第24話 もう恋なんてしないなんて言わないよ多分。
『安部です。』入社面接時以来の会議室。約2年ぶり。『どうぞ。』この声は・・・。『失礼します。』やっぱり。佐野さんの声。
『佐野さん!?何で?あれ?事務長とかは!?』『あー、あれ嘘。』『嘘・・・?』お叱りの刑だとばかり思っていた。大御所三人揃っての呼び出しの時は、2時限コースの誘導尋問と耳にしていた。そして、耐えきれなくなった職員は『退職届』をだすという・・・。
『ビックリしたぁ・・・。佐野さん、驚かさないで下さい。』『安部、お前今日夜勤だろ?』『そうですけど。』『誰かに代わってもらって帰れ。』『無理だし、嫌です。大丈夫です。ちゃんと働けますから。』『さっきだってフラついてたじゃねーかよ。無理すんな。』
緊張の糸が解けたからか。それとも、熱によるダルさからなのか・・・。あたしの思考回路はまともに考えるという作動をしてくれない。
『佐野さんには関係ないです。』『ある。』『じゃぁ、何でですか?』『フラフラ状態のお前が利用者様を介護するなんて、逆に利用者様が危ない。』
何も言えない。確信を突かれてしまった。佐野さんの言う通り、こんな状態では介助なんて出来やしない。ましてや夜勤で職員もあたしだけ。何かあってからでは遅い・・・。
『でも、みんなに迷惑かけてしまいます。』『安部。もう少し人に頼る癖をつけろ。全部1人でやろうとするな。』『とにかく分かりました。誰か代わってくれる人がいたらお願いします。でも、いなかったらあたしが・・・』
『そん時は俺が夜勤やってやるよ。』
やっぱり、佐野さんの優しさはズルい。長年付き合ってる彼女がいるくせに。
どうしてあたしの心の中にズカズカと入り込んで来るの?
『佐野さんごめんなさい。』『え?』『佐野さんのそういう優しさ、普通に勘違いしちゃいます。』
自分の心に歯止めをしておかなきゃ。
そうしないと、あたしはこのままどんどん佐野さんに吸い込まれて行ってしまう。
『佐野さん、彼女さんいますよね?』『いるよ。』『なら、そういう優しさは彼女さんだけに向けてあげて下さい。』
きっと、もう佐野さんとは関わっちゃいけない段階まで来てるんだ。
『俺は安部の事をほっとけない。』『どうしてですか!?』『ゲーム仲間だから。』『なら、ゲーム辞めます。』『・・・辞めんのは勝手だけど。何でそんなに嫌がんの!?』
ちゃんと、良介の想いに答えてあげなきゃ・・・。
『あたし、彼氏がいるんです。』『へぇー、安部でも彼氏いたんだ。』『この施設の人です。』『・・・誰?』
もう、誰にも隠したりなんてしない。まっすぐに良介だけを想い続ける為に。
『千葉良介です。』
これからは、あたしはちゃんと良介と向き合って恋愛をして行くんだ。相手は佐野さんじゃない。
最初からこうしてれば良かったんだ・・・。
『千葉と?お前が?』『だから、佐野さんは彼女を大切にして下さい。失礼します。』『安部、ちよっと待て。千葉はっ・・・』
これでいい。・・・これでいいはずなのに。
後悔をしてしまっているのはどうしてなんだろう?
『気合いで夜勤やらなきゃ。』
あたしは火事場のクソ力で何とか夜勤を終え、佐野さんの視線に気付きながらも施設を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます