第11話『ゼロなのはこのわしだよ』
パリー・ホッタと賢者の石・11『ゼロなのはこのわしだよ』
大橋むつお
時 ある日
所 とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)
パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
とりあえずコギャル風の少女
間、遠く暴走族の爆音。
パリー: ……わたし、ゼロなんですね。
少女: ハハハ……
パリー: 笑わないでください……
少女: とんでもない勘違いだ。ゼロなのはこのわしだよ。
パリー: 先生……?
少女: 自信を持ちたまえ、パリー。君は100だよ。その証拠にこれだけ喋ったり行動を共にしても君の魔力は少しも回復してはおらん。わしの方がゼロだからだよ。
パリー: そんなことありません。こんなに不安で自信のない者が100であるわけがありません。
少女: 100であるからこその不安と自信のなさなんだよ。だって、もとがゼロなら、不安もゼロ。自信の失いようもないだろう。
パリー: いいえ、それはちがいます。
少女: 君も頑固だな。そうだ、これを持つといい(一本の杖を差し出す)
パリー: これは?
少女: 国宝の杖だよ。ひげもぐらが取り込んでいたんだ。あのどさくさでうっかり持ってきてしまった。そいつを振ってごらん。君がつまらん魔法使いなら、そいつは大暴れする。家の二三軒もふっとぶかもしれない。そして、君が本物ならば……本物で、ただのスランプならば。何事もなく大人しくしているだろう。それほどプライドが高く、力のある杖だ。さあ、やってごらん……
パリー: はい……
パリーは、呪文を唱えおそるおそる杖を振る。何事もおこらない。もう一度、しっかり振る。やはり何もおこらない。
少女: ほらね。杖も君を100だと認めている。その杖は君が持っているがいい。
パリー: でも……
少女: 杖も君を選んだんだ、たとえ君に魔力がもどらなくても、そいつは文句を言わん。相性がいいんだ。大事にしてやりたまえ。
パリー: はい……(彼方で汽車の走る音がする)先生、ファグワーツ行きの最終が……
少女: こりゃ、ドラ屋経由どこもでもドアの直行便だな。ゼロの気楽さ、イージーに行こうか。パリー、君にはこれから100の苦悩が待っている。そして100の成長が。けして、こういうイージーな道をえらぶんじゃないぞ。人と人とは掛け算だが、人一人に関しては足し算だ。一つ一つ確実に積み重ねること。基本中の基本だ。そうでないと……(暴走族の爆音)ああいう馬鹿になるか、ひげもぐらのようなイカレた魔法使いに……
爆発音。フォグワーツ行きの列車が行ったあたりから。
パリー: 先生、フォグワーツ行きの列車が……
少女: ひげもぐらのしわざだな……
パリー: でも魔法使いなら、あの程度の爆発で死ぬことはないでしょう。
少女: 今のわしは生身の人間と同じだよ。
パリー: あ、そうでしたね……
少女: くれぐれも、イカレた魔法使いにはならんようにな。
パリー: わたしには、これがついています(杖を示す)
少女: いい子だ。じゃ、そろそろ行くよ(「どこもでもドア」にむかう)ドラ屋経由、ファグワーツ正面玄関へ!
パリー: い、行ってらっしゃい!
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