第65話 タイタス王国

 コホンッ!


 三代に渡る筆おろしとか、カサノバク家の秘密が暴露されていくのをもっと聞いていたい気もする。しかし、聖少年のぼくの妄想をこれ以上刺激するような話が続くと、シーアに何をされるか分からない。


 ぼくは先程からブドウでぼくの顔を拭い続けるシーアの手を取って止めさせ、そのままシーアの膝の上に座る。


「むぅ」


 とは言ったもののシーアは逆らわなかった。ぼくはシーアの両手を握ってその腕をぼくのお腹に回し、後頭部でおっぱいまくらの具合を確認する。そのままシーアの手をニギニギしていると彼女は落ち着きを取り戻し、ぼくの後頭部に顔を埋めた。


「むふぅー!」


 操縦席に着いたぼくは、まだ目の前で続いているカサノバク家の暴露大会に喝を入れて停止させた。


「かぁぁぁぁっつ!」


 フォンと現男爵、そして二人の話に身を乗り出して興味津々で耳を傾けていたシュモネー先生の視線がぼくに集まる。


「カサノバク男爵家の華麗なる一族についてのお話は大変興味深いのですが、ぼくとしてはフォンからヴィドゴニアについてお話をお伺いしたいのです」


 三人が「あっ」という顔をする。おいおい、シュモネー先生しっかりしてくれ。


「フォンがヴィドゴニアになった経緯と今の状態に落ち着いた経緯については分かりました。ぼくたちが探しているヴィドゴニアではないことも理解できました」


 ぼくはシーアの手をニギニギして尋ねる。


「シーアはもうフォンが怖くない?」

「はい。ただ……」


 シーアは言葉を濁した。ここでは言い辛いことなのか、うまく言葉にできないのかわからないけど、あとでゆっくり聞くことにしよう。


「それでフォンに聞きたいんだけど、他のヴィドゴニアについて何か知ってることはない? えっと特に15年前あたりで」


「それは、ヴィルフェリーシアさんがヴィドゴニアに【見る】を奪われた時期ということですね」

「はい。何かご存じありませんか」


「わたし自身は他のヴィドゴニアを見たことがありません。他の地に行けば出会うこともあったのかもしれませんが、この領地から出たこともありませんので……」


 とくに収穫はなかったかと落胆しかけたところにフォンが重大な話をしてくれた。


「20年前に滅亡したタイタス王国の五人の宮廷魔術師が悪魔に身を墜として人々に災厄をもたらしたという話を聞いたことがあります」


「タイタス王国?」


 って何だっけ? と言うぼくの呆けた顔を見てシュモネー先生が説明してくれた。


「タイタス王国は魔術研究に力を注いでいた国で、三十年戦争の際、連合側に敵対したため炎王ウルスによって滅ぼされています」

 

 あっ、思い出した。前世の記憶では、タイタス王国は力を得るために悪魔勇者召喚に手を出していた。


 悪魔勇者召喚は女神の力による転生ではなく、膨大な魔力を使って強引に異世界の戦士をこの世界に転生させる儀式だ。儀式の方法は様々だが、そのいずれもとてつもない魔力と準備期間、そして……大量の生贄が必要になると言われている。


 タイタス王は連合側の捕虜や住民を生贄に儀式を行っていた。事実を知った炎王ウルスは後に『天の雷撃』と呼ばれている電光石火の急襲作戦によってタイタス王宮を占拠。タイタス王を自害に追い込み、そこからひと月もしないうちにタイタス王室を断絶に追いやっている。


「タイタス王国から逃れた五人の宮廷魔術師を捕まえるため炎王ウルスは力を尽くしましたが、ついに彼らを捉えることはできませんでした」


 そんな指示を出したような気もする。ただ当時は戦後処理や他国との戦争のことで頭が一杯だった。タイタスの宮廷魔術師の束縛は見せしめ程度の理由で、それほど重要視していなかったように思う。


 シュモネー先生の解説をつなぐようにフォンが話を続ける。


「炎王ウルスの執拗な追跡を逃れ続けた五人の宮廷魔術師も、ついには追い詰められ、ボルヤーグとウルス王を呪って自害。その際、悪魔に魂を捧げて魔女になったと当時の人々の間で噂されていました」


 噂だけにその内容は様々で、魔女となって悪魔に仕えているとか、実は悪魔勇者の召喚に成功してタイタス王国の復興を目論んでいるとか、ヴィドゴニアとなって永遠に森を彷徨っているというビンゴなものまであった。


「その噂話が仮に事実に近いものだったとして、宮廷魔術師たちが長らくウルス王の追跡を逃れていたのだとすれば、ヴィルフェリーシアさんの【見る】を奪ったヴィドゴニアである可能性も考えられますね」


 もちろんただの噂話で終わるかもしれないけれど、少なくとも一つの手がかりを掴むことができたのは大変な収穫だ。


「タイタス王国の五人の宮廷魔術師……これを追っていけばもしかしたら……」


 ぼくは初めてシーアの【見る】を奪ったヴィドゴニアにつながる手応えを感じたことに興奮し、思わずこぶしを握り締めていた。


「もし噂が本当で、彼らがあなた達が探しているヴィドゴニアだとしたら、かなり手強い相手ということでもあるのですよ」


 シュモネー先生がぼくの方を見て釘を刺す。確かにヴィドゴニアが、かつての宮廷魔術師であり、ウルス王の追跡から逃れ得たような奴らだったとすれば、ぼくの想像を超える力を持っているのかもしれない。


 前々世で見たヴィドゴニアたちの姿を思い出しながら、ぼくは自分の心を引き締めた。



☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆*:.。. o(≧▽≦)o

【 関連話 】

タイタスの騎士

https://kakuyomu.jp/works/16816927861519102524/episodes/16817330652057422108


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