第6話
「つまりペガサスくんは、あのメールに『剣を使う圧倒的な才能』を望んだわけだ?」
「簡単に言うならそうッスね!ってか、ペガサスって呼ばないでくれッス!!」
情報収集のためにペガサスくんとの話が始まり、先ずはジャブ。軽い、というか、時系列的な感じで話を進める。
初めは「何を望みますか?」との記載がされたメールについて。
俺としてはかなり大事な話で、寝付いたユキちゃんの傍に居たいのをグッと我慢しての活動。あ~戸崎さん。その場所変わってほしい!俺が「ユキちゃんの傍に居て」と頼んだんだけどさ!変わって欲しいよ!ストレスが凄いんだ!!
絶賛ストレスをマッハで加速追加しているナウ。
その問題のストレス発生装置と化している警察官の剛田警部。あのオッサンずっと俺を睨んでくるんだけど?どうにかしてくんない?
「因みに俺は『錬金術』を望んだ。かなり要約してね。」
「つまり、オイラみたいに長々とあの怪しげでバカらしいメールに大真面目に答えたわけですね?」
ザッツライト!
30分以上かけたからな!
ガッチリ握手だ!友よ!!
「オイラのは簡単に使い方?がわかったんッスけど、高田さんはどうやって使うんッスか?」
「まだ、完全には理解できてないんだけど・・・」
使い方、何て事はあのメールには書いていない。それはペガサスくんも。
だから、使い方が今一わからない。俺の送った望み。それに勝手に『使い方』が付け加えられて、色々と条件設定されているようだ。
余計なことしやがって!
えい!ってやって、ペカーってなって、ホイッて感じで良かったのによ!!
冗談はさておき。
取り敢えず錬金術と呼ばれるモノについてと、俺の考えをペガサスくんに話す。それと同時に頭の中を整理しよう。
基本的に錬金術とは科学である。決してファンタジーなモノではない。少なくとも本来の意味では。だからなのかはわからないけど、必要なのは【鍋】とか【コンロ(火)】とか、あと【ザル】なんかの機材や道具が必要であり、また材料、素材と言った消費するものも必要。
わかっている事は、手に持ったり、目の前に必要なモノが揃ってる状態でチカラを使う意思を持てば何となく感覚?で『チカラが使えるぜ!』ってなる事。
あとは、実際に錬成を実行するやり方も。まぁ、
他は一切わからない。
錬成出来たものも【カップ麺おじや】とかの別に錬金術を使わなくても普通に出来るじゃん。ってものだけだ。
メリットしては、普通の食事に比べて簡単に出来ることと、変なバフ効果があることだ。
「なるほどなるほど。色々と試さなきゃいけないことが多そうッスけど、結構有用な感じッスね!」
「確かにな」
さて、話の続きだ。
一番気になっているのは【アルケミー】についてだったが、他にも確認したいことが2つ。
「【盾の領域】と【具現の力】についてわかってることはある?【具現の力】については【アルケミー】を使う時に消費するから、ゲームで言うところのMP的なものだと思ってるんだが、そう考えると【盾の領域】はHP的な感じか?ってのが俺の予想だ」
「オイラの考え的にもそれでほとんど正解ッスね。オイラが考察できてるのは【盾の領域】についてだけッスけど。
【盾の領域】は厳密に言うとHP、所謂ヒットポイントとはちょっと違うみたいッス」
ほほう?
「と言うと?」
「ゲーム的な話で、HPの場合は攻撃が当たれば減るッスよね?【盾の領域】もそこは変わらないんッスけど、HPは体に直接攻撃が当たると減るって感じだと思うんッスよね。つまり現実だと怪我しちゃうと思うんッス。あと腕とか足とか無くなることも考えられるッスね。でも、【盾の領域】はこの数値が0になるまでは、絶対に体には当たらないッス。所謂『バリア』みたいなものとオイラは考えてるッス!」
なるほどぉ~。
それならばユキちゃんの【盾の領域】の数値と俺の数値がそんなに変わらなかったのにも納得できる。
「因みにこの【盾の領域】の数値は身に付けてる物で変わってくるッス。裸なら0とか1とかかなり低めで少し個人差があるッス。普通の服とか靴で多少は数値が違うッスけど、1つ辺りだいたい1か2ッスね。それから【盾の領域】を消費しきったものは消えて無くなるッス!ドでかい攻撃食らっていきなりスッポンポン!ってのもあり得るッスからご注意ッス!!【盾の領域】が減るのは基本的には当たった場所にある『防具(服)』が優先されるッスけど、ほんのちょっとだけ他の所にも分散して減っちゃうみたいなのでご注意ッス。服だけ変えて他の所の確認を疎かにしてると・・・・パンツだけ無い!とかなるッス!」
おぉ!意外と、って言っては失礼だけど言っちゃう!意外と!細かいところまで調べたのね!何気に優秀なチャラ男だな!!
