第11話 性悪女に目を付けられたが、なんとか一難を越えられた朝。

『お疲れ様でーす。』あたしがデスクでパソコン作業をしていると、今日も爽やかサラサラ頭の佐野さんが登場。あたしと目が合うなり、今日もサラッと毒を撒いて来た。


『顔、むくんでっけど。』『ありがとうございます。』『褒めてねーから(笑)』佐野さんは夜勤中の状態をパソコンで確認した後、一瞬固まりあたしにこう言ってきた。


『安部、お前寝過ごしたの? 』『え?』『小久保の記録に書いてあるけど。』


あんにゃろう。誰もが目を通すパソコンにしっかりと暴露してんだろーが。何が『ゆき主任には内緒にしておくね』だよ。あたしの行動、全フロアに丸わかりじゃろうが。


『あっ!佐野さん、おはようございます!』『小久保さん、お疲れ様。何か変わりあった?』『変わりですか?利用者様はないですけど、安部さんが体調悪かったのか、ずっと寝てました 』


はいはい。何となく分かってましたよ。いや、あたしが悪いから仕方ないんですけどね。だから、反省してますよ。もはや、反省したふりですよ。ここは敢えてハンカチ噛んで我慢します。


『安部、体調悪いの?』『いえ、悪くないです。』『佐野さん!安部さん疲れてただけだと思うので。仕事は私一人でなんとかこなせましたし・・・。』


お前一人じゃねーだろ。良介いただろうが。冗談も大概にせぇ。

・・・なーんて事も、今のあたしに言える権限はない。

『あ!佐野さん!お疲れ様です。』『お、千葉!お疲れ。何か変わりあった?』『いや、何もないですよ?美桜もしっかり業務こなしてましたし。』『ふーん・・・。』


小久保と良介と佐野さんのトライアングル形式会話が怖い。いつもなら会話に混ざっていけるのに、自分のしてしまった失態が尾を引いていて、パソコンに夢中になってる風女子にならざるおえない。


『何もないならいいんだ。了解。』『あ!佐野さん、安部さんって報告書とか書いて貰った方がいいですか?』


・・・え?報告書?


『小久保さん、美桜はちゃんとやったから書かなくていいんじゃないかな?』『でも、パソコンの情報って、事務長とか他のスタッフも確認中しますよね?佐野さん、どう思いますか?』


そうか。小久保は典型的な『人の不幸は蜜の味』の女なのか。それを吸収してエネルギーに変えて人生楽しんでんだな。

もういい。どんどん吸ってくれ。そして自分のイメージを爆上げするがいい。


今日は仕事終わったらふて寝しよ。(またしても風呂入らない説)


『小久保。』『はい、佐野さん何ですか?』『パソコンににゅうりょくするのは、利用者様の状況だけであって、安部の報告まではいらない。消してもらっていい?』『え、でも・・・』『安部のこの面見りゃわかんだろ。反省してるだろうし、報告書も利用者様に関しての報告書だ。書く必要はない。んじゃな。』


小久保撃沈。まぁ、佐野さんはあたしを庇った訳ではなく、本当の事を言ったまで。良介も口パクで『良かったね。』と、あたしに言ってくれた。まぁ、一安心した所ではあるが、小久保のクソ面白くなさげな表情・・・。これは絶対に仕返しが来る。


『安部さん、良かったね。佐野さん優しくて。』『以後、気を付けます。』『私、今日疲れたので定時で上がります。安部さん、ちゃんと最後まで仕事していって下さいね。』『ほーい。』


ツンとした態度でフロアから姿を消した小久保(さん)。今回は佐野さんの一言で難を逃れられた。ホッと一安心をしていると、良介がボソッとこう言った。


『佐野さんって、やっぱり美桜には優しい気がする。』『そう?いつもあんな感じだよ。』『まぁ、いいや。美桜の今の彼氏は俺だし。今回は佐野さんに助けられたけど、次からは俺が美桜を守るから。』


このまま一緒に良介といれば、『本気で好き』と思えるようになれるのだろうか?今のあたしは、良介に無駄な時間を過ごさせてしまっているのではなかろうか・・・?


『誰の手も借りないくらいに、成長致します。』


そう言うことで、良介の強い想いをシャットアウトしたあたしは、勤務終了時間である9時半。

定時で帰るというクズっぷりを発揮したのであった。

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