第13話


「ふ――――な!!!そ―――こ―――ん!!!」


「しず――――い。――――る人―――す。」


 ――――――んにゃ?


「えぇい!!!し―――――ん!!―――ら―――!!」


 ――――――うるせぇよ?


「そんな事はワシには関係ない!だいたい、ワシが起きておるのに休んでいるとは何事だ!?さっさと起こしてこい!!!」


 あーもうー完全に起きましたわ。お目目パッチリンコ。眼がギャンギャンですわ!

 はてさて、どのくらい寝てたんだ?あー、お外は真っ暗だね。んじゃ、少なくとも1、2時間くらいは寝てたかな?


「あー起きちゃったッスね。やっぱり。」


「当たり前だっつーの。これだけうるさければ。んで?何事?」


「――――なんと言えば言いッスかね。」


「――――ごめん、なさい。」


 何故にユキちゃんが謝るのでしょう?余計に意味がわからなくなるんですが?なんか、今にも泣き出しそうなユキちゃんを見ると無性に腹立ってくるんですが?困り顔のペガサスくん。説明を求む。


「あー先に、体はどうッスか?」


「ん?んー。疲れは和らいだから少しは楽だけど、相変わらずダルさはあるな。えーっと、うん。当然ながら【具現の力】は1も回復してないし、仕方ないな。」


 この回復の遅さよ!どうにかしたい!!若しくは最大値を増やしたい!!


「本当はもっと休んでて欲しいんッスけどね?」


 ありがとうな、ペガサスよ。


「んで?説明を頼む。」


 涙を溜めるユキちゃんの手前ちょっと聞きづらいけれど、致し方無し。状況がさっぱりわかんない。

 まぁ、今尚怒鳴っているのは新しく避難してきた人だとは予想できるけれど。何故にそんな怒鳴ってんの?


「今怒鳴ってるのは、ちょっと偉い人みたいッス。」


 偉い人??


「なんとか議員さんみたいな?」


「いや、どっかの会社の社長みたいッス。」


 社長・・・・いや、こんな騒いでるのが社長って、どんなクソ会社だよ。ってか、そもそも社長って、今なんにも、ミジンコ一匹分も関係ないような環境じゃん?どういう事?


「たまたま外を見てたユキちゃんがゴブリンに追われてるおっさんを発見したのが始まりッスね。」


 ほぉ~。それはお手柄じゃありませんか。俺のためにもなでなでしとこ。―――――ダメだ。今のユキちゃんには何の慰めにもなってないらしい。


「まぁ、当然助けたんッスけど・・・。」


「あんな感じなのね?」


「ッス。」


 助けて貰っといて何をそんな騒ぐ必要があるのだろうか?シャッチョさんは。


「ここに入れて安全だとわかった途端に『なんでもっと早く助けなかったのか?』って、騒ぎだしたんッスよね。因みに今のが第一声ッス。」


 マジか。―――――ただのバカじゃん。


「それでまぁ、自分は社長で偉いから全員自分のために働けとか、自分の言うことを聞けとか言い始めたッス。」


 マジか。―――――すげぇバカじゃん。


「んで当然そんなのは許されないって皆で反発したんッスよね。でも、全然話が合わない、と言うか何と言うか・・・。」


 なるほどなるほど――――バカじゃん。


 つまり、そんなを助けて大変な思いとか、嫌な思いをここのメンバーがしてしまっている。そして、そんなを助けるように動いた―――動いて最初の人間。つまり、ユキちゃんが罪悪感でこんな状態になってるって感じかな?でも、人助けはとても立派な事だ。人から責められるのも、自分自身で責めるのも、それは間違ってる。とは、思うけれど中々難しいな。俺だってユキちゃんの立場だったらやっぱり『申し訳ない』とか『助けない方が良かったか?』とか思っちゃうだろうし・・・。


「暴力とかはないよな?」


「それはないッス。」


 それは幸い。だけど、知ってた。そういう人間って何んでか手は出してこないんだよな。状況によっては叩くくらいの可能性はあるけれど。基本的には大声を出すだけで・・・・なんなんだろうな?大声出せば全て丸く収まるとでも?


