第38話 これはモテているのか?それともハニートラップなのか!?
『介護長、ちょっといいですか?』『安部さん、どうしたの?』
こんなに嫌な思いをしてまで。
こんなに色んな人に文句を言われてまで。
この施設に残る意味がない。
『今月いっぱいで、辞めさせて下さい。』『え?どうしたの?急に。』『・・・自分の実力を、他の施設で試してみたいんです。』
違う。本当はそんな事思ってなんかいない。
職員なんてどうでもいい。一匹狼だって別に構わない。
家族同然に過ごして来た「利用者様」。
その人達と2度と会えなくなる・・・それだけが唯一の心残りなだけ。
『安部さんに抜けられるのは大きな痛手だよ。』『でも、他にも即戦力は沢山います。』『安部さんは他の誰よりも利用者様の事を大事にしてる。それは利用者様からも報告が来てる。』『きっと、あたしじゃなくても他の人がやってくれると思います。』
暫く押し問答が続き、介護長は「辞めてほしくない」あたしは「辞めたい」の言い合いが続く。
本来、上司にここまで言って貰えるのはとても有難い事。
でも、もうあたしの心は限界だった。
『とりあえず、まだもう少し猶予あるから、考え直してみて。』『・・・分かりました。』
3月も残りあと数日。
急な退職願いで申し訳ないとは思う。だけど、あたしを望んでいない人達が多い中で。
働いていれば仕事以外での、何かしらの文句を言われ。
巻き込みたくない佐野さんに迷惑をかけてまで働きたくなんかない。
さすがに疲れた・・・。
『美桜っ!!』『良介、何!?』『介護長と何の話してたの?』
『良介に関係ない。』『辞めたりしないよね!?』『・・・もう、ほっといてくんないかな?』
良介の横をすり抜け、あたしは出口へと向かう。すると、良介が
あたしの腕をグイッと掴んだ。
『良介、痛いんだけど。』『俺、美桜が好きなんだよ。』『跡部さんは?』『もうちゃんと終わってる。』『終わってるならどうしてあたしに・・・』
「あたしに色々言ってくるの!?」
途中まで言いかけ、辞めた。良介に言っても仕方がない。
これは、きっとあたしと跡部さんの問題。
あたしが辞めれば全てが丸く収まる話・・・。
『跡部に何か言われたの!?』『言われてない。』『何かあるなら言って欲しいんだよ!!』『だからっ!関係ないんだってば!!』
イライラが募る。涙が溢れる。
今日はきっとそんな日。そう割り切らないと、明日も明後日も・・・こんな日々が続いてしまう。
『美桜、少しだけ時間を・・・』『女泣かせて何してんの?』『佐野さん!?』
良介が佐野さんの姿を見るや否や、表情が一気に曇った。
『佐野さん、お疲れ様です。』『千葉、お前夜勤中だろ?』『佐野さんこそ、こんな遅くまで何してるんですか?』『残業だ。』
張り詰めた空気。
あたしが・・・1番避け続けて来ていた光景。
『安部泣かせて何してんの?』『佐野さんに関係あります?』『佐野さんっ!!違うんです、あたしが勝手に泣いただけなんだす。』『千葉、仕事に戻れ。』『佐野さんこそ、仕事に戻って下さい。俺、美桜に話があるんです。』『安部を泣かせてまで話話続けなきゃなんねーの!?』『あのっ、もう辞めて・・・』
これまた突然だった。
「美桜。」
あたしを初めて名前で呼んだ佐野さんが、あたしの身体を引き寄せ、ギュッと抱き締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます