第8話

「なんの用だ?」


 初対面の方々が並ぶこの状況で良くそのセリフが出でくるなぁ?ってか出せるなぁ?


 ほら見ろ!

 ペガサス君だって唖然だし、戸崎さんに至っては綺麗なお顔が歪んじゃってるんだよ!――――――あれ?なんか、俺もそんな顔を良くさせてる様、な?


「自己紹介くらいするもんだろう。俺は【剛田 正】だ。」


「【天野】ッス。」


 あれ?下のお名前は?


 あっ、冗談だよ?そんな睨むなよ〜〜〜〜。アッハッハ。


「【戸崎 優華】よ。」


「はぁー。――――【綾田 賢翔】。―――――これでいいだろ?」


 え?なに?もうお帰りですか?

 おうおう、サッサと帰りな!!目の毒で、耳にも毒で、ユキちゃんにはその存在が猛毒じゃ!!


「一つだけ質問したい。」


 ただ頷くだけって――――――すげぇな。相手はガチムキのオッサンだぞ?しかも警官だよ?せめてその腕組みやめろ?


「この辺りで人に襲われなかったか?」


「・・・人に?ゲテモノの類いじゃなくてか?」


 げ、ゲテモノ・・・・・。ん、んん。確かに?ゲテモノと言えばゲテモノだけどさ。素直に魔物とかモンスターとかで良くない?何故にわざわざゲテモノ呼びすんのよ?


「人だ。」


「――――無いな。」


「そうか」


 そうか。って、なに安心してんだこのおっさんは?


「見た目が人間の化け物になら襲われたけどな。」


「!?化け物、だと?」


 わーい。地雷踏んだー。


「それがどうした?――――あぁ。ここが襲われないか心配か?ならば安心しろ。僕を襲った化け物は処理しておいた。」


「っ!?処理、だと!?」


 はーい!2個目の地雷!ドーン!!


「貴様!人を殺したのか!?」


「――――何を言っている?」


 エマージェンシー!エマージェンシー!


「戸崎さん。すいませんけど――――」


「わかってるわ。ユキちゃん。お姉ちゃんとちょっと向こう行ってよっか。」


 バカ刑事の怒鳴り声に身を竦めていたユキちゃん。マジ――――可愛い!・・・じゃなかった。何怖がらせてんだよ!こんのクソ刑事!!

 それから綾田!いきなりおっ始めるなよ!?こっちにも段取りとか準備とかあるんだからな!?


 ユキちゃんが少し戸惑いながらも戸崎さんに連れられ離れていくのを確認。――――ヨシ!

 廊下にまで行っちゃったけど、多分隣の寝る部屋かな?ナイスです!


 流石に部屋が違えばこのアホの声も届かんだろう。


 先ずは――――


「剛田さん。悪いんだけどさ。小さい子供もここには居るだよ。もう少し考えてくれないか?」


 こんのアホクソ刑事に一言言わんと気が済まん!


「何だと!?」


「あ゛?」


 おいこら。なんだその返事は?マジで何で警官なんてやってたんだよ、お前は。


「おっちゃん!ちょっとは落ち着くッスよ!高田さんは何も間違えたことは言ってないッス!」


「――――――悪かったな。」


 謝るならキチンと謝れや!?お母さんにそう教えてもらったでしょ!?


 ハァー。もういいや。


 次!

 聞きたい事があるだよ!

 さっさと答えてもらおうか!クソ野郎!


「綾田。襲われたのはこの近くか?」


「いや、少し離れた所だな。時間にすれば歩いて・・・一時間程度か?方角はあっちの小学校の方だ。因みにこの近くでは人の形をした化け物も、ゲテモノも見ていないな。」


「あー。それ俺たちが居た学校ガッコの方ッスね。」


 なるほど。


「そんなことはどうでも良い。」


「そんなこと?いやいやいやいや。かなり重要な情報でしょ?もしこの近くなら今すぐにでも何か対応しなきゃいけない事だ。」


高田コイツの言う通りだな。」


 ん。不覚にもこんなクソの綾田だけど、同意されてちょっと嬉しいぞ?


