第30話兄妹の性格の違いに驚きを隠せない女。

『・・・あ、もう来てる。』職員専用駐車場の定位置に、佐野さんの車を発見。あたしは急いで車を停め、佐野さんの車へと走った。


『佐野さん、お疲れ様です!』『お疲れ。俺の車で行くぞ、後ろに乗れ。』『あ、はい。失礼します。』後部座席のドアがスライドでゆっくりと開く・・・。すると、妹の美香さんの姿があった。


・・・うん。やっぱめっちゃ綺麗。こりゃシスコンにもなるわ。


『安部さん、こんばんは!どうぞ!』『あ、ありがとうございます。』薄いピンクのニットに、下は細身のデニム。他に装飾品は一切身に纏っていないのに、既に「いい女」が出来上がっている。『安部さん、この間はごめんなさい。彼女だなんて嘘ついちゃって・・・。』『い、いえ全然!!むしろお似合いで違和感無かったですから!!』


あーー・・・、謝る仕草すらいちいち可愛い。

あたしが男だったら速攻惚れてる。

ま、相手にされないだろうし、シスコン兄貴が黙ってないだろうけど。


『安部さんは、煌太の事好きなの?』


あ、意外と空気の読めないお嬢様だった。


『とんでもないですっ!!佐野さんはあたしの上司ですから!』『本当に?でも、この間の安部さんの表情、煌太を好きな感じに見えたんだけどなぁ。』『美香、あんまり安部をいじめんなよ。』『煌太だって、まんざらでもない癖に?』


「まんざらでもない」って・・・もしかして「まんざらでもない」って事?

どういう事!?

美香さんって、結構ズカズカ口に出しちゃうタイプなのね・・・。


『俺は阿部をそういう目で見たことがない』『・・・美香さん、だそうです。』『まぁ、煌太も鈍感な所あるからね。お楽しみって事で!』『美香、阿部には彼氏がいるんだよ。』


そうだった・・・、いや、そうじゃないけど、佐野さんの中ではまだあたしと良介が付き合ってる事になってるんだ。


『あの、佐野さん。実は・・・』『阿部、俺はあまり人の色恋に色々言いたくねーけど、千葉だけはやめとけ』『ですから、あの・・・。』『えっ!!ねぇ、煌太。千葉って良介の事!?』『そう、あの千葉良介だ。』


何故か美香さんもビックリしている。何の関係があって知り合いなのかは分からないが、美香さんは突然あたしの両手を握り締め、こう言ってきた。


『阿部さんっ!!』『ふ、ふぁい!?』『良介、すっごい良い奴だよ!!』


・・・え?二股かけられてたんですけど。

悪い意味で「すっごい奴だよ」の言い間違いなのでは!?


『美香さん、良介と知り合いなんですか?』『あー、あたしの知り合いが前に良介と付き合ってて、凄く大事にされてたみたいだよ?』『え、あのー、もしかしてその元カノさんって・・・』


『跡部だ。』


血圧が上がり過ぎて目がチカチカする。

「今カノ」じゃなくて「元カノ」??

じゃぁ、あの現場の二人の格好は・・・何??


『良介、優しいでしょ?』『はい、誰にでも。』『絶対幸せにしてくれるよ?』『はい、少し前までは。』『・・・やっぱり、お前がこないだ泣いていたのは千葉が原因だったんだな。』


「あ、そうなんです。」とは、美香さんの手前とても言いづらい。

あたしが今の会話で感じた事・・・。

美香さんは良介を良い奴だと思っている。

でも、佐野さんは良介の「何か」を知っている。

あたしは、どっちの「千葉良介」を信じたら良いのだろう・・・。


『焼肉屋、着いたぞ。』『阿部さん!!』


車から降りる際、美香さんがあたしの耳元で呟いた。


『煌太は阿部さんが好きだからね!』『えっ!?』『さっ!!煌太の奢りだから沢山食べよーっと!!』


えらいこっちゃ。

佐野さんが・・・このクズを?

良介って・・・やっぱり良い奴なの!?

男って、女以上に分かんなくない!?


『あぁ・・・、考えんのめんどくさ。』


焼肉屋に到着したあたし達は、佐野さんの奢りを良い事に、あたしは飲めないお酒までガッツリ頂いてしまいトイレが我が家と化していた。






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