音の事が好きか嫌いかで言われれば……当然、詩音の事は好きだ。
常にこちらを気遣い、立ててくれる姿も、日ごろ向けてくれるあどけない笑顔も、たまに生真面目すぎて少し笑える所も含めて、一緒に居て楽しいと思える。
だが、恋愛感情としてどうなのかと言われると……俺はまだ、詩音の事をそれ程分かっていない気がする。
そして、詩音が俺の事をどう思っているのか……由香里が今の俺達の関係をどう思っているのか、知りたいと思ってしまった。
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