第29話 女は失恋をしても切り替えが早いって本当の話。
あの後、何で泣いていたのか佐野さんに聞かれたあたしは、「覚えてません」の一点張りで事なき終えた。
佐野さんはいまいちあたしを信用していないらしく、何度も何度も『言うなよ』の4文字言葉を連発。
何故か心がスッキリしていたあたしは、
「今度の食事、妹さんも誘って下さいね」
と、冗談混じりに佐野さんに提案。すると、佐野さんは嬉しそうに「いいのっ!?」とまたもや変態シスコンぶりを発揮。
あたしは呆れを通り越して笑うしか無かった。
そして、肝心の良介とはあれ以来話し掛けられても仕事の話以外は全てスルーする日々を過ごし、「関わるな」オーラをここぞとばかりに放っていた。
そんなこんなで仕事をこなし、たばこを辞めてから1週間。
あたしが喫煙所でショボい禁煙パイポを吸っていると、佐野さんが姿を現した。
『安部、よく我慢したなぁ。』『もっと褒めて下さい。』『調子乗んな。ところで、飯何が食いたいの?』『うーん。焼肉ですかねぇ。』『分かった。美香にも言っとく。明日お前早番だろ?だから、夜7時にここの駐車場集合で。』『はーい。』
こうして話す分にはクールでいつもと変わらない佐野さんなのに。
あたしのイタズラ心にメラッと火がついた。
『美香さん、なんの仕事してるんですか?』『美容系の仕事。似合ってるだろ?制服もあいつにピッタリで・・・』『うんうん、それでそれで!?』『と、とにかく!!明日なっ!!』
うーーん。このギャップが可愛いと思えてしまう。
明日が楽しみで仕方がない。佐野さんが大事にしている妹の美香さん。どんな性格なのか、とても気になる・・・。
『焼肉たらふく食べよーっと。』
フロアに戻ると、金魚のフンみたいに着いてきては言い訳をしようとして来る良介。
『美桜、昨日の事なんだけど、跡部は俺の元カノで今は何でもないんだよっ!!』『何でも無いのに何で二人して下着姿の上半身裸!?暖房でも壊れてた?』『とにかく!今好きなのは美桜だけなんだってば!!』『そーゆーのめんどくさい。お願いだからこれ以上イラつかせないで。』
彩主任が聞き耳を立てている。これが噂になったところで、今のあたしはビクともしないが、心配なのは良介なんかよりも跡部さん。変な噂が大きくなり、跡部さんが悪者になってしまっては可哀想。
『とにかく、フロア内でそーゆー話しないで。』『じゃぁ、時間作ってくれる?』『あたしも暇じゃないの。跡部さんとお幸せに。』
ゴタゴタに巻き込まれるのはもううんざり。やっぱり、あたしには「友達以上恋人未満」が合ってるらしい。
それでいい。色気よりも食い気のあたしが一番自分らしい・・・。
悶々としていたあたしの心は、良介のお陰でリセット。
仕事一筋のあたしに戻る事が出来た。
「利用者様があたしの恋人」それをモットーに、これからも頑張って行こう。
そう思いながら仕事に励む事で時は過ぎ・・・。
佐野さんと美香さんとの約束との食事当日。
あたしは仕事を終えてから1度家に戻り、シャワーを浴びあたしなりのおめかしをして待ち合わせ場所へと向かった。
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