あー。でもそんな服、と言うか防具の【盾の領域】を個別には確認できないよな?―――――あー。全部装備?着て?から自分のステータスで【盾の領域】を確認するしかないか?
そこのところはどうなんでしょうか?
「その通りッスね。だから、基本的には出掛ける時とか、着替えたときとかこまめにチェックすることをオススメするッス!」
あー――――正直面倒だね。まぁ、仕方ない事ではある、か。
「だけど、本当によく調べたな?」
「色々検証したッス。ゲームとかアニメとかマンガとかの知識であれやらこれやらやったんッスけど、これくらいが限界だったッス。本当ならこのステータスの板を直接とか思考とかでスキルっぽいチカラの事とか、職業らしきモノの詳しい説明が出るのがテンプレッスけど、何も出ないんッスよね~」
それは俺も試したな~。
何も反応がないから「何でだよ!?」って1人で突っ込んでた。
「逆に【具現の力】については消費することすら出来なくて全然わかってないッス。回復は勿論するんッスよね?」
「する。と言えばするね」
「おぉ。知ってるんッスね?でも、ハッキリしない言い方ッスね?」
説明しよう!
「ハッキリと検証した訳じゃないけど、1回復するのに12時間必要だった。寝てても起きててもそれは変わらなかった。ただ、他に回復方法があるかもしれない。その辺は検証出来てない」
「ん~。要検証ッスね。何で寝たりして休んで数時間とかじゃなくて、12時間なのか意味不明ですし。」
それは俺も思った。
「あとは何か話すことあるッスか?」
「ん~?強いて言うならモンスター関連と、あとは【アルケミー】で使える様な『素材』に心当たりがあるかを聞きたいかな?」
ファンタジーを題材にした創作物だと、そのままズバリ【薬草】!とか分かりやすい名前がある。序盤などでその存在を誰かしらが教えてくれるけど、今、ここ、現実世界の地球で、日本なんですよね~。
地球で【薬草】の立ち位置にある物って何よ?
「素材に関しては、もしかしたらモンスターのモノとか使えるかもしれないッスね。当たり前って言えば当たり前の事なんッスけど、あいつら普通に死体残るんで。ちょっと、いや、かなりハードルは高いッスけど・・・・・。」
「あ~残るのか・・・。まぁ、それなら確かに使えそうではあるな。解体とか出来んけどな~。したくもないけど!」
「同意ッス!」
薬草とか植物関係の素材になりそうなものは―――――あぁ。植物系の物は植物図鑑でわかる、かな?後でスマホで調べてみよう。
「モンスターについてッスけど、さっき言った通り死体は残るッス。さして重要なことじゃないとは思うッスけどね。
注目はズバリ、『強さ』ッスね。」
そこは、凄く気になる。思わず前のめりになるくらい気になる。
「『ザコ』として有名なゴブリンッスけど、あいつら全然ザコなんかじゃないッスね。まあ、そんなちょー強いって事でもないッスけど、あんなにちっこい、『ガキンチョ』の見た目のくせして力は普通に大人の男くらいはあるッス。成人男性の身体能力はそのままで、ちっちゃくなったって感じッス。それもそこそこ鍛えた感じの男の。
あとはオイラが出会ったのは【コボルト】ッスね。
あいつらはもう、ね?『酷い』、の一言ッス。」
むむむむ。(仮称)ゴブリンさんでさえやっぱりヤバイのか――――。それに、【コボルト】。俺は見たことないぞ?
「コボルトはゲームとかでもよく見るまんまッスね。2足歩行する犬ッス。全っ然!可愛くないッスけど!!って言うかコワイッスけど!!
