第10話 入学式の朝
由香里が同じ学校に行くと決まってから、俺達は入学に向けての勉強や、資産家の子供たちと接する上での最低限のマナーについて学習を行った。
――まぁ俺達と言うよりは、俺の学習がメインだったけど……
思わずそんな自嘲が漏れるが、それでも指導して貰った講師の方々や詩音の合格を得た俺は、万全とは言えないものの準備を整えた上で入学式の朝を迎えられていた。
「坊主、ちょっと良いかの?」
屋敷の自室で、登校時に持っていく手荷物の最終確認をしていると、爺さんが真剣な声色で声をかけて来た。
「どうかした? 爺さん」
「……坊主が養子になってからと言うもの、坊主は不慣れなりにもよう頑張ったと儂は思っとる」
1回爺さんはそこで話を区切ると、言いづらそうにしながらも言葉をつづける。
「じゃがな、いくら坊主が頑張ろうと、あの学校では坊主が養子と言うだけで馬鹿にして来る奴がいるかもしれん。だから、決してめげるでないぞ」
爺さんが珍しく心配そうな目でそんな忠告をして来たので、俺は思わず少し笑った。
「大丈夫だよ、爺さん。そう言うのには慣れてるから」
――そう、人と違う事で虐げられるのは……慣れている
親が居ないから、金が無いから、施設の人間だから……様々なレッテルを張って、それだけで人を攻撃する人間はこれまでにも居たし、多分どこにでもいる。
当然、俺だって悪意を持たれて傷つかないわけじゃ無い。
だけど俺は……そんな風に人をレッテルでしか見られない人間ばかりじゃない事を知っているから、今もこうして笑ってられる。
――それに……
「それに、これから行く学校には少なくとも2人も俺の味方が居るしな……それだけでも十分だよ」
照れくさくなりながらも改めて笑いかけると、爺さんが俺の髪を乱暴に掻き回した。
「そうか。……それでこそ、儂が養子にした男じゃ」
先ほどまでとは違い、爺さんも俺につられてニッと笑った。
「……っと、何ぞ目にゴミが入ったから儂は顔を洗ってから車へ向かうが、二人はもう駐車場で待っとる。余り待たせるんじゃないぞ」
そう言って爺さんが天井を見上げながら部屋から出ていくのを見て、思わずその背中に頭を下げていた。
「ありがとう、そして頑張るよ爺さん」
呟く様にそう言葉を発すると、爺さんが背中越しに手を振っていた。
◇
爺さんが出て行った後に手早く準備を終えた俺は、筆記用具や学生証などの最低限の物が入ったカバンを持ち、駐車場へ移動すると……私立
「海人さん、おはようございます」
「海人君、おはよう!」
「2人とも、おはよう」
頭を下げた後にふわりと笑って挨拶する詩音と、小さく手を振りながらニコッと笑って挨拶してくる由香里へ、思わず俺も笑顔になりながら挨拶を返す。
「ねぇねぇ海人君、この制服どうかな?」
そう言って由香里がその場でくるりと回ると……思わずふわりと膨らんだスカートに目を奪われる。
「あーっ、今海人君私のスカートをジッと見てたでしょ?」
「いや、そんな事無いって」
反射的に目を反らしながらそう応えるが……すいません、すげぇ見てました。
「ほんとにぃ?」
由香里が笑いながら聞いて来るのを無視していると……詩音が何やら思い悩んだ顔をしていたので、聞いてみる。
「詩音さん、どうかした?」
「えっと……私も由香里さんみたいに、この場で回って見せた方が良いのでしょうか?」
少し頬を赤らめながら詩音がそう聞いて来たので、思わず頬をかく。
――正直言うとそんな詩音を見たい気もするが、正面切ってお願いするのも気が引けると言うか……
そんな事を考えていると、先に車に乗っていた爺さんがため息つきながら降りて来た。
「お前さんたち、いつまで遊んどるんじゃ。まだ時間に余裕があるとはいえ、余り悠長な事しとると遅刻するぞい」
そう爺さんに言われて俺達は顔を見合わせると、少し照れながら車へと乗り込んだ。
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