第21話 焚き火がこれほどまでにしょぼいとは思わなかった件について。

『あー、このまま帰りたい。』いつにも増して今日はヤル気が出ない。少しずつ乾いてきた身体は冷えきっていて、外の空気が余計に体感温度を下げる。


『結局タバコ辞めらんないか・・・。』そう呟き、タバコに火をつけようとした時。

『あ、嘘つき発見。』佐野さんが喫煙所に現れた。


『え?これ、焚き火ですよ?』『そんなんで温まるかよ(笑)』『もーえろよもえろーよー』『心配して損したわ。ほら。』ポイっと投げられたのは、温かいココア。


『安部、タバコ吸うの?』『今になって悩んでます。』『吸うなよ。飯食いに行けなくなんだろ。』『・・・もう一回言って貰ってもいいです?』


『1週間頑張って、俺と飯食いに行くんだろ!?』


そうだ。行くんだ。行くんだよぉーう。体感温度上がったよぉーう。

・・・でもさ、いいのかな?


『佐野さん。一個聞いてもいいですか?』『何だよ?』『彼女さんに、悪くないですか?』


わしもじゃい。良介いるのに佐野さんと食事だなんて・・・。

いや、待てよ?お互い『やましい気持ち』が無ければ行っても大丈夫なのではなかろうか!?


『俺さ、束縛されんのだいっきらいなんだよね。』『あ、激しく同意。』『あいつもそれ分かってるからさ。だから、お互いにあんま干渉し合わない事にしてんの。』


良介はどうなんだろう?『佐野さんとご飯に行くね』って言ったら、『行っておいで』って言ってくれるのかな?

・・・間違いなく嫌がるだろうな。うん。


『だから、我慢しろよ。』『佐野さん、食べ物で何が好きなんですか?』『俺は酒が飲めれば何でもいい。』『あ、アル中ですか。』『喧嘩売ってんの?(笑)』


そうこうしている間に、タバコは小指の第一関節位にまでなってしまった。

・・・つまり、タバコを吸えなかったのである。


『食いたい物、考えとけよ。』『あ、ちょっと待って佐野さん。あの、今日はすみませんでした。』『・・・したよ。』『え?聞こえないです。』


『安部の事、見直したよ。』


そう言い残し、事務所へと戻って行った佐野さん。

・・・『見直したよ。』からの『尊敬してるよ。』からの『お前が好きだよ。』んな訳ない。現実見ろ。


『やっぱりタバコ吸うの辞めた。焼き肉奢ってもらお。』

やっぱり、良介にはちゃんと断ってからにしよう。もし、それで『行かないで欲しい』と言われたら・・・。


『焼き肉じゃなくて、ラーメンにすればいいんだよね。』


報告書を手にしたあたしはフロアへと戻り、かなり不機嫌な彩主任を放置しながら仕事を再開。入浴を終えた利用者様は、体力を消耗していたのだろう・・・、昼食時間まで大人しく爆睡していた。


『良介、こんなに残業させちゃってごめんね。』『いいよ、どうせ暇だし。ところで美桜、タバコ吸ったの?(笑)』『あー・・・、良介のタバコ、メンソールじゃないから吸えなかった。でも、ありがとう。』『そっか。でもちゃんと禁煙生活守れてて凄いね。見直したよ。』


・・・良介からも言われてしまった『見直したよ』。

みんなして見直したばっかり言うけど、よくよく考えると見直さないあたしってどんなイメージな訳!?


『じゃぁ、俺帰るね。美桜、頑張ってね。』『うん、ありがと。お疲れ様。』良介と別れを告げた後、あたしは報告書を片手に彩主任のもとへと向かった。


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