「あーもう!何なのよ!?あのオヤジは!?」


「ご、ごめんなさい!」


「あー違う違う!ユキちゃんが悪い訳じゃないからね~?ごめんね~。おっきい声だして・・・・あら?起きたのね?おはよ。」


「おはようございます。」


 カリカリモードの戸崎さん。そんな姿もマジ女神。


「ダメッスか?」


「ダメッスよ。全っ然!話にならないわ。堂々巡りよ、堂々巡り。もう呆れと苛立ちで男二人に任せてきちゃった。」


 男二人って・・・・いや、剛田警部はどうでもいいと言うか、この中では適任?と言えなくもない。一応刑事だからな。そんな人間同士の諍いの仲裁もお仕事の一環。だけど、もう一人って綾田でしょ?大丈夫なのか?それ。ってか戸崎さんも刑事って話だから仕事として今まで経験してきたはず。そんな戸崎さんが匙を投げるレベルなら剛田警部も一緒では?え?なに?益々心配になってきた。

 別にあのバカなおっさんはどうでもいいんだけど、変にストレスとか抱えられても、ね?


「全く。バカの相手してる暇ないってのになぁ。」


「ホントよ!一刻も早くあのモンスターの集団を倒さなきゃいけないってのに・・・・ハァーア。」


 ため息を溢す姿もマジ女神。な戸崎さんの言う通りだな。どれ、助けになるかわからんが俺もちょっと顔出しますかね。真面目に心配でもあるし。変にストレス溜められても後々困る事になるだろうし。


「ちょっと行ってきます。」


「貴方は別に休んでて良いのよ?と言うか今は休むべきでしょ?貴方の場合は。」


「そッスよ。休んでればもしかしたら【具現の力】の回復も早くなるかもしれないッスし。」


 そうは言ってもなー。


「貴様らいい加減にしろ!!俺は社長なんだぞ!!黙って言うことを聞け!!」


 うん。マジうるせぇ。


「やっぱ行ってきます。」


 一発ぶん殴ってやる。剛田警部は職業柄そんなこと出来ないだろうし、綾田もなぁ・・・そんな性格じゃないだろうし。


「まぁ、無理には止めないけど。」


「適当に顔だして戻ってきますよ。」


「ハァー。一応オイラもいくッスよ。」


 なんで?


 ま、いいや。


 テクテクっと。


「貴様の言い分は、今の世どころか貴様の縄張りから一歩でも出れば通用しない。と、何度言えばわかる?」


 おぉ。やってるやってる。


「そんなものは知らんと何度言えばわかる!?ワシは社長!貴様ら愚民とは価値が違うのだ!そんな事もわからんからワシが指示を出してやると言っているのだ!!」


 うっはー。マジキチガイ。

 どれ一つとってもあのバカの言い分はミジンコ一匹分も理解出来るものではない。


 うっしゃあぁ!!やったるで!!!


「うっせぇんだよ!!ボケが!!!!」

「グギャ!?!?」


 はぁー・・・・スッキリ!!


「ちょ、高田さん!?」


「・・・高田君。いきなりそれはちょっと不味くないか?」


「良くやった」


 えー。褒めてくれるのは綾田だけぇ?そんなぁー。


「んふ。いい気味だわ!」


 おぉ!女神よ!貴女のそのお言葉だけで俺は身が震える思いです!・・・って、何故にここに?


「流石に一般人の高田くんが頑張ろうって時に警察官の―――警察官の私がのんびりしてる訳にもいかないでしょ?安心しなさい。ユキちゃんは置いてきたから」


 いや、そりゃ、こんな場面にユキちゃんを連れてくるのは当たり前に無しですけど・・・。


「き、きざま!?何をずる!?」


 ん?んだよー。やっぱ素人のパンチ一発じゃお気に召さない?も一発行っとく?