身長はゴブリンよりちょっと大きいくらいで、1メートルちょっとくらい?身体能力はデカイワンコそのもの。それが、武器とか使ってくる感じッス。」
「悲惨だな。」
「はい、悲惨ッス。」
何が悲惨って身体能力が人基準じゃなくて、犬基準って事だな。
人間の身体能力なんて動物に比べれば貧弱も貧弱。普段ペットとして慣れ親しんだ犬や猫にさえ勝てない。そんな動物を『ペット(ハート)』とか言って飼ってるんだから人間って恐ろしい!でも凄い!そんで不思議。
そんな身近な驚異でもあり、友達でもあり、家族でもあるはずの【犬】。それが二足歩行して武器持って襲ってくるとか、マジで悲惨。
「物は試しにと思って、一匹だけだったんで挑戦してみたんッスけど・・・・・・。」
「?ペガサス君は生きてるんだから勝ったんだろ?凄いじゃないか。」
何故か落ち込むペガサス君。
何故だい?お兄さんに話してみ?聞くだけ聞くよ?聞くだけね?
「いや、結局勝てなくて、逃げたんッスよね。もう必死になって逃げたッス。あいつ犬なんで、走るのもめっちゃ早くて、二足歩行だとまだそれほどでもなかったんッスけど、追いかけてくるときは口に武器を加えて四足歩行になりやがって・・・・今思うとなんで逃げれたのか、めっちゃ不思議ッス。」
顔が青ざめてらっしゃる。
ん~。その時ペガサス君は『死』を感じたんだろうな。だからこそこんな顔になってるんだろうし。マジで怖かっただろう。
よく頑張ったと思う。
けど、軽率に挑戦したのがそもそも悪いんだけどね?
「でもその後で軽い気持ちで挑戦したのをめっちゃ反省して、今は慎重に行動するのを心がけてるッス!」
えらい!
偉そうに俺が言うのも変だけど!
「えらい!」
「あざッス!」
そんなこんなで取り敢えず今日のところはお話終了。終了だよ?終了なんだよ!?だからこっち来んじゃねぇ!!!
「隣町から歩いてきたんだ、それもこんな状況の中を子供一人面倒見ながらやって来たお前は『善人』と言える。
勿論ペガサスだって、戸崎だって善人だ。
そんな善人の3人が揃いも揃って俺とは真逆の意見を言う。・・・・正直全然納得できていない。
だが、今を生きていくには協力は必要不可欠だ。
・・・・・落ち着いて話がしたい。今日は休め。明日また話そう。」
一方的過ぎませんかね?
言うだけ言ってさっさと去っていくおっさん警部。
話したところでたぶん平行線だよ?何も変わらないと思うよ?時間の無駄のような気がするよ?それでもやるの?―――めっちゃ嫌なんですけど!!!
あぁ~。もう!
俺の癒しよ~。ユキちゃ~ん。
「シッシッ。男は来るな。もう寝る時間なんだ。大人しく寝なさい。」
ガッテム!
突撃したら部屋を追い出されてしまった。
そんな事言わずに少しだけ!何てわたくしの言い分も戸崎さんに敢えなく破棄されてしまい、トボトボ。
「あっちの部屋は夜間立ち入り禁止ッス。ユウカちゃんは怒るとめっちゃ怖いんで大人しくしとくのが無難ッス!触らぬ神になんとやらッス!」
「へいへい。んじゃおやすみ。」
グッナイ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっと!いい加減起きなさい!!」
「ぺホマッラッ!!」
誰じゃ!?
何すんじゃ!?
思わず回復魔法的な何かを唱えちゃったでしょ!?!?
「どんだけ寝坊助なのよ!皆もう起きて準備までしてるのに!普通に寝てるんじゃないわよ!!」
「・・・・・おやす「はぁ?」!?間違えました!おはようございますでした!!」
こ、こえぇ。
なに今の『はぁ?』って!?何処から出したのそんな声!!??戸崎さんは女の人ですよね?
そんな低音ヴォイス男しか出せないと思ってました!
「起きたわね?
私とペガサス。それから剛田警部は市内を見廻って救助が必要な人を探してくるわ。ついでに物資の調達もね。
貴方とユキちゃんはここに残ってしっかりお留守番をしててちょうだい。
もし貴方たちみたいに自力で避難してきた人たちが居たら、その人たちへの対応もお願いするわね。
じゃ、よろしく。」
あぁ。俺の、男にとっての目の保養が・・・!!
