第20話 どこの職場にもよくいるクズな奴。
『介護長、事務長、申し訳ありませんでした。』『安部が悪いわけじゃないだろ?』介護長の言葉に、あたしは何を言い返す事もせず、利用者様をフロアへと手を繋ぎながら案内する。
『安部。』『佐野さんも、すみませんでした。』『何でお前が謝るんだよ?』『・・・すみませんが、急いでるので。』
冷えきっている利用者の身体。いまから入浴をして貰って温かい飲み物を提供して・・・。
『安部さん!!』『ゆき主任。』フロアへ上がると、ゆき主任が安心さた表情で近寄ってきた。『どこにいたの?』『自宅の近くの公園です。』『・・・良かった。それでね、報告書の件なんだけど・・・』
反吐が出る。こんな人が主任だと思うと、苛立ちが募る。
の体裁なんてどうだっていーだろうが。
報告書なんざ、いくらでも書いてやるっつーの。
『あたし書きます。』『いいの!?安部さん、勤務外だったのに大丈夫!?』『・・・白々しいわ、マジで。』『え?』『いえ、何でもないです。』
タバコが吸えない分、余計にイライラしてしまう。
『美桜っ!』『良介・・・?どうしたの?』『俺の担当の利用者様だったから、心配になって来たんだ。美桜が探してくれたんだって?』『そんな大袈裟な話じゃないよ。』『美桜、ずぶ濡れじゃん!!タオルで拭きなよ!』『その前に利用者様をお風呂にいれてあげないと風邪引いたら大変。』
『利用者様も大事だけど、俺は美桜も大事。』
良介の言葉がグッと胸に込み上げる。
『入浴介助は俺がするから、美桜は少し休みなよ。』『ありがとう、良介。じゃぁ、あたし報告書書くわ。』『え?何で美桜が?』『いいの。めんどくせーからあたし書く。』
デスクに座り、パソコンと向き合う。
『事故報告書』
これは、主任会議の時に取り上げられる報告書。
ドクターも、看護師長も・・・みんなが目を通し、内容が酷ければお叱りを受ける事になる。
でも、そんな事よりもっと大事な事・・・。
利用者様が無事だった事に目を向ける事が、どうして出来ない!?
『あー腹立つ。』『美桜、俺のタバコいる?』『・・・貰おっかな。ちょっくら行ってきます。』
エレベーター前。ゆき主任があたしに声を掛けて来た。
『安部さん、どこ行くの?』『喫煙所。』『え?だってまだ休憩時間じゃないでしょ?』『常に休憩時間みたいな貴方に言われたくないですね。』
・・・言っちゃったぁー。だってムカつくんだもん。あーあ、明日からあたしは犯罪者的扱いになるんだろよ。
でも、若干ビビってる自分がいたりする。
『あ、事務所に報告書のコピー取りに行かなきゃ。』
あたしは一服する前にお堅い人達の集である事務所へと向かった。頭も固いが顔も固い人ばっか。
・・・佐野さんだけは何故か違うけど。
『失礼します。』顔がやたらデカい事務長と、表情筋が一切無いおばさん、それに昔はイケメンだったが結婚して幸せ太りしてから人気がた落ちの課長。二代目ドラえもんのパソコンおたく野郎、それと、顔が逆らっきょうで割引大好き人間、別フロア担当のケアマネージャーに、佐野さん。
まぁ、ある意味濃い面子の事務所の中に飛び込んで行くのには、結構勇気がいる。
『報告書のコピー、取らせて頂きます。』
・・・全員無視。フルシカト。この野郎と思いながらも、あたしはコピーを取り、頭を膝下より深々と下げた後喫煙所へと向かった。
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