第23話 生活は腐女子でも、仕事はちゃんとやる自称偉い女。

『仕事、休みなさい。』『マスクすれば大丈夫だってば。薬も飲んだし。』夜勤当日の昼過ぎ。あたしは、未だ下がらない熱と格闘しながら、お母さんと言い合いをしていた。


『そんな身体で行っても、他の人に迷惑掛けるだけでしょ!?』『気合いで何とかなる。』『ならない!!いいから休みなさいっ!』『無理そうだったらちゃんと早退してくるから!!』あたしが休んでしまうと、シフト全体が大きく変わってしまう。それに、シフトを取り仕切っているのは彩主任。


・・・何がなんでも行かないと、『ほれ見ろ』と言わんばかりにボロクソ言われかねない。


『バカは風邪引かないって昔から言われてるのにねぇ・・・。』『我が娘をバカ扱いするのでありますか?』『とにかく、無理だと思ったらすぐに帰って来なさいよ!』『ほーい。』


ベッドからゆっくり起き上がったあたしは、携帯を手に取りゲーム画面を開いた。


『あ、今日対戦日だった。すっかり忘れてた。』攻撃をしていないのはあたしだけ。『仕事行く前に終わらせちゃお。』


ボーッとする意識の中、あたしはいつも通り相手の基地を破壊する為、ありとあらゆる手を使い・・・見事に完敗した。


『破壊率5%って・・・。ある意味中々取れない数字だ。』


頭痛が酷く、目眩もする。そして何より身体がダルい。


『病院行きがてら仕事に行こっかな。』いつもより早めに家を出たあたしは、職場の近くにある病院に行き、『風邪』と診断され点滴を余儀なくされた後、多少復活した状態で職場へと向かった。


『お疲れ様です。』『安部さーん、お疲れっす!』『ヤバい、ア悪化しそう・・・。』ウザい奴はひたすらスルー。『なんか、顔色悪くないっすか?』『まぁね。仕事しろ。』『俺が介護してあげましょうか?(笑)』『大丈夫だから仕事しろ。』


シフト表を確認すると、今日は中々の最悪な面子。チャラ男と彩主任に媚び売りまくりの40代バツ3女、それと・・・。


『あ、安部さんお疲れ様!』『高橋さん、お疲れ様です。あれ?残業ですか?』パートの高橋さんは、通常朝8時から午後の3時まで。もう時刻は3時を過ぎているというのに、高橋さんはひとりひとりパタパタと動いていた。


『どうかしたんですか?』『昨日安部さんが見付けてくれた利用者様が熱出しちゃって・・・。』『え!?』『呼吸が苦しそうだから、今から病院に連れて行くみたいなの。だから、その準備に追われてて。』


昨日、あんな土砂降りの雨の中で、しかも3月というまだまだ寒い季節に目を離し、外へと出してしまったせい。

あたしは、慌ててその利用者様の部屋へと向かった。


『失礼します。』あたしが部屋に入り目にした光景・・・。それは、酸素マスクをしている利用者様の姿だった。


『ごめんね、もっと早く見付けてあげれてたら、こんな事にはならなかったんだよね。』あたしはデスクに向かいパソコンで利用者様の記録を遡って状態を確認。

昨日の夜中から熱を出し、朝食も昼食も取れていなく呼吸が苦しそうとの事。


『肺炎にでもなったらどうしよう。』あたしがパソコンで画面に張り付いていると、小久保(さん)と佐野さんがストレッチャーを運びながらフロアへと上がって来た。


『あ、安部さん。お疲れ様です。』『小久保さん、お疲れ様です。今から病院ですか?』『そう。きっと入院になるんじゃないかな?』『・・・入院。』『安部、ちょっと手伝え。』佐野さんに呼ばれたあたしは利用者様をストレッチャーに移す為、部屋へと入った。


『せーので行くぞ。』『分かりました。』『せーのっ!!』身体に力を込めた瞬間グラっと酷い目眩があたしを襲う。

『安部?どうした?』『なんでもないです。』『顔色悪いな。』佐野さんがあたしに近付き、額に手を当てた。


『お前も熱あんじゃねーかよ!?』『生きてるので熱はあります。』『そうじゃなくて、すげぇ熱かっ・・・』


『佐野さん、急がないと病院の方に失礼ですよ。』


小久保(さん)の一言で、佐野さんはストレッチャーを掴みあたしの前を通り過ぎる。


『すみません、宜しくお願いします。』二人に頭を下げ、あたしはエレベーターまでお見送りをした。エレベーターのドアが閉まる瞬間、佐野さんはあたしに口パクで何かを言っていた様だったが、熱でほとんど機能していない脳みそは佐野さんがあたしに何を伝えたかったのか読み取る事が出来なかった。


それから約一時間後。利用者様が入院したという情報を戻ってきた小久保さんから聞き、更に事務長と介護長、看護師長があたしを呼んでいるという報告を受け、一階にある会議室へと向かった。

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