「ヒッ!?く、来るな!!」


「ストップ。高田君。流石に止めさせてもらうぞ」


「・・・まぁ、そりゃそうですよね」


 そんなゴツい手と体で止められたら行きたくても行けませんわ。いやー。しっかし、剛田警部って改めて見るとホントゴツいわ。どう?貴方も一発行っときません?


「フゥー。目黒さん。貴方の言い分は何一つ正しくはありませんし、それをこの場の皆に強要させる事も出来ません。ここに居るならば皆と協力する事が絶対条件。あなた一人が優遇される事はありません。

 それが嫌ならば、どうしても我慢できないのなら、出て行ってください。

 私は警察官であり、市民を守る義務があります。ですが、周囲は助けも来ない様な危険地帯、危険な世界になってしまっています。そんな今では貴方の様な人は守れません。貴方を守る事でより多くの人が危険に晒される。警察官としても、人としても、貴方の言い分は認められません。」


 お、おう?


「ど、どうなってるんですか?あれ。何か「剛田警部らしくない?」・・・失礼ながら」


 戸崎さんの言う通り『らしくない』。思わずその場で声を潜めて聞いてしまうくらい『らしくない』です。何せ『ゾンビは人である説』を謳った人ですよ?

 俺が知る剛田警部だったらたぶんこのおっさんを受け入れる。そんでぎくしゃくしながらも誰も彼もを守ろうとしていたはず。


「フフッ。どうも、ね。あのゾンビの話の一件で色々思う所があったみたい。何かそれから色々と吹っ切れたみたいよ?」


 へー。


「ぞ、ぞんな事が許される「許される」・・・・」


「貴様が宣う戯言を貴様自身が許す様に、この刑事の言い分も許される。僕や刑事自身、そして、この場にいる貴様以外の者がそれを許す」


 あれれ~?綾田が格好良く見える。

 ック!?何故だ!?


「理解したな?では選べ。残るか出て行くか。」

「残「言っておくが、ここに残る為に嘘をついた場合。僕達は誓って貴様を排除する。慎重に選ぶ事だな」・・・」


 容赦ないね?綾田くんよ。


「・・・・クッ!こ、こんな所誰が残るか!!こちらから願い下げだ!!」


「了解!では!お帰りはアチラから!お元気で!!」


 さよなら!


 え?・・・なに?なんでびっくりしてんの?まさか引き止めるとか思ってた?

 んな訳あるかバカが!!


「た、高田さん・・・」

「高田君・・・」

「ちょっと引くわよ?」


 えーー。みんな酷くない?


「安心しろ僕は同意見だ」


 いや、別にお前はどうでもいいや。


「お、覚えてろ!!」


 セリフまでバカ丸出しとかマジでバカ。


「・・・はぁ。本当にこれで良かったのか・・・そう考えてしまうのは俺の悪い所だろうか?」


「そんな事はないですよ警部。私だって警察官ですからね。もっといい方法があるかもってちょっと思いますけど、現状を考えると他に方法がある様にも思えません」


 思わず、と言ったところかな?剛田警部や戸崎さんの職業柄、『全てを救いたい』と思うのは当たり前。普通の感性を持っていればただの一般人だってそう考える。勿論俺も。

 戸崎さんが語る想いだって全然不思議な事ではない。


「『全てを救う』。そんな御大層な事を考え、それを実行したいならをより良くすることだ。現状では僕達自身が不安定であり、明日の事でさえ保証できない。『全てを救う』ならば、今を保証できるよう精一杯生きる他ない。保証出来て初めて他に手を差し伸べるべきだ」


「あぁ。そうだ、な。わかっている。

 いや、君達のお陰でわかる事が出来た。目黒さんには悪いが、現在の俺達では彼をこの場に留めるのは悪手だ。下手をすればここにいる全員が死ぬ可能性さえある。

 ―――わかって、いるさ」


 剛田警部は、そんな事を言いながらも両の手を固く握っている。表情からも苦々しさが伝わってきて、この結果に満足はしていないのはわかる。


 ホント。優しい人なんだな。


 どちらかと言えば『清々した』と喉元まで出かかってる俺とはエライ違いだ。全員救いたいとは思うよ?でもクソ野郎は別!


