第37話 いくら腐女子だって、心に限界があるのを知って欲しい。
『もうすぐ4月かぁ・・・。』屋上。誰もいなくて落ち着ける唯一のあたしの癒しの場所。
外へ出れば街が一望出来、空との距離が近い。
あたしはおにぎりを口に頬張りながら、携帯で好きな音楽を流しながら聴いていた。
『あ、安部さん!?』
外で歌を口ずさんでいた中、背後からあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
『・・・跡部さん。』『珍しいですね。屋上に来るなんて。』『息苦しくなった時の、あたしの癒しの場所なんです。』『何かあったんですか?』
お前が言うか!?まぁ、でも今のところ跡部さんも「被害者」な訳だし・・・。イライラしているあたしが大人げない。
『ここで、良介と初めて出逢ったんです。』『そうなんですね。』『そして、ここで告白して、OKを貰ったんです。』『それはそれは。良かったですね。』『だから、良介を取らないで欲しいんです。』
小久保(さん)といい、跡部さんといい。
「関わらないで」「取らないで」。
あたしはどんだけ悪者扱いされればいいの!?
あたしだって・・・心の痛みに限界があるのに・・・。
『良介と、お付き合いされてるんですよね?』『・・・』『跡部さん?』『あたしは別れたつもりはありません。』『どういう意味ですか?』『あたしは良介と別れたくないんです。だから、安部さんが邪魔なんです。』
「この施設、辞めて下さい。」
『あたし、安部さんが嫌いです。』『そう・・・ですか。』『あたしと良介の前から姿を消して下さい。安部さんなら、他にも働ける職場ありますよね?』
どうしてここまで追い込まれなくちゃならない?
あたしが・・・、あたしが一体何をしたって言うの!?
今まで我慢してきた涙が・・・もう限界で流れ落ちてしまう。
決めてたのに。
誰かの前で涙なんて流したく無かったのに・・・。
『ここにいたのか。』『あ、佐野さんお疲れ様です。』
突然現れた佐野さんに挨拶をしている跡部さんに隠れ、あたしは急いで頬をつたっていた涙を拭った。
『跡部。お前妊娠してんのに介護の仕事なんて大丈夫なのか?』『え?あ、はい。安定期に入ったので・・・』『ふーん・・・。じゃぁ、手に持ってるのって、誰が使うの?』
手に・・・持ってるもの?
あたしは視線を跡部さんの手元へと移す。
すると、跡部さんの手には厚手のナプキンが握られてあった。
『え?跡部さん!?』『跡部、吐くなら今だぞ。』『いえ、あの・・・』『妊娠・・・してないの?』
頭がパニック。妊婦ってナプキン使うの!?安定期って、どのくらいお腹が出るの!?
妊娠した事ないから(当たり前)分からない。
『妊娠はしてます。』『千葉に確認していい?ケアマネとして、職員の管理も俺の役目だから。』『それはっ・・・』
佐野さんの追い込みが、跡部さんの言葉を詰まらせる。
もうすぐあたしの休憩が終わってしまう。もう、フロアに戻らなければいけない時間・・・。
『安部さんが全部悪いんです。』『・・・あ、あたし!?』『安部さんが良介に手を出すからっ!!』『いや、あたしは何も・・・』
「安部さんがここを辞めれば全て丸く収まるんです。」
せっかく止めた涙が、勝手に流れてくる。
あたしがこんなにも沢山の人に煙たがれてるなんて。こんなにも沢山の人に否定されてるなら。
別にここに留まっている意味なんて無い。
『辞めます。』『は?おい、安部っ・・・』『そうして下さい。安部さんなら何処に行っても働ける実力ありますから。』『そうですね。そうします。じゃぁ、休憩終わるので失礼します。』
「安部!!」
佐野さんの声を初めて無視したあたしは、堪えきれない涙を何度も何度も拭い、フロアへ戻った。
そして、誰とも一言も会話する事なく勤務が終了。
あたしは、介護長のもとへと向かった。
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