「その話は後だ!今はあのの事だ!!」


「・・・・おい。」


「何だよ綾田。」


 ほぼ初対面なんだから呼び方気を付けろい!


「この男は本気で言っているのか?」


「そうみたいだな。俺も昨日その話で怒鳴られたよ。」


 いや、もう、本当に勘弁してほしいんですけど?


「あの人達はただの病気かもしれないんだぞ!

 それを確認もせずに殺すなんて間違っている!」


「・・・・・高田コイツにはさっき言ったが、僕は医学を嗜んでいる。勿論本職の医者程とは言えないがそれでもハッキリと言えるのは、あいつらは『死人』だ。死して尚動くだ。

 これは貴様がどれだけ吠えようとも、どれだけ信じなかろうと変わらぬ確然たる事実だ。」


「そんなはずはない!」


 いやもう、何なんだこのオッサンは・・・・。


「『そんなはずはない』、か。

 僕は人がこれまで築き、研磨してきた医学的知識であいつらを化け物と判断した。

 では、貴様が『違う』と言い張るその根拠はどこから来る?」


「・・・・・人は、人は死ねば動かない!だがあの人達は動いているじゃないか!?

 それが根拠だ!!」


 あぁ。なんか頭痛くなってきたわぁ~。


「なるほど。つまり貴様はあれが一種の『仮死状態』である。と、そう言いたいわけだな?

 では、何故『仮死状態』の者たちが動き、あまつさえ僕たちを襲う?その理由は?」


「い、一時的に狂暴に、なっている?からだ!」


「『仮死状態』に加えて『凶暴化』、か。

 ―――――――あり得んな。

『仮死状態』は謂わば『停止』している状態だ。厳密に言えば極僅かに生命活動をしていると言えるが、殆ど『停止』していると言える。

 そして、逆に『狂暴化』と言うのは明らかに『活動』だ。

『停止』と『活動』。

 いくらなんでも正反対のこの2つの性質が同時に起こるなど、理屈が通らん。」


「――――――――。」


 あーりゃりゃ。黙っちゃったよ。

 まぁ、すんごい歯軋りの音がするから?納得はしてなさそうだけど・・・・・ハァーア。


「おっちゃん。

 体がどんな状態でも普通に動いてる時点であり得ない状態じゃないッスか。そんなのおっちゃんだってわかってるッスよね?

 それに加えてこんなに丁寧に説明されてるんッスから――――――いい加減に認めるッスよ。」


「・・・・・・・。」


 お?やっとわかったか?


「だとしても・・・だとしても!

 俺はあの人達を、化け物とは認められない!

 ましてや、殺す、など・・・」


 まぁ、そこは人それぞれだろうなぁ。


 あのモンスターたちだって普通に考えて『生命体』である。その『生命体』のと言う行為は中々にハードルが高い。――――少なくとも善良な人間にとっては、ね。


 しかし、まだあのモンスターたちは人間の見た目からは程遠い。形こそ人形ひとがたと言えるが悪鬼の様な見た目の(仮称)ゴブリンと、狂暴な二足歩行の見た目犬な(仮称)コボルト。

 それらに対しては、多少の抵抗感があろうが自分の身を守るため、そして、誰かを守るためにその命を奪うことが出来るだろうし、別段出来ても


 だけど、ゾンビの見た目は完全に『人間』。


 その姿が生命活動不可能だとものだったとしても、モンスター相手に感じていた『命を奪う抵抗感』とは比べのものにならない抵抗があるだろう。


『モンスターは殺せるが、ゾンビは殺せない』


 そんな人がいても不思議には思わない。そこは理解できるけど・・・・・。


「剛田さん。貴方がゾンビを殺すのに躊躇する事はわかる。きっと誰だってその気持ちはあるはずだ。

 だけど、昨日も言った通りやらなきゃ此方が危ないんだ。例えその場凌ぎで自分の命だけを守りつつ、そのゾンビから逃れたとしても、そのゾンビは次は誰かを殺すかもしれない。―――もしかしたら、貴方の大切な人が殺される事になるかもしれない。