 心配そうに警部を見つめる戸崎さんとペガサス。仕方無いやつだと呆れながらも少し優しげに見る綾田。


 俺って、もしかしなくても相当なクズ?何となく俺がここに居て良いのか不安になってしまう光景だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 嫌な気分にさせられた翌日早朝。

 クッソ眠い・・・。おかしいな?アホみたいに寝たはずなんだが?


「さて、それじゃ予定通り私達は夕方くらいまでには帰ってきますが、その間、留守をお願いします。剛田警部」


「ああ。任せてくれ。そっちも気を付けろよ?

 とは言え、戸崎君と天野君がいるから心配はそれ程していが、な?だが、不測の事態は突然起こるものだ。十分に注意してくれ」


 わかってまーす。


 さて、各々が頷くやら返事するやらを済ませて歩き出した。俺は最後にユキちゃんの頭をナデナデ。


「気を付けてくださいね。お兄さん」


「勿論。心配はいらないよ」


 ユキちゃんの心配する言葉に思わずほっこり。剛田警部にも「よろしくお願いします」の一声をかけて、さぁ、出発!


「おい。何をしている。サッサと行くぞ」


 へいへい。

 全く、少しくらい見送りとやり取りするくらい我慢できんのかね?綾田くんは。せっかちな子供か?


「―――納得したとはいえ、本当に大丈夫かしら?剛田警部にユキちゃんを任せちゃって・・・」


 言わないで?戸崎さん?心配になってくるからさ?


「ゾンビに関しての話で不和が生じたとはいえ、元々悪い人間ではない。それは元から付き合いのあった戸崎が一番わかっているんじゃないのか?」


 おいこら。何サラッと呼び捨てにしてんだよ?いくら苗字だからって許される事じゃないぞ!綾田!!しかも戸崎女神様は俺たちよりちょっとだけど年上だかんな!?ちゃんと敬称つけろや!?


「わかってはいるんだけど、ね?」


 あっはぁーん。不安げに曇る表情!揺れる瞳!!マジで女神!!!尊いわぁ〜。


「だったらユウカちゃんが残れば良かったんじゃないッスか」


「それが出来たらなんの問題も無かったわよ。バカサス」


「バカが。戦力的に考えてこの布陣が現状最適解だ。それくらいわかれ、バカが」


「ふ、二人してバカバカって!酷いッス!それに何ッスか!?バカサスって!?」


「バカがバカと言われるのは仕方ない事じゃないか?バカサス」


「た、高田さんまで・・・」


「コチラは遠出の為に戦力は揃えていたい。あちらの留守番組は昨日の様なバカか阿呆が現れ危害が加えられる可能性がある。よって、向こうにも戦力が必要だ。

 戸崎一人では戦力に不安がある。元々警察官とはいえ、女性だ。力の部分ではどうしても不安が残るし、女相手だと相手が図に乗る恐れもある。よって、この布陣だ。理解したか?バカが」


 あ、そろそろ止めたげな?ちょっとペガサスがガチで凹んでるからさ?


 にしても、やっと――――戸崎女神様とお出掛けだぜ!!ヒャッホー!!

 お供が居るからそこは残念ではあるけれど、まあそれはいい。お供が居て空気が緩い間に少しでも距離を縮める!そしてゆくゆくは二人っきりで・・・ッキャ!


