第2話 お節介な妹
【お姉ちゃんと
そんなメッセージを寄越して来た
和葉ちゃんは本当にいい娘で、そして、僕にとって妹のような娘だ。
彼女は最近、少々お節介過ぎるところがある。
とはいえ、事情が事情だし、文句は言えない。
長話になりそうなので、電話に切り替えてかけ直す。
「和葉ちゃんが勝手にリークして来たんでしょ?1周間前はびっくりだったよ!」
常日頃から、僕と和美の仲がじれったいとくっつけたがっていた彼女。
ただ、僕は、和美のそれが、親愛の情か、それ以上なのか確信が持てなかった。
出来たら、もう少し気持ちに確信が持てるまで、なんて思っていた。
だから、和葉ちゃんに詰め寄られるたびに、「もうちょっと、待って」と言っていた。
それを聞いた和葉ちゃんが「だったら、お姉ちゃんが泰介お兄ちゃんの事好きな証拠見つけてくればいいんでしょ!」と暴走したのだ。
証拠を見つけてきたのが1週間前の事で、芳泉にお世話になる初日だ。
内容はといえば、日記に、僕への想いが書き綴られていたとのこと。
和葉ちゃんの事だから、提示するタイミングまで見計らっていたのだろう。
しかし、和美が手書きの日記をつけているとは少し意外だった。
「でもでも。これで、泰介兄ちゃんとしては安心して告白できるでしょ?」
自慢げな声。もちろん、内容自体はありがたい。
「いくら何でも、和美の部屋漁るのはやり過ぎ。和葉ちゃんも和美に知られたくないことの一つや二つあるでしょ?」
リークに助けられた僕が言えた義理じゃないんだけど。
これだけは言っておかないと、と、厳しい声で告げる。
「う、うん。確かに、泰介兄ちゃんの言う通りだね。ごめんなさい……」
急にしゅんとした声になる和葉ちゃん。言い過ぎたか。
彼女は賑やかだけど、同時に繊細だ。
「和葉ちゃんが僕たちの事応援してくれるのは嬉しいから。それは忘れないでね」
本当に、それはずっと昔から、思っていることだった。
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
少し甘えた声で、懐かしい呼び名を呼んでくる。
「ど、どうしたの、急に、昔の呼び名で」
急にだから、びっくりしてしまう。
「やっぱり、お兄ちゃんはお兄ちゃんだなって思っただけ。お姉ちゃんもお母さんもお父さんも、私を甘やかしてばっかりだったから」
昔を懐かしむようにそう言う和葉ちゃん。
「君がわんぱくで手がつけられなかっただけだよ……」
芳泉でまだ小さかった彼女の面倒を見たことを思い出す。
初めて会った頃は、ちんちくりんだったなあ。
「それは、自覚してるけど……」
幼い頃の破天荒ぶりは自覚があるらしい。少しバツが悪そうだ。
「とにかく。お兄さんだと思ってくれるのは、嬉しいよ」
一人っ子の僕にとっても、和葉ちゃんは本当の妹のようなものだ。
だから、兄、と思ってくれるのは、誇らしい気分になる。
「私は、お兄ちゃんに躾けられて育ったんだよ。ほんと」
しみじみと語る和葉ちゃん。
「和美が強く言えなかったから、それくらいはね」
和美は、一歳下のわんぱくな妹を持て余し気味だった。
だから、手に負えない時、やっちゃ駄目なことを叱るのは僕の役割だった。
和美だけだなく、彼女とも長い月日を過ごしてきたのだなと、ふと気づく。
「それより!お兄ちゃんも、いい加減、告白してもいいんじゃない?お姉ちゃんはチキンだから、お兄ちゃんがグイグイと行かないと」
妹とはいえ、姉に対して実に辛辣だ。チキンって。
「君、姉の事をチキンってね……。まあいいけど。僕もタイミングを見つけて、想いを伝えたいと思ってるよ。ただ、唐突なのはちょっとね」
ここ数日も、どういう風に想いを伝えようかと考えていたところ。
「そんなの、女の子としてはどっちでもいいってば!」
「そう言われてもね。和美が僕の事を好きって前提だと、色々変わってくるよ」
言うなれば、勝ちの見えている試合のようなものだ。
だから、あえて真剣に言葉を考えないと、いい加減な告白になってしまう。
大事な彼女だから、きちんとした言葉を贈りたい。
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんが大っっ好きだから。どんな言葉でも喜んでくれるよ」
だから、と。
「あんまり待たせないであげて」
お節介で、でも、とても想いのこもった言葉。
「待たせないであげて」か。
確かに、僕は余裕でも、和美はそうじゃないのかも。
「わかった。明日にでも、告白するよ」
踏ん切りがついた。
「ど、どうしたの、急に?」
和葉ちゃんの戸惑う声が聞こえる。
「僕だけ、ずっと余裕っていうのもどうかなって思ったんだよ」
いつでもOKしてくれる、なんて感情で接するのは確かに違う気がする。
「筋を通すところはほんとに変わらないんだから」
仕方ないんだから、とばかりの和葉ちゃん。
そこには、優しさが込められている気がした。
「だから、私も応援しちゃくなっちゃうのかな……」
そんなつぶやきを聞いて、ふと、思う。
和葉ちゃんはどんな気持ちで僕たちを応援してくれるのかが気になった。
でも、それを聞くのは野暮だろうか。
「明日の夜までには告白するから。お赤飯でも炊いておいて?」
ちょっと冗談めかして言ってみる。
何事もなければ、告白に応えてくれる……はず。
「お兄ちゃんにしては珍しいジョークね。でも、お赤飯って……」
電話の向こうから、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
「あー、もう。似合わないジョークを言うんじゃなかった」
すごく恥ずかしい。ウィットに飛んだ言い回しのつもりだったのに。
「あ、もうこんな時間。そろそろ寝ないと!」
と和葉ちゃん。その声に、時計を見ると、24時を回ろうとしている。
「そうだね。じゃ、また明日」
そう言って、電話を切る。さて、明日の準備をしないと。
告白の言葉も、今更ごちゃごちゃ考えても仕方がない。
シンプルに、彼女への好意をぶつけよう。
きっと、和美もそれを望んでいるだろう。
そう決意を新たにしていたところ。
【明日の朝、ちょっと時間もらえますか?】
和美からの、そんなメッセージが届いたのだった。
明日の朝?
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