第14話 ダメ介護士を成長させてくれたおばあちゃん。
『呼吸の回数が明らかに減ってる・・・。』あたしは夜勤の看護師を呼び、バイタル測定をして貰った。『やっぱり計れない。先生に電話して今後の対応聞いてくるから。』『すみません、お願いします。』
一分でも、一秒でも長く生きて欲しい。そう思うのはあたし達のエゴかもしれない。本人はずっと前から沢山頑張って来た。・・・そして今も。だから、『頑張れ』とは言わない。
あたしに出来る事は、介護士として安らかに苦しむ事なく旅立てる様、サポートしてあげたい。ただそれだけ・・・。
『失礼します。』『佐野さんっ!』『看護師から容態は聞いた。息子さん、ドクターは今こっちに向かってます。ただ、間に合うかどうか分かりません。』『すみません、お手数をおかけします。』『ムンテラの話し合いの通り、延命措置等は行わないで宜しかったですよね?』『はい。もう、苦しませたくはないので・・・。』
走馬灯の様に思い出す。桜の季節は花見ドライブを。夏の季節は施設でスイカ割りを。秋の季節には一緒に芋煮を作った。そして冬には、あたしに手編みのマフラーを編んでプレゼントしてくれた・・・。
『安部、手を握ってやれ。』『はい。』左の手は息子さんが。そして、右の手はあたしが。おばあちゃんの温もりを感じながらそっと握る。
『看護師呼んでくる!!』佐野さんがそう言った時だった。
おばあちゃんは大きく深呼吸をした後・・・呼吸をするのを止めた。
『お袋っ!!』息子さんの泣き声、そして、少し笑みを浮かべた表情で頑張る事をやめたおばあちゃんの最期。そして、看護師と佐野さんが到着し、心配停止の確認・・・。
『今、ドクターが施設に到着しました。間に合わず、申し訳ありません。』看護師の言葉に泣き崩れる息子さん。あたしは、まだ温もりがあるおばあちゃんの手を握り締めたまま、『また息を吹き返すのではないか』と、口元をずっと眺めているだけ。
そして数分後、ドクターが部屋に到着。睫毛反射・対光反射の消失、胸部聴診、橈骨動脈・頸動脈の触診を終えた後、ドクターはご家族に向かって死亡宣告を告げた。
『今まで、お世話になりました。』息子さんが私達に泣きながら頭を下げた。『安部、行くぞ。』佐野さんの言葉が聞こえていない訳ではない。現実を受け入れられない自分がいるだけ。
『安部っ!!』『だって、まだ全然温かいじゃないですか。』『今からエンゼルケアをする。部屋から出るぞ。』『安部さん、今まで本当にありがとう。最期にお袋に何か言葉を掛けてやって下さい。』
最期・・・?これが『別れ』?
そうか。あたしは、もう2度とおばあちゃんの笑顔を見る事はないんだ・・・。
『最期の・・・言葉。』 あたしがおばあちゃんに1番伝えたい事・・・。『頑張ったね』違う。『大好きだよ』そうじゃない。
『あたしは、貴方の孫としてとても幸せでした。一生忘れません。』
頭を下げ、あたしと佐野さんは部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます