第13話 介護士として1番悲しい仕事。
『お疲れ様です!』『あ、美桜っ!』『どうなの!?』『血圧がもう測れないし、点滴をしたくてもラインが確保出来ないみたいなんだ。』
あたしは急ぎ足で部屋へと向かう。すると、中には息子さんやお孫ちゃん達の姿があり、おばあちゃんは一生懸命荒い呼吸をしながらも、『生きたい』という想いが強く伝わってきた。
そして、あたしが到着後してから数分後。佐野さんが事務所から状態確認の為に部屋へと入ってきた。
『安部、いたのか。』『佐野さん、お疲れ様です。』佐野さんはご家族に深々と頭を下げた後、おばあちゃんの手首を触りながら息子さんにこう言った。
『脈がもうとれません。でも、人間、最期まで聴覚は奪われないとよく聞きます。沢山話し掛けてあげてください。』
『わかりました。』そう息子さんが言った後、すぐに『安部さん。』突然、息子さんがあたしの名前を呼んだ。
『あ、はい。』『お袋がまだ元気だった頃、よく安部さんの話を聞きました。』『あたしですか!?』『いつも一生懸命で、いつも面白い事を言って笑わせてくれるんだって。』
そんな事ない。あたしは一生懸命なんかじゃない。ただ必死なだけ。それに、笑わせてくれてたのはおばあちゃんの方で・・・、あたしは何もしてあげれてない。
『あたしは何も・・・』『だから、安部さんにお願いがあるんです。』『お願い?ですか?』『出来れば、一緒にお袋の最期を看取ってやって欲しいんです。』
『看取る。』確かに担当ではあるが、部外者であるあたしがこの場にいて、しかも家族と一緒に看取る行為をしてもいいのだろうか?
『佐野さん・・・あの・・・』『担当として最期までしっかりやれ。』『いいんですか!?』『また、様子を見に来る。』ケアマネージャーである佐野さんからのOKサインが出た。明日は休み。いくらでも付き添いは出来る・・・。
『こんなあたしで良ければ、一緒にいさせて下さい!!』『ありがとう、安部さん。お袋も喜ぶと思います。』それから、あたし達は狭い一室の中で、若かりし頃のおばあちゃんの話を聞いたり、先に旅立たれたおばあちゃんの旦那様の話を聞いたり・・・、思い出話に花を咲かせていた。
そして、残業を終えた良介が部屋に顔を出し、ご家族とおばあちゃんに挨拶をした後、静かに部屋を後にした。
今日の夜勤はゆき主任。あたしはゆき主任に一連の流れを報告し、付き添いの許可を佐野さんから貰った事を告げると、『安部さんが対応してくれるなら楽ね。』という、半ば無責任な発言にイラッとしたが、今はそんな場合じゃないと己の怒りを沈め再びおばあちゃんの部屋に戻った。
・・・そして、外の景色も暗さを増し、他の利用者様達が就寝の支度を始める頃。おばあちゃんの容態は更に悪化した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます