第32話 恋なんて振られてなんぼの世界。諦めたらそこで終了。

『なぁ安部。俺腹減った。』『あ、なんか食べます?』


正午前。ショッピングセンターに到着したあたしと佐野さんは、手っ取り早いマックで腹を満たし、いざ買い物へと向かった。


『佐野さん、あたしに似合いそうな服選んで見て下さい。』『分かった。』

目に入った服屋へ入り、佐野さんは店員の声掛けをガン無視しながら淡々とあたしの服を選んで行く。


『これは?』『佐野さん、この店ギャル系ですけど。』『あ、やだ?』『佐野さんって、ギャル好きなんですか?』『全然。』


ヘソだしニットにミニスカート。

誰がこんなん着る。もし着たとしても、忘年会の芸で使う服だわ。


『いいです・・・自分で選びます。』『だって、お前美香みたいな服装似合わねーじゃん。難しいよ。』


確かに。美香さんは「お姉様系」の服装だ。

あたしが色っぽい服を着たら、間違いなく補導される。


『あ、このお店見てもいいですか!?』


いつも来ている服屋さん。

カジュアル過ぎず、色っぽ過ぎず・・・。

でもダサ過ぎず。

あたしにはちょうどいい店だ。


『もう、春服だもんなぁ・・・』『安部って、シャツにデニムとかキレイ系だよな。』『佐野さんでも一応分かるんですね。』『まぁ、いつも美香に付き合ってるからな。』


あたしの目に留まったのは、マネキンが着ていた白いデニムと黒いロンTの上に赤と茶色が混ざったチェックのシャツ。


『これ、可愛い!』『へぇー・・・、でも、時間もあるし他のも見てみたら?』『あ、そうですね!』


あたしの後ろを、佐野さんはただ付いて歩くだけ。

でも、それでもあたしは凄く楽しくて嬉しくて・・・。

靴やバッグ、普段見て回らない物までついつい買ってしまった。


『安部、俺ちょっとトイレ行ってくる。』『分かりました。じゃぁ、スタバでコーヒー買ってますね!』『サンキュー。』


毎回人気。毎回並ぶ。それがスターバックスコーヒー。

あたしだけだったら迷わず諦めるけど、今回は佐野さんも一緒。


『・・・並ぶか。』あたしは列に大人しく並び、時にどこぞのおばちゃん達に割り込みされ・・・なんとかレジまで辿り着いた。

そして、一回言ってみたかったセリフをあたしは言う。


『あ、いつもの。』『・・・は?』『嘘です。すみません。コーヒー普通サイズの2つ下さい・・・。』


こんなセリフをスタバで言える女性になってみたい。

いつも行くコンビニでは顔を覚えられていて、「今日タバコ何個?」ってよく聞かれてたっけなぁ・・・。


・・・そういえば、タバコ吸わなくなって結構経つけど意外とダメ。

特に、コーヒーなんて飲んでしまったらタバコ吸いたい。

ここまで我慢出来てたあたしって・・・凄いと自分をたまには褒めてみる。


『阿部、お待たせ。』『佐野さん!ちょうど今激熱コーヒーを・・・』

『はい、これ。』


佐野さんから手渡されたもの・・・。


『え?この紙袋って・・・』『阿部、まだ服買ってなかったろ?あの服でよかったんだよな?』『そうですけど・・・何で?』


「今日、楽しかったから。そのお礼。」


これはあかんです。胸きゅんです。目がハートです。

・・・恋に落ちてしまう。


阿部美桜。生まれて初めてサプライズプレゼントを頂きましたーーーーーっ!!


『凄く嬉しい・・・・です。』『いつも仕事頑張ってるの、何気にちゃんと見てんだぞ。』『あたしも、佐野さんの仕事ぶりいつも凄いなって圧倒されています。』『この先、なんか辛い事があったら、俺に言え。』


何これ、何この雰囲気。

プレゼント貰って励ましの言葉貰って。「辛い事は俺に言え。」


・・・この流れのまま、言っちゃう!?


『佐野さん、好きになっても良いですか?』『ダメだ。』


へ?あれ?やんわりでもなく、悩んだ様子もなく。

超あっさり振られたんですけど。

トントントーーンって、これ・・・夢かな?夢だね。

もう一回リベンジしてみよっと。


『佐野さん、好きになっても良いですか?』『無理。』『え、何で?』『だって、俺・・・』


「阿部より妹の方が大事だから。」


得意のシスコン出たーーっ!!

だが、しかし。相手は妹の美香さん。美香さんには彼氏がいる。


・・・美香さんの恋、めちゃくちゃ応援すれば佐野さんの考えも変わるんじゃないのっ!?そうじゃないのっ!?


『分かりました。』『ごめんな。』『やっぱり分かりません。』『や、分かってくれ。』『はい。分かりません。』『何なんだよっ(笑)』


決めた。あたしはたった今から佐野さんに恋をする。

いや、むしろもっと昔から恋をしていたんだと思う。

フリーになった今、フリーな佐野さんをゲットしてみせる!!

・・・美香さんに相談しよ。


安部美桜の本気の恋は、振られたと同時に始まった。


















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