第35話 少女漫画みたいには行かないリアルな女のいがみ合い。
翌朝、昨日サボったツケが周り、早番と遅番の両方をしなければならなくなったあたしは重すぎる足取りを何とか引きずりながら職場へと到着。
『お疲れ様ですー。』『・・・』
山びこが1人もいない。これは・・・みんな難聴なのか!?
『安部さん!!』『あ。ゆき主任。』『昨日、仕事サボッてケアマネの佐野さんとショッピングセンターにいたんだって!?』
さすが歩くスピーカー。情報収集が早すぎ。でも、この情報をたれ込みしたのは、おそらく「あいつ」しかいない。
『ゆき主任、おはようございます。』『あら、小久保さん、おはよう。』『あー・・・、安部さんどうも。』『小久保さん、お疲れ様です。』
来た来た。人を陥れる天才、小久保(さん)。こいつに間違いない。不敵な笑みも、イラつく流し目も、どう考えてもこいつがゆき主任にチクったとしか思えない。
しかも、上手いこと話を盛って。
『安部さん、ちょっといいですか?』『話があるなら、ここで・・・』『ここじゃダメだから「ちょっといい?」って言ってるんだけど。』
マウントを取り続ける小久保(さん)に従うべく、あたしはエレベーターの影へと誘い出された。
どうせ、内容は昨日の事だろう。あたしの頭は反撃の巨人でフル回転していた。
『小久保(さん)、あの、私忙しいんですけど。』『佐野さんに近付かないでって言ったよね!?』『言いましたっけ?覚えてません。』『なら、改めて言う。佐野さんに金輪際近付かないで。』
醜い醜い女のバトル。こんなのに巻き込まれたくないけど、「佐野さんに近付くな」という約束には「分かりました」と素直に頷けない。
『良介とは別れましたし、あたしの行動は自由なはずですけど!?』『あんたと佐野さんは似合わない。』『それは小久保さんの勝手な思い込みでしょ!?決めるのは・・・』
8時半過ぎ。
エレベーターが開き、絶好のタイミングで佐野さんが姿を現した。
『小久保?・・・何してんの?』『あっ、佐野さんお疲れ様です!』『安部、何呼び出しくらってんの!?』『え、あの・・・』『佐野さん!仕事の話、いいですか!?』
こずるい女よ。小久保(さん)。切り替えがはえーーよ。目キラキラさせやがって。
・・・あたしも少しだけ見習ってみたい。
『小久保。』『はい!何ですか!?』『安部をイビるの辞めろ。』『え!?そんな事してないですよ!?』『・・・小久保のそのキャラ、結構ウザい。』
小久保、KO負け。佐野さん、毒吐きすぎ。
まぁ、あたしからすれば有難いのだか、この後の報復が怖い。
ただでは諦めないのが小久保(さん)。
大きな嫌がらせがあたしを待ってるんだろう。
『安部、フロア戻るぞ。仕事しろ!』『あ、はい。』
俯いたままの小久保(さん)を残し、フロアへと戻ろうとした時、確実にあたしの耳に入ってきた一言・・・。
「このメスブタ野郎、後でみてろよ。」
こっっっわ!!
でも、これが現実の世界。リアルな現場。
女って何でこんなにゴタゴタが好きなんだろう。
あたしも一応メスの部類に入るけど・・・やっぱりオスの属性が強いのかな?
『安部。』『はい?』『何かあったら俺に言え。』『いえ、あたしこう見えて心臓タフなんで・・・。』
「俺が守るって決めたんだよ。」
小さい胸の高鳴り。でも・・・心がとても暖かい。
「頼らない」と決めているが、その言葉があたしのエネルギーに繋がる。
『安部さん。』『何だよ。』『ありがとう。』
滅多に笑わない佐野さんの口角が、ほんの少しだけ上がった気がしてあたしまで笑顔になってしまう。
「負けない。」
そう思いながら、あたしの1日は始まった。
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