「っ!?ブルッ」


「?どうした戸崎?」


「な、なんでもないわ。なんかちょっと変な悪寒が・・・」


「フム?風邪でもひいたか?―――今日は戻るか?」


「大丈夫よ。別に体調が悪わけじゃないから」


「そうか?―――まぁ、季節の移り目だ。気を付けるんだな」


「ええ。そうするわ」


 ・・・・・・・・その悪寒って俺の思考の所為でしょうか?だったらマジごめんなさいです。

 しか〜し!綾田と仲睦まじいのはどう言うことなんでしょうか!?そこは素直に正直に許せないんですが!?


「高田さん高田さん。すんごい顔してるッスよ?何となく想像できるッスけど・・・大丈夫ッスか?」


「も、問題、ない・・・!!」


「そうは見えないのが心配なところなんッスけどね?」


 うっせ!黙って歩け!バカちんが!!


「あら、お客さん、ね」


 いや、戸崎さん?『お客さん』って何気軽に呑気に微笑んでるの?


「ペガサス。相手は2体。私が相手するわ。手出しは無用よ」


「はいほいッス。了解ッス」


 は?―――え?はぁ!?


「いやいやいや!ペガサス!?何をシレッと了承してんの!?」


「まぁまぁ、大丈夫ッスから!」


 ちょっ!?お前!マジふざけんなよ!?我が女神様にもしもの事があったらどうすんだよ!?!?


「ちょっ!とざ――――って、はんやっ!?」


 なんで!?戸崎さん普通の人だよね!?いや、女神様ではあるんだけど―――いや、そうじゃなくて!なんでそんな足はえぇの!?


「あっれぇ〜??」


「いやー不思議ッスよね?」


「なあ綾田」


「何だ?」


「別に留守番って戸崎さんでも良かったんじゃね?」


 普通に・・・普通に?いや、異常に?強い。危な気がない、とでも言えばいいのだろうか?

 ゴブリンの攻撃は余裕を持って避けてるし、何なら攻撃そのものを蹴りとバットでさせなくしてる。その所為かはわからないけど攻撃の威力は弱いとは思うけど、着実にダメージは入ってる。あっ、一匹倒れた。まだ死んではいないみたいだけど、もう立てない感じ?


 そうこう思ってたらもう終わっちゃった。凄いわ。

 ただ―――一言だけいいでしょうか?


「エグい」


「トドメは重要でしょ?」


 いや、そりゃそうだけどね?戸崎さんの言いたい事はわかりますよ?でもさ、倒れた奴の頭にバットを振り下ろす!なーんて『エグい』以外に表現できないんですが?


「それにしてもビックリしましたよ。普段から見回りとかしてるんだし、警察官なんだから闘えるのは不思議じゃないんだけど・・・」


 正直女の人なんだから『自分の身を守れる』くらいに闘ってるのかと思ってた。なんとなく、イメージ的に、ね。美人だし。


「元々腕っぷしには自信があったのよ?でもね、私これでも女だし、それに『暴力』って警察官がそうそう振るっていいものじゃないでしょう?『やり過ぎましたー』『死んじゃいましたー』とか冗談でも出来ないことだったしね」


 そっかー。腕っぷしに自信があるのかー。


「でも今は逆に『暴力』が必要な時でしょ?変に『女だから』とか『世間体が』とか気にしてられる状況でも無い。だから、ね?」


『ね?』ってめっちゃ小首を傾げる姿はカワイイ。でも、内容はバイオレンス―――。


「僕は正しい判断だと思うぞ。是非ともそのまま活躍してくれ」


「おうともさ!まっかせなさい!」


 おいこら綾田。何しれっと点数稼いでんだ?あぁん??


「高田さん、高田さん。顔、顔」


 うっせ!バカサス!!


 戸崎さんも戸崎さんで褒められたからってキャラ崩さなくても良いんじゃないでしょうか!?


