第11話 学園に到着!

 車に揺られること1時間程した所で、車が学園の敷地前へと到着すると……その広さに思わず言葉が漏れた。


「パンフレットでも見たけど、凄い広さだなこの学校……」


「……確か、山一つが丸々学園なんだよね?」


 由香里が詩音の方を向きながら尋ねると、頷き返す。


「はい、初等部から大学まで1つにまとまっている上、中等部と高等部は寮制なので総面積は約120万平方メートルにも及ぶそうです」


 そう言われても今一つ広さがピンと来なかったが、山一つ改築したと言うスケールの大きさが、既に普通の学校とは違っていた。


 そんな、広さ1つとっても普通とは異なる学校に衝撃を受けていると、正門前で守衛の人から窓を開ける様に身振りで指示され、ドライバーの坂口さんが窓を開ける。


「失礼ですが、身分証明書を確認してもよろしいでしょうか?」


「ほい、コレで問題ないかの?」


 そう言って助手席に座っていた爺さんが運転免許を見せると、目を見開いた後に慌てて敬礼した。


「岩崎財閥のっ……これは、失礼しました。どうぞお進みくださいっ」


「いや、良いんじゃよ。仕事頑張っとくれ」


 爺さんがそう言って手を振ると、車が学園の中――桜並木をゆっくりと進んでいく。


 すると、制服を着た生徒達が歩道を歩いているのがチラホラと見え始め、その顔はいずれも期待に胸を膨らませているように見えた。


「あっ、着きましたね」


 詩音がポソリと呟いたので前方を見てみれば、入学式の垂れ幕がかかった講堂が視界一杯に広がる。


 その大きさは中学の時に通っていた市立中学の体育館の数倍は有り、前面が一面ガラス張りで出来た2階建ての建物は、見るからに多額の費用が掛かっている様に見えた。


「入口前に立って居る人は……副学長かな?」


 由香里がそう呟いたので、視線を新入生達が入って行く入り口に向けてみれば、ひさしの下スーツ姿で立って居る人影の中に、学校案内のパンフレットで見かけた男性が居る事に気づく。


 車が丁度その男性近くに停車し、爺さんが降りた途端、副学長がもみ手をしながら猫なで声を発するのを、車から降りながら確認した。


「これはこれは岩崎様、お待ちしておりました」


「わざわざ出迎えなくても良かったんじゃが」


 爺さんがそう言うと、副学長は首が千切れるんじゃないかと言う勢いで、左右に首を振った。


「滅相もございません、岩崎様には多額の寄付金を頂きましたので、当然の事をしてるまでです」


 そう言いながら男の視線が俺と、由香里に向けられて手を差し伸べられる。


「初めまして、私副学長を務めさせていただいている副川と申します。以後お見知りおきを」


「ご丁寧にありがとうございます。今日入学する岩崎 海人です」


「南雲 由香里です」


 そう言って俺達と軽い握手すると、副学長は詩音の方を向いて声を上げる。


「これはこれは、坂崎家のご令嬢じゃありませんか! この度はご進学おめでとうございます!」


 明らかに俺達の時とは違うテンションの上がり方をした副学長を見て、詩音の顔が僅かながら強張ったのが見えた。


「ありがとうございます、副川様。またお世話になります」


「こちらこそ、何卒よろしくお願いします」


 そう言ってペコペコと副学長が頭を下げる様子は、まるで立場が逆転してるかの様に見える。


「それじゃ、残念ながら儂はこれで帰るから、しっかりやるんじゃぞ?」


 そう言って爺さんが俺の方を見てきて、俺は驚いた。


「爺さん、入学式見て行かないのか?」


「ワシも本当は3人の晴れ舞台を見たい気持ちで山々なんじゃが、どうしても外せない仕事が入ってしまっとってな。なぁに安心せい、動画撮影は頼んであるからバッチリ見とくわい」


 そう言ってカカと爺さんが笑うと近寄って来て、俺の肩を叩く。


「これから、しっかりやるんじゃぞ」


「ああ、任せといてくれ」


 そう言って俺が頷くと、由香里や詩音とも言葉を交わした後爺さんは、リムジンに乗って帰って行った。


「では、私達は失礼します」


 そう言って軽く会釈すると副学長は他のスーツ姿の人達と共に、講堂へと入って行った。


 すると、周囲が俺達を見てざわついている事に気づく。


「あそこにいらっしゃるのは、坂崎様じゃないですか?」


「その横にいらっしゃる方々はどなたでしょう? あの岩崎家のお爺様と親しくされていたのだから、きっと家柄の良い方なんでしょうけど……」


 そんな会話が繰り広げられているのが聞こえてきたので、思わず頬をかく。


「俺達も講堂に入ろうか?」


 そう言って2人を促すと、俺同様気恥ずかしそうにした2人がついて来る。


 講堂に入るとすぐの所に受付が設けられており、学生証を受付の人へ提示すると胸元に付ける花飾りを貰い中へ入ると……正面の檀上には巨大なパイプオルガンが配され、両脇に来賓席が設けられているのが視界に入った。


 予想よりも遥かに立派な内部の作りに思わず息を飲んでいると、詩音が服の袖を引っ張って来る。


「どうやら、席は前から詰めていくみたいですよ」


 そう言われて前方に設置されたスクリーンを確認すると、開始予定時間や入学式の流れや注意事項が映し出されていた。


 既に席は中ほどまで埋まっており、他の生徒達を見習って前へと詰めるため移動する。


「隣、失礼します」


「ん? ああ、好きに座って」


 隣の男子生徒から快く了承を貰えたので、座る前にふと横を見た時、少しビックリした。


 この学校の生徒は有数の資産家の息子や娘が多く、他には芸能人や一流の芸術家の子供たちが集まるため、基本的には真面目そうな見た目のお坊ちゃま、お嬢様ばかりだ。


 だが、隣に座っていた生徒は髪が茶色い上、着崩した制服の下からは銀色のネックレスがのぞいている……パッと見た感じチャラそうな男だったのだから。

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