第12話 自分で胸を成長させようと頑張っても無意味な件について。
夜勤が終わり、帰宅したあたしは迷わず風呂へと直行。有り難い事に、お母さんはあたしが夜勤明けの時はお風呂を沸かし、軽い朝食を用意してくれている。
申し遅れたが、我が家は5人家族でお父さん、お母さん、そして、2歳上の兄と、1歳上の姉がいる。
・・・いわば、あたしは末っ子なのだ。
『あー、疲れた。腹減った。風呂最高。』
あたしは携帯を濡らさないように風呂場に持ち込み、お決まりのゲーム画面を開いた。『・・・ん?』ゲーム仲間専用のチャット欄に、佐野さんが1時間前に一言だけコメントを残している。
『気にすんな。』
誰に向けられたコメントなのか、前後の会話内容を探ってみるが、このセリフが当てはまる内容は何処にも見当たらない。
『もしかして・・・あたしに?なのかな?』100歩譲ってあたしに向けられたコメントだったとしても、『ありがとうございます。』と返す勇気がない。・・・だって、違うかもしれないし。
『おかあさーん!お腹空いたぁー!』『ならさっさと上がんなさいよ。いつまで入ってんの。』
風呂から上がったあたしは、全身鏡の前で身体を拭きながら無意味なポーズを取ってみた。
『おっぱいちっさ・・・あ、揉むとデカくなるんだっけか。』
ここから一人変態開始。両手でわしゃわしゃと胸を揉みまくるあたし。『大きくなぁれ!』
ガラッ!!突然脱衣所の扉が開いた。
『・・・あんた何やってんの?』『あ。お姉さま・・・、おはようございます。』『おかあさーん!美桜を病院に連れてってー!!』
全裸で自ら自分の胸を揉みまくる姿。恥ずかしいが、何処か勇ましくも感じる。
『美桜、早く寝な。疲れてんだよ。』『あたしは、おっぱいがいっぱいになりたいのです。』『可哀想に・・・。』『さっ!!ご飯食べて現実逃避しよーっと!!』
こんな妹を本気で心配し、肩を落とす姉を放置したあたしは朝ごはんを食べ、換気扇の下でたばこを吸い終えてのようやく自分の部屋へと到着。
『明日は休みだぁ。ひたすら寝てよー。』と、言ったのまでは覚えている。
・・・あたしは寝入るのがとてつもなく早く、そしていつまででも寝ていられる女。典型的なダメ女である。アラームをかけなくていいし、寝たいだけ寝て起きたい時に起きる。そんな25歳。『結婚』という文字には程遠い。でも、今はそれでいいのだ。
『美桜ーっ!!職場から電話よー!!』『・・・職場?』『美桜!!早くしなさい!!』まだまだ眠い目をこすり、携帯を確認すると、時刻は夕方の5時過ぎ。そして、良介からの着信が何度も入っていた。あたしはとりあえず急いで一階へと降り、電話に出た。
『はい、安部です。』『あ、美桜!?』『良介?どうしたの?携帯にも沢山着信が・・・』『美桜担当の利用者様の容態が悪化したんだ。今から来れる?』『え?悪化?』
その利用者様は、あたしが入社した時から既にいた可愛らしいおばあちゃんで、多少の認知症はあったがあたしを孫の様に思ってくれ、とても可愛がってくれていた。でも、風邪をこじらせ軽い肺炎になり、そこから急激に体力が衰えベッド上での生活となってしまっていた。会話も減り、覇気もこのところ薄れ、心配していた所だった。
『今から行く。』『待ってる。美桜、運転気を付けてね。』
入社して2年。あたしはまだ利用者様との別れに携わった経験がない。悪化した利用者様は大概病院送りとなり、そこで最期を迎えるか、復活して戻ってくるか。
でも、このおばあちゃんだけは『最期をこの施設で送りたい』とずっと言ってた人・・・。
『お母さん、ちょっと職場行ってくる。』『美桜、夕飯は?』『いらない!!』
どうか、立て直して欲しい。
焦る気持ちをこらえ、あたしは車をかっ飛ばし施設へと向かった。
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