 そうならないためにもゾンビを殺せる、対処出来る人間はそうするべきだと俺は思う。

 だから、貴方は手を下さなくても良い。いや、出来るのならした方がいいのは確かだけど、無理にする必要はないと思う。他の誰かにお願いすれば良いんだ。それが、協力ってもんだろ?剛田さんは剛田さんが出来ることをすればいいんじゃないか?ゾンビ、あのを足止めするだけでもいいと思う」


「・・・・・・言いたいことは、わかる。いや、頭ではわかってるんだ。高田君の意見に賛成も出来る。頭では、な。

 だけど、な。感情が納得してくれねぇんだよ。俺は刑事だ。市民を守るためにこの職に就いたんだ。なのに―――――――――」


 おぉ。なんだ、わかってくれてはいるみたいだな。


「一つ、僕から言わせて貰おう。

 正直に言うと僕はその感情の葛藤が今一理解できない。僕と言う人間にも感情は勿論あるが、感情よりも『必要か』『必要ないか』、でしか判断しないし、出来ない。そう言う風に生きてきた。

 そんな生き方を強要するつもりもない。例え強要したところで普通の人間には無理な事は理解しているからだ。

 だから、貴様も強要はするな。

 理解を求めることは悪いことではない。だが、この件に関して言うなれば理解を求めるのは間違っていると僕は考える。

 貴様が強要すればするほど、理解を求めれば求めるほど、その相手は、その周囲は、命を無くす確率が格段に上昇する。

 それは貴様も本意ではないだろう?」


 おや?おやおや?

 意外とコイツ・・・・・。


「おい。なんだその目は?」


「え?いや、意外、と言うか何と言うか――――。」


「フン」


 ありゃ?恥ずかしいの?ねぇねぇ!恥ずかしいの!?

 そんなそっぽ向かないでこっち向いてみ?ん?んん?


「はぁ―――――わかった。いや、わかるはしていこう。

 そうだな。・・・・・・確かに彼らは生きているはずがないほどの重症で動き回っている。

 普通に死んでいるはず、だ。それはつまり、モンスターの、仲間、になってしまっている。

 それを守ろうなどと―――――こうして話すことが出来るお前たちを危険に晒すこと、だよな。

 正直今すぐに納得も出来ないし、考えを改めることも難しい。少し時間をくれ。」


 おぉ!よかった!

 平行線かと思っていたけれど、何気に親切に諭した綾田のファインプレーだな!俺には無理だな!オッサン程ではないけれど、俺も頭に血が上りやすいし、すぐカッとなって懇切丁寧には説明できない。

 それに、あんなに話の逃げ道をきれいに潰して話せない。


 ナイスだ!綾田!口調と態度は最悪だけどな!!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


「へぇ~~。あの頑固者の剛田警部がね~。そりゃ意外だわ。」


 俺も意外です!


 はぁ~~。それにしても・・・・・尊い!


 美人で巨乳な女性が幼い美少女を膝枕&頭ナデナデ・・・・・。二次元でしか見たことねぇぞ!

 コンニャロメ!!


「ねぇ?ちょっと、さっきから少し気持ち悪いんだけど?顔が。」


「グサッ!」


 ひ、ひどい!


「ま、いいわ。今はちょっと気分良いし。明日からは普通にゾンビもやっちゃって良いのよね?」


 ぶ、物騒ッスね!

 決して笑顔で言う台詞じゃないと思います!


「綾田くんには感謝だわ。事前に聞いた話と第一印象は最悪だし、仲良くはなれそうにないけど、ね。協力関係は築いていけそうでそこも安心できたし。」


「あっ、それは俺も思いました。

 俺のこのチカラの事も、口はべらぼうに悪かったですけど、検証するための知恵を貸してくれましたしね。」


 多分これからも何やかんやで助けてくれそうだし。・・・相談役?的な感じだな。口は本当に悪いけど・・・。


「それにしてもありがとね。」


「?何がですか?」


 感謝される事あったか?

