第13話『先生……先生……!』
パリー・ホッタと賢者の石・13『先生……先生……!』
大橋むつお
時 ある日
所 とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)
パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
とりあえずコギャル風の少女
少女、先ほどとも違う場所からあらわれる。姿はそのまま。
少女: ほらね。
パリー: ほんと……
少女: あせりは禁物、ゆっくり、じっくりやっていけばいいわ。
パリー: ……先生、自然ですね。とても、さっきまでのコギャルとか、こないだまでのイマイチのオヤジ先生に見えません。
少女: 二百年前までは魔女だった。
パリー: え?
少女: 男性優位の時代だったから、男に鞍替えして魔法使い。そして百年もすると賢者の石井とよばれて、いい気になって……
パリー: 本物の女だったんですね!
少女: その前は男、ひげもぐら風の魔導師。アーサー王のもとで働いていた。あのひげもぐらは、その時のわたしの劣化コピー。本人は忘れちゃってるでしょうけどね。
パリー: ひげもぐら風だったんですか……(;゚Д゚)
少女: そんなバイ菌見るような目で見ないでくれる。もっと凛凛しくてキリっとしていたし。
パリー: やっぱり男だったんですね。
少女: さあ……男だったり女だったり、子供だったり年寄りだったり……年古びた魔女や魔法使いは、たいてい性別も年令もない。というよりは忘れてしまうのね、魔法の恐ろしいところ……わたしがおぼえている一番古い自分の姿は……なんだと思う?
パリー: さあ……
少女: 十五六才の少女だった。何か懸命に魔法をおぼえ、何かとんでもない敵を倒そうとしていた……そしてその前は……もう思い出せない。その少女の姿が最初だったのかもしれない。ひょっとしたら狐とか狸とか、人間以外のものだったのかもしれない……
パリー: まさか……
少女: パリー、だから今を大事に生きなきゃいけないのよ。何百年か先に、自分がパリー・ホッタであったことをおぼえているために。わたしが、いまゼロであることの、もともとの理由は、このへんにあると思うの。
パリー: ……
少女: わたしが、少女だったころに会えたらよかったね。
パリー: 先生……
少女: さあ、そろそろ行くわ。あなたは学校にもどりなさい。魔力がもどりかけてるから退学にはならないわ。
パリー: はい……先生!
少女: なに?
パリー: 「三べんまわって、わん!」には反対します。
少女: なぜ?
パリー: その……
少女: その……?
パリー: その……人も自分も、学校も粗末にしているように思えるから……じゃないでしょうか?
少女: そうか、百分の一ほどはわかってきたかもしれないわね。
パリー: 百分の一ですか……
少女: 今はそれで十分。あとの九十九は……
パリー: 自分でやります。自分でつかんで見せます!
少女: その意気込みよ、残りは九十七。
パリー: 九十七? 残りの二つは?
少女: それは……その意気込みを、ずっと持ち続けること。そして、静かにわたしを見送ること。
パリー: はい!
少女: 日が傾いてきた。そろそろ……
パリー: 先生。
少女: ん?
パリー: 先生は、けしてゼロではありませんでした。今も、そしてきっと、これからも……
少女: ありがとう……今夜は、星がきれいに出そうね。ほら、あそこに一番星。
パリー: え、あ、ほんと。
少女: もうすぐ二番星が出る。二番星は魔法使いの願い星。待ちかまえていれば、願いが叶うっていうわよ。
パリー: どこに出るんですか?
少女: 九と四分の三番星座……(希望を思わせる曲、フェードイン)
パリー: 九……と、四分の三番星座。
少女: じゃ、行くね。(花道を歩みはじめる)
パリー: 先生!
少女: しっかり空を見ていないと。見逃しちゃうぞ、しっかり見ていないと……!
パリー: 先生……先生……!
歩みを速め花道をいく少女。希望を思わせる曲フェードアップするうちに幕。
パリー・ホッタと賢者の石 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018
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