第22話 オスかメスかと聞かれたら右から左に聞き流す。

『彩主任、報告書です。』『あ、その辺に置いといて。』『は?』『今忙しいから、後で確認するから。』


新聞のチラシ読み漁ってる奴が『忙がしい』だと?

・・・あれか。ついに始まったか。

『気に入らない奴撲滅運動』



説明しよう。『気に入らない撲滅運動』とは、その名の通り、気に入らない奴を撲滅する運動である。


つまり、そのままである。


『あ、そうだ。安部さん。』『主任、何ですか?』『今の休憩分、昼の休憩無しで働いてね。みんなにも伝えとくから。』


出たよ。晒し上げの刑が。

いいだろう。勝負しようではないか。売られた喧嘩は転売せずに買いますとも。ばっちこい、こんちくしょー。


『分かりました。あの、彩主任は今休憩中なんですよね?』『チラシをまとめてるだけだけど?』『あ、その言い訳使えますね!ありがとうございます。』


媚びなんて売ってられるか。こうなりゃ良介との関係だって・・・バレたら良介の身に危険が。ダメだ、やめよう。

でも、たまに思う事がある。『女性らしくなりたい』。

小久保みたいなのはお断りだけど、『守ってやりたい』と男性共がハラハラしてしまう様な、可愛らしい女になりたい。


あたしはきっと、生まれて来る瞬間にオスかメスかで最後の最後まで神様が悩んだからこんなに男女混合みたいな性格なんだ。


『安部は友達以上恋人未満止まり』


よく職場の男性に言われるし、去年の夏なんて女性職員に、『安部さんとなら、安心してうちの旦那と一泊させられる。』まで言われたけど。


そんなあたしだって、佐野さんを目の前にしては『言いたい事も言えないこんな世の中じゃ』になるんだから!


良介は『癒し』のままの安定。一方、佐野さんは『憧れ』からの『トキメキ』・・・。

もう、答えは既に出ているはず。

いつまでもこんな関係は、良くないって分かってる。


『二兎を追うものは一兎をも得ず』。


ちゃんとハッキリさせなきゃいけない日が近付いている。

佐野さんと食事に行く事になる前に、ちゃんと・・・。


『なんか・・・具合悪い。』休憩が無くなったあたしは、勤務終了時間までひたすらシーツ交換をし続け、どんどん具合が悪くなってくる自分にムチを打ち、なんとか今日の任務は終了した。


その日の夜。凄まじい悪寒があたしを襲い、熱を計ってみると39度越えの発熱。明日は夜勤、夕方までに何としてでも治さなければ、他の職員に迷惑を掛けてしまう。


あたしは冷蔵庫にあった腐りかけのネギを首に巻き、44度の熱い風呂に入って汗を流し・・・。


余計に悪化した。

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