第31話 普段酒飲まない奴が飲むと大概ヘマする話。

『阿部さん、大丈夫!?』『美香さん、ボインですねぇー。』『美香、お前がガンガン飲ませるからだぞ。』


帰りの車の中、あたしはビニール袋を片手に一人別世界へとタイムスリップしていた。


『阿部さん、家まで送るから。場所教えて?』『ふはははははは』『阿部が壊れた。』


気分上昇、吐き気も上昇、おまけに記憶障害も上昇。

あたしは美香さんの肩にもたれ掛かり、突然襲ってきた睡魔に負けそうになりながらも、すでに意識が遠のいていた。


『煌太!どうしよう?』『阿部!明日は何番だ!?』『ばばんばばんばん番です』『ダメだ。アホだ。』『煌太の家に泊めてあげたら?』


・・・今の言葉だけはしつかり聞こえる凄まじい聴力の持ち主、阿部美桜。今、こんなに泥酔状態のあたしが佐野さんの家に泊まりでもしたら・・・。


確実に佐野さんを襲ってしまうであろう。


『何で俺の家なんだよ!!美香ん家は!?』『うちはちょっと・・・。』

『あーっ!!美香さん、もしかして彼氏しるんでしょーっ!!」


酔っ払いが爆弾テロを投下。美香さんは慌て始め、佐野さんは突然車を停めた。


『美香。お前彼氏いるの?』『・・・同棲してる。』『はぁっ!?そんな事、一回も聞いた事ねーぞっ!!どんな奴なんだよ!?』『ありゃ!?喧嘩してる!?喧嘩はやぁーよ。』


この腐女子。罪悪感ゼロな部分が相当痛い。美香さんと佐野さんの言い合いはどんどん激しくなり、それが子守唄となったあたしはいつの間にか本格的に昇天してしまった。


そして・・・。


『・・・はっ!!』『やっと目ぇ覚めたのかよ。』『あれっ、ここ、佐野さんの車!?』


佐野さん曰く、言い合いが収まらず美香さんは途中で車から降りてしまい、何の解決もしないままあたしは今の今まで佐野さんの車の中で一夜を過ごしたらしい。


『す、すみません!!』『いや、別にいいけど。お前仕事は?』『今日は遅番です。』


あたしは慌てて携帯を取り出し時間を確認。


『佐野さん!遅刻じゃないですか!』『気持ち良さそうに白目向いて寝てるお前を起こす勇気が無かったんだよ!』『私、ここで降ります!!佐野さん仕事に行って下さい!』『もう「休む」って連絡入れちまったよ。』


完全にやらかしてしまった。

普段飲めもしない酒を飲んで酔っぱらい、その後の記憶は一切なく、目を覚ませば佐野さんの車で爆睡・・・。


『本当、ごめんなさい。』『安部、お前千葉と何があったんだ!?』『え?』『寝言いいながら泣いてたから。』


何も無かったと言えば嘘になる。

でも、美香さんの言い分だと、とても良介はいい人で・・・。

あたかも跡部さんが、単に「粘着してる」としか思えない。

でも・・・。


『良介の家に行ったら、跡部さんがいたんです。』『あの二人は付き合ってたんだ。千葉の方から別れを切り出したみたいだけど、跡部が未練タラタラっていうのは聞いた。』『それだけじゃなくて、二人共裸だったから、ビックリして・・・。』


ただ遊びに行っただけで、あんな姿になったりなんかしない。

あたしは良介に遊ばれてるのか・・・それとも、跡部さんにはめられてるのか。

今はまだ判断が出来ない。

・・・跡部さん、スタイル良かったわぁ。


『千葉は跡部とは切れない仲だよ。』『え?どうしてですか!?』『だって、跡部は・・・』


「千葉の子供妊娠してるから。」


嘘でしょ?コウノトリさん、もうお腹に入れてったの!?

手際良すぎない?


『そうなんですね。』『千葉はきっと本気で安部を好きなんだと思う。でも、責任はちゃんと取らなきゃいけねーだろ。』『そうですよね。うん、あたしも今日だけは責任取って仕事休みます。』『・・・は?』


仕事一途な佐野さんに仕事を休ませてしまった。

だから、あたしも仕事を休まねばならぬ。みなに迷惑を掛けてしまうが、仕方が無かろう。


『休んで大丈夫なのかよ?』『分かりません!でも大丈夫です!』『休んで今から何すんの!?』『あたしの洋服、コーディネートして下さい!』


この間、佐野兄妹のせいで買い物出来なかった分、今日付き合って貰おうではないか。


『分かった。』


案外あっさりOKサインをもらってしまい、拍子抜けしたあたしであったが、「佐野コーディネート」を作って貰うべくリベンジショッピングセンターへと向かった。






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