「さて、そろそろ行くぞ。時間は有限だ」


「そうね。行きましょう」


「はいほいッス」「了解」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「や、やっと着いたぁーー」


 思わず語尾を伸ばしてしまうくらいには遠かったし疲れましたぞ。


「なあ、綾田。なんか別の移動方法って使えないのか?」


「現状無理だな。懸念事項が多すぎる。

 車などは移動は早いが駆動音に問題がある上に、何かしら問題があった場合は直様すぐさま身動きも取れない。わざわざ降りなければならないからな。駆動音に関してだけで言えば、電気自動車という手もあるが、問題はまだまだ希少な物で入手自体が困難。補給も電気がいつまで使えるのかわからない今となっては問題になる。

 バイク関連も車同様駆動音の問題がある。それに車よりは身動きしやすいとは言え徒歩よりは格段に身動きは阻害される。

 次に自転車か?同じく身動きがし辛い。

 以上だ。何か言いたい事は?」


 ありません。


「無いようだな。ならばさっさと歩け。何時までも外に居ては目的が達成できん」


 あいあい。


「とは言え中がどうなっているのかもわからん状況だ。入る前に少し休憩してから行くのもいいだろう」


 って、ウォォイ!!

 でもまぁ、休憩ならば大歓迎だ!


「―――どうする戸崎」


 おいこら、また呼び捨てとかいい加減にしろやコラ。


「そうね。私も休憩に賛成よ」


 女神様の決定である!!休憩じゃ!!


「そこの警備員室で休めばいいだろう」


「そうね。ペガサス。悪いけど中の安全確認して来てくれる?」


「はいほいッス!」


 いってらっしゃ~い。


「僕たちは周辺の警戒だ。何かあったら教えろ」


 あいあい。


 ん〜特に何もなしだな。

 いや、こうなる前の日常では途轍もなく異常な状態だけどな。普通に壁とかに血の跡あるし、所々破壊されてるし、何ならあれ絶対血溜まりだった所だよな?とか邪推しちゃう跡とかあるし!あ、あれゴブリンじゃね?いや、間違えたゴブリンの死体じゃね?


「アヤタモ〜ン」


「妙ちくりんな名で呼ぶな、阿呆が」


 だって君も俺の事名前で呼ばないし?別に良いじゃん。


「あれってさ、俺ら以外に誰か居るって事かね?」


「ん?ほぉ。ゴブリンか。―――どうやら、死んでいる、か?」


「わからん」


 遠目には全く動いていない様に見えるし、死んでるとは思うけど・・・下手したら罠の可能性もある?死んだふりしてて近付いて来た奴を襲う!的な。


 いや、そんな知能あるのかすらわからんけど、創作物では大抵ゴブリンってバカだからなぁ。安易に考えるならその可能性は無いと言えるけど・・・。


「あのゴブリンから目を離すな。天野が戻り次第全員で確認しに行く」


「了解」


 んで、俺は見張りを言い渡されたけど、君は?


「戸崎を呼んでくる」


 だっからさぁ!呼び捨て止め―――はぁ、まぁ、もういいや。


 ―――――――――――――――暇だね。


「どう?」


 ウホッ!これはこれは!女神様!!

 はぁ~~美しい!


「特に動きは無しですね」


「あれッスか?」


 あ、ペガサスも戻って来たのね。


「中はどうだったん?」


「多少散らかってましたけど何も無しッス。人が一人入り込むくらいの窓とかあるッスから安全とは言えないッスけど、少し休むくらいなら問題無しッスね」


 ・・・あ、あれ?何かペガサスらしからぬ報告なんだけど?


「あ、高田さん意外って思ったッスね?フフン!どうッスか!?オイラだってやるときはやる男なんッスよ!なので、バカサスとか不名誉な呼び方はしないでもらいたいッス!」


「大声だすんじゃないわよ、バカサス」


「そうだぞバカサス」


「そもそもその安全の確認方法は僕らが教えた事だろうが、バカが」


「ひ、酷いッス・・・」


 そんな事はどうでもいい。サッサと確認して出来るなら休憩にしようぜ?


