第2話 親父になにか用?


パリー・ホッタと賢者の石・2

ゼロからの出発




大橋むつお




時     ある日

所     とある住宅街

登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  


           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒

          とりあえずコギャル風の少女






パリー: え……!?

少女: 親父になにか用?

パリー: ……うん。

少女: あいにくだな……早くもどった方がいい、午後の授業が始まっちまう。

パリー: もう間にあわない。

少女: 箒に乗れば、あっと言う間じゃないか。

パリー: ……

少女: 二年生だったら、箒ぐらいスイスイ乗れるだろ?

パリー: ……魔法つかえないの。

少女: え……?

パリー: 急に魔法が使えなくなってしまって……だから先生に相談しようと……

少女: どうして親父に? 親父に習ってんのか?

パリー: 習ってる先生には相談できない。魔法が使えなくなったことがわかったら退学だもの。

少女: それで親父か?

パリー: 学校では誰に聞かれるかわからないから、ここしばらく学校に来ていないイマイチ先生に……

少女: それだけ?

パリー: 入学式の時、ズラッと並んだ先生の中で、イマイチ先生が一番優しそうだったし。わたし、この先生が担任だったらって思ったの……

少女: その日は宝くじの当選発表があった日。五等の一万円であれだけ喜んじまうんだ、人間的には、かなりチンケなおっさんだぞ。

パリー: そんな……

少女: 他の先生も中味は似たりよったり。あんたもいいタイミングじゃん、やめちゃえば学校なんて。

パリー: わたし……

少女: 魔法なんて、社会に出たら何の役にもたたないよ。妙なプライドだけが残って、いいことなんて一つもない。

パリー: …………

少女: 錯覚してんだよ、何十倍という入試をくぐりぬけて入った学校だから、何かとってもいいことがあって、とっても素敵で立派な魔法使いになれるんじゃないかってな。ロクなもんじゃねーよ魔法なんて。空を飛んだり、いろんなものに化けたり、呪いをかけたり。ひところは世界の半分が魔法の国になっちまったけど、二十世紀の終わりにバタバタつぶれて、今はほとんど残ってない。人間というのはやっぱり自分の手足をつかって働くようにできてんだ。魔法なんかやってると、普通にものを見たり聞いたり、考えたりってことがだんだんおっくうになってバカになっちまうんだ。あんた、名前は……パリーだったよな。

パリー: パリー。パリー・ホッタ。

少女: ハリー・ポッター!?

パリー: パリー・ホッタ。

少女: まぎらわしいなあ、パリー・ホッター。

パリー: ううん。ホッターじゃなくてホッタ。

少女: ホッタ……?

パリー: ほんとは、漢字で書くの。お城の堀に田んぼの田と書いて「堀田」 

少女: ……この国の人間じゃないな。

パリー: うん、留学生。東の国からの。

少女: でも。パリーってのは東の国にしちゃあ、めずらしいじゃん。

パリー: わたし、フランスで生まれたの。お父さん外交官だから。

少女: それで、よけい魔法にこだわるんだ。

パリー: ちがう。

少女: あんまり魔法にこだわらない方がいい。しばらく休学して、他の仕事とか趣味とかしてみるのもいいんじゃないか?

パリー: ……やるって決めたことだから。

少女: そういうのは流行らない。

パリー: 悪いけど、わたし、お父さんとお話がしたいの。イマイチ先生と。

少女: イマイチってのは失礼だぞ。

パリー: わたしはちゃんとイマイチ先生って呼んでるじゃない。

少女: イマイチという呼び方には軽蔑の響きがある。

パリー: 上級生の中には、先生を苗字で呼捨てにする人もいるけど、わたしはちゃんとイマイチ先生って……

少女: イマイチというのは名前だ、苗字じゃない。

パリー: え……?

少女: ん? ずっと苗字だと思ってたのか?

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