第25話 事故物件の様なあたしの人生。
『ただいま。』『あら、美桜お帰り。熱は?』『計ってない、今計る。』
懐かしき水銀の体温計。
高校の冬、学校に行くのがダルくてこの体温計をストーブに近付けたら破裂してめっちゃ怒られた事があったっけなぁ。
『38度6分。下がってきた。』『明日は休みでしょ?』『うん。でも、予定がある。』
・・・そう。実は、夜勤中に良介からLINEがあった。明日はあたしも良介も仕事が休み。
『良ければ、俺ん家に来ない?』という内容だった。
佐野さんの件があったのもあり、あたしは『行く』と返事をしてしまった。
『何の予定?』『何かの予定。』『とにかく今日は休んでなさい。』『かしこまりー。』
とにかくダルい。自分の性格もダルい。ここまで来ると、全部ダルい。
佐野さんとは一定の距離を置くことに決め、あたしを大事にしてくれる良介との関係を深めて行く事に決めた。
『あ、ゲーム辞めようかな・・・。』気付くとゲーム画面を開いてしまう癖が抜けていない。佐野さんと連絡先を交換していない分、唯一の言葉のやり取りはこのゲームのみ。
『アンインストール』
これをしてしまえば、全てがクリアになる。
『その前に最後だけゲーム開いてみようかな。』未練たらしいのは承知の上、あたしは『これが最後』と決め、ゲーム画面を開いた。
『課金までして頑張ったゲームだけど・・・でぇいっ!!』
画面を閉じ、アンインストール完了。唯一の楽しみであった、あたしの趣味があっさりと幕を閉じた。
そして、気が付くと寝てしまっていたあたしは枕の下から聞こえる携帯の着信音に、めんどくさいと思いながらも手を伸ばした。
『ん?誰これ?』
画面には、知らない番号が表示されている。あたしは情けないながらにも、淡い期待を持ちつつ電話に出てみた。
『もしもし。』『安部さんですか?』『そうですけど・・・。』
電話越しの主は女の人。聞いた感じでは、若くて物腰が柔らかくて穏やかで・・・。
でも、どこかで聞いた事のある様な声だった。
『私、他のフロアで働いている跡部遥(あとべはるか)と言います。』『・・・あっ、跡部さん!?』
思い出した。あたしの1つ上の階の職員で、あたしがたまにヘルプとして上の階に行くと、いつも優しく接してくれる笑顔の素敵なお姉さん。
『安部さん、ごめんね。突然電話しちゃって。』『いえ、それは構わないんですけど、どうしてあたしの番号知ってるんですか?』『うーん・・・、あのね、携帯チェックしてたら見付けてしまって・・・。』『携帯チェック?・・・誰のですか?』
『良介なんだけど。』
・・・ん?良介?あたしの彼氏の良介!?それとも、どこぞの良介さん!?
『あの、跡部さん。良介って・・・』『千葉良介。安部さんと同じフロアの。』『え、ごめんなさい。意味がよく・・・』
『あたしと良介、付き合ってるの。』
奈落の底に突き落とされた瞬間だった。
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