「行ってらっしゃい。」
しかし!俺は賢いのだ!!
『純粋な想い』をぶつければ何故か反応し、何故か鬼も真っ青になるくらいに怒る戸崎さん。
そうそう何度も怒られたくない!怖いし!
なので、バレないように表情には出しませんよ!!
エライ!俺!!
誰も誉めてくれないから自分で誉めときましょう!
「ふぅ。」
無事、ミッションコンプリート!
『怒られずに見送れ』を達成しました!
弘信は経験値を5ポイント手に入れた!
弘信はレベルが上がった!
・・・・・気がした。
「さて、バカはこれくらいにして、っと。
ユキちゃんは何処かな~。あと腹へったぞ~、っと。」
辺りを見回しキョロキョロしながらお部屋移動。
周りの様子は昨日と変わってない。
物悲しく見える、人がいない空間。
整然と並べられたデスク。そのデスクの上は、ほぼ全てが乱雑に散らかされていて、人の存在を強く伺わせる。
だけど、人はいない。
一つ一つのデスクにはそこを利用する人が居た筈なのに、多分ここにある全てのデスクはもう二度と使われることはないんだろう。
そんな益もない考えがふと過り、昨日までの様々なことがフラッシュバックしてきた。
そうして最終的に残った思考、心配事を確認するためにスマホの画面に灯りを灯す。
見慣れたホーム画面。
そこには何も知らせる様な事はない。と、わかる画面をあえて無視。操作を続けてメッセージアプリを立ち上げ、【家族】のグループを立ち上げる。
希望は希望であり、叶うものとは限らない。
「マジで、さ。誰でも良いから見ろよ・・・!!」
親父もお袋も、兄貴も。誰1人として俺が数日前放ったメッセージを見ていない。
怪我なく無事ってのは絶望的。
そもそも生きてる事自体望みは薄い。望みは無いと言えるくらいに薄い。
だけど俺は生きている。
無事で居る。
「探す―――ってのは現実的じゃない、よな。」
探すにしても何処を探すかって問題がある。
例え場所がわかったって、そこに行くまでの安全とその場所での捜索をする間の安全。つまりは全体的な安全の問題。
更に、だ。
ユキちゃんをどうするんだ?って話。
俺1人でユキちゃんを守っていく。なんて事は不可能に近い。だからこそこうやって避難してきた。
誰かに協力してもらう。
俺が協力していく。
皆で協力していく。
誰かだけじゃ足りないし、俺だけでも当然足りない。自分自身を守るのも、守りたいものを守るのも誰かの、皆の『協力』無くして不可能だと思う。この町の今の状態では特に。モンスターが溢れる世の中で、例え協力してくれる人が多くても『完璧な安全』は無理だと思う。それでも少しでも安全に、安心して過ごせる様にココに来た。だからこそ俺一人が好き勝手には出来ない。誰かに任せるなんて無責任な事もしたくない。
家族の安否は気になる。だけど、わからないものはわからないんだ。それならば最悪を仮定して行動するのが最善のはず。
つまり、だ。
モンスターが消えることは無いし、救助が来ることもない。家族だって無事である筈がない。あくまでも自分の力と、現地の人たちの力を合わせ生きていく。
使えるものは現地にあるものだけ。
最悪の最悪は、モンスターがもっと『増える』。もっと『強くなる』。などだな。
最悪の最悪は正直勘弁して欲しいから、最悪を仮定して動こう。
じゃあ改めて家族の事を考えよう。
簡単だ。
ユキちゃんの事が無くても、他に何かがあったとしても関係ない。
俺が、俺自身が生きたいのなら。死にたくないのなら―――――諦める。だな。
だけど、そうだな。祈るくらいは、願うくらいは良いんじゃないかな?
どうか――――どうか、無事でありますように。ってな感じで、さ。
それから、ごめん。
こんな結論出しちまう息子で、弟で、ホント申し訳ない。
後でいくらでも怒られてやる。怒鳴るのだって許せるし、嫌いになってくれてもまぁ、仕方ない。一発くらいなら殴られたって良い。
だから、どうか、無事でいてくれ。
決意新たに下を向いていた視線を正面へと戻し、スマホはポケットに入れる。――――――――今、俺、凄く『主人公』っぽくね?
「お兄さん何してるんですか?」
は、恥ずかちぃ~!!見ないで!
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