第12話 新しい友人と入学式

 隣に座る男子生徒の外見を思わず上から下まで見ていた所、そちらも俺からの視線が気になったのか、ジッとこちらを見た後、何かに気づいた様な顔をした。


「おたくら、さっき岩崎の爺さんと一緒に居た連中だろ?」


「あ、ああ。よくわかったな」


「そりゃあんだけ入口前で騒いでれば分かるって。俺以外の連中だって結構見てるぜ?」


 そう言われて周囲を見回して見れば、前方に座っている生徒のうち何人かが慌てて前へ向き直っているのが見えた。


 この学校の生徒も意外と、俗っぽい所があるのかも知れない。


「まっ、俺は見た目こんなんでも内部進学組だからな、何か聞きたい事あったら言ってくれ」


 そんな風に、見た目のからみずらさに反して気さくに言ってきた男子生徒に、軽く頭を下げる。


「ありがとう。分からない事だらけだから、多分色々世話になると思う。俺は岩崎 海人、そっちは?」


「俺は浅野 真司」


 浅野とそんな言葉を交わしている内に、司会の人の挨拶と共に入学式が始まった。


 入学式の内容はかつて通っていた中学とはそれ程違いが無く、学長や偉い人からの訓示の数がやたら多かった以外は、新入生代表の挨拶や、在校生代表の生徒会長からの挨拶があり、つつがなく終わった。


「んー、入学式はどこの学校も同じようなもんだったなぁ」


 講堂から整列して退場した所で、改めてそう呟くと詩音が食いついた。


「そうなのですか? 私はこの学校の入学式しか知らないので、他の学校がどうなのか興味があります」


「うーん、でも海人君の言った通り余り違いは無いと思うよ? 強いていうなら、新入生入場とかしないんだなぁ……って思ったくらいかな?」


 そんな会話を皆でしていると、退場の際に先導していた1年生の担任達が、事前に郵送で送られてきていたクラス分けを元に集まるように指示してきた。


「俺達は1年A組だったよな?」


 一応2人に確認しながらクラス分けの資料を取り出すと……傍にいた浅野が覗き込んで来た。


「おっ、岩崎もA組か」


 そう言われて、一瞬浅野が誰に話かけてるのか分からなくなり……自分の苗字が岩崎に変わったのだと改めて思い出した。


「あー、浅野……くん? 俺の事は名前で呼んでくれた方が良いかも」


「ん? そうか? ってか、なら俺も真司でいいよ。くん付けも要らない」


 そう浅野――真司に言われながら、A組の担任である角刈で日に焼けた男性の下へ移動して名前を告げていくと、手に持った名簿にチェックを入れられた。


「よし、これでA組は集まったな。それじゃあ順番は自由で良いから、1列になってクラスへ移動するぞ」


 指示された俺達は少しまごつきながらも1列に並ぶと、広い敷地内の施設に関して説明を受けながら、自分たちがこれから通う事になる高等部の校舎へと移動する。


――てか、敷地内を歩いているだけで殆どハイキングだぞこれ


 広いだけでなく、山にこの学園を作ったせいで起伏が激しい事も有り、一部の女生徒なんかは少し大変そうにしていた。


「よし、到着……ここが、君たちがこれから3年間通う事になる、高等部の校舎だ」


 言葉と共にバッと勢いよく指し示された先には、外装を赤レンガで覆われ、随所に窓ガラスが配置されたおしゃれな3階建ての校舎があった。


 形としては、上空から見ると逆凹み型に成っており、今俺達は丁度その窪み部分に全員で立って居る形だ。


「よし、それじゃあ少し疲れてるかもしれないが、ゆっくりクラスまで移動するぞ」


 そう言われて俺達は、事前に用意されていたそれぞれ用の下駄箱に入った真新しい上履きへ履き替えると、3階まで階段を上っていく。


「……たはは。この学校で生活すると、足鍛えられそうだね」


 女子としては平均的な運動神経を持つ由香里が、それでも思わずと言った様子で呟くと、詩音が苦笑する。


「この学校は広いですからね。後ちょっと頑張りましょう、由香里さん」


 そう言って由香里をはげます詩音は、まるで疲れた様子も無いため、思わず尋ねてみる。


「詩音さんは全然平気そうだけど、これまでの学園生活で慣れた感じ?」


 スイスイと階段を登る詩音にそう問いかけると、少し悩んだ様子で応える。


「もしかしたらそれも有るのかも知れませんが、一応中学から弓道をやっていますので、そのお陰かもしれません」


「へぇ、弓道か……うん、凄い似合いそうだね」


「えっと……ありがとうございます」


 弓道着に身を包み、髪を結わえた詩音が弓を引く姿を想像し……思わずそう呟くと、詩音が頬を染めながらも微笑んでくれる。


 と、そんな事を話している内に階段を登り終えた俺達は、階段横に有る1年A組と掲げられた教室へ入って行った。

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