 ってな訳でペガサス!先頭だ!ゴー!!


 ―――――――――――ソローり。

 ―――――――――――あ、うん。死んでるわ。


「あれ?ゴブリンって赤い血じゃなかったっけ?」


「―――その、はず、なのだが・・・」


 明らかにそれ、紫だよね?


「酸化現象、か?」


 いや、知らんよ。普通酸化したら黒っぽくなるんじゃないの?


「まぁ、いいじゃない。無事罠でも何でもないただの死体ってわかったんだし。休憩にしましょ?」


 女神様の言うとおり!


「まぁ、そうだな」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「そっれにしてもこの工場デカイッスね〜」


「まぁ、そだな」


 そんな風に関心出来ないけど、高校生ともなれば物珍しくなるのも仕方ない、かな?俺もこんな時期あった気がするなー。兎に角『会社』って言うものが珍しかった。

 こんな生産工場なんて知識では知っていても直接目にする事も足を直に踏み入れる事も無かった。

 初めての出勤なんてドッキドキだったよなー。――――最近はそんなドキドキとは無縁の無職で、違う意味でドキドキしながら面接に来てたけど!


「フム。工場の場所は知っていても、流石にどの建屋が目的なのかまではわからんな」


 当たり前だバカやろう。


「あー。確かアッチの方だったハズ」


「ん?何故知っている?」


「来たことがあるからって答え以外に何かあるのか?」


「フンッ!生意気な口だな」


「オメェにだけは言われたくねぇんだけど!?」


「あ゛ん?」

「お゛ん?」


「コラコラ、止めなさい二人共」


 イエス!マイ女神!!


「―――働いてでも居たのか?」


「残念でしたー。働きたくて来ただけですー」


「―――ハッ。なるほど。ご愁傷さまだな」


「お゛お゛ん?」

「あ゛あ゛ん?」


「だから止めなさい!」


 アウチ!!


 ッテへ!女神様にはたかれちった!


「でも高田さん、なんでココに?他にも工場あるじゃないッスか」


 いや、そりゃあるよ?何なら別に工場じゃなくても問題はないんだよ?でもね?


「コレが良いんだよね。コレが」


 人差し指と親指でキレイなキレイな輪っかを作る。そこに一つニヤリと笑みを付け加えれば、あら不思議。ゲス野郎の出来上がり!


「そ、それだけッスか?何か、こう、やりたかった事がある、とかないんッスか?」


「そんなんじゃなーよ。製鉄関係じゃなくて別にやりたい事はあっけどね?まぁ、俺には無理だなーって思ったから少しでも給料が良いとこを探して、応募した一つがココだっただけ」


「フンッ。『現実的に考えて』と言った所か?」


 あら?そういう『現実的に考える』とか『感情じゃなくて理論』とか好きそうな綾田クンがお気に召さない様だぞ?


「嫌いなのか?その考え」


「いや、嫌いではない。現実的に、理論的に考える事は僕の思想だ。嫌う訳はない。が、貴様には似合わんと思っただけだ」


 俺に似合わない?―――そうか?


「そうね。高田くんはどちらかと言えば、何も考えずに普段通り脳天気にやりたい事だけに突っ込んで行きそうよね?」


 え?何そのバカみたいなキャラ。いや、バカであるのは間違ってはいないけどさ?そんな何も考えてない訳じゃない、よ?多分。


「貴方は諦め悪そうだし、ね?」


 ウハ。マジ可愛いわこの女神様。小首傾げると同時に傾国しそうだよ!


「さて、各自休息出来たな?そろそろ出発だ。目的が早く終わらなければ、プラン変更になる。出来得るならばそうはなりたくない。貴様たちもそうだろう?」


「だな」「えぇ」「はいッス!」


「では、行動開始だ」


 さてさて、現時刻およそ10時前。お昼までには目的達成!としたいものですな。

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