『それにしても』と頭に出したくらいなんだから剛田警部の事じゃないよな?そもそも剛田警部の事は俺ではなくて完全に綾田の功績だ。


「ほら。デスクとかイスとかの事よ。

 帰ってきたときは何事かと思ったけど、良く良く考えてみれば『避難所』として使うんだったら必要なことよね。気がつかなかったわ。

 だから、そうね。

 2つの意味でありがとう。

 片付けとそこに気が付いてくれて。」


 あぁ~~。・・・・・・。

 それ、俺じゃねぇし。いや、片付けに関しては素直に「どういたしまして。」も言えるんだけど――――。


「残念ながら片付けを提案してくれたのはユキちゃんなんですよね。情けない話ですけど・・・。」


「そうなの?」


 yes!


「まぁ、だとしても必要性をキチンと感じてくれたからこそ行動に移ったんだろうし。やっぱり、感謝の気持ちは変わらない、かな?」


「あぁ~。なんか、逆にありがとうございます。」


 素直に評価され誉められるのは―――恥ずかしいっすわ。


「ユキちゃんにもお礼言わないとね。」


「そうですね。」


 俺からも明日お礼を言おう。

 先に気が付くべき大人たちが揃いも揃ってヌけてたことをこの子は考えたんだ。普通にスゴいことだし、感謝するのは当然なんだよな。だけど、俺は感謝する時間はあったにも関わらずそこにすら気が付かなかったわけ。


 うん。普通に情けねぇわ!


「さて、明日も私たちは外を見回ってくるわ。

 残念ながら今日は誰とも出会えなかったけど、小学校から逃げ出せたのは私たちだけじゃないしね。」


 ん?

 逃げ出せたのは自分たちだけじゃない?ではなくて言い切るの?


「他に生存者がいると断言できるんですか?」


「そりゃそうよ。私たちが最後まで残ってたんだからね。先に脱出した人達がそれなりに居るわ。」


 あ、そうなのね?

 殿しんがり的な事をしたってことなのかな?ってかその殿から生きて逃げ出せるってすげぇな。


「っと言うわけで――――――。」


「?」


 え?なに?

 めっちゃ笑顔だけど・・・・・何故かめっちゃ怖い!


「はぁ。高田くん。貴方モテないでしょ?」


 は?・・・・は?え?は??


 いきなり何の話ですか?これは?

 何故にディスられてるの!?


「そんなだからチェリーちゃんなのよ?」


「!?ど、どどどどどど童貞ちゃうわ!!」


 いきなり何言ってんのこの人!?


「さっさとここから出なさい。明日も頑張るために私はもう寝たいのよ。その辺気を掛けてあげないと恋人なんて夢のまた夢よ?」


「グゥッ!!」


「それからユキちゃんが寝てるのに大声出すとか、その辺も大減点対象ね。起きなかったからよかったけど、起きてたら今頃、〆てるわね。」


 も、申し開きもできねぇ。


「お、おやすみなさい。」


「はい。おやすみ。」


 だからこれは逃走じゃ、ない。せ、戦略的撤退って奴だ!


 さ、最後に振り返るくらい良いよな?二人の尊き御姿を―――――













 ――――――ハッ!?


 あれ?天使を癒しながら女神様がお見送りしてくれてた筈なのに・・・・。


 めっちゃ良い笑顔の美人が手を振る姿が尊すぎる。あれを見てから俺、記憶ないんだが?


 誰か知りませんか?


 気が付いたら寝床で、正気に戻ったら朝でした。


 夢でもひたすら戸崎さんが手を振ってた気がする・・・。あぁ。思い出しただけで・・・・「あら、今日は起きてるのね?チェリーちゃん。」


「ど、どどどどどど童貞ちゃうわ!?」


 何でその外見でそんななの!?

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