第7話 ドリームとリアルの明らかな違い。
『安部さん、今日はいつもより遅いんじゃない?』『あー・・・、寝坊しました。すんません。』
噂大好き人間のゆき主任が、あたしに嫌味がてらの挨拶をかまして来た。ゆき主任はこの施設が開設してからずっと居座り続けている、いわば『お局』的な存在。こいつを敵に回すとろくな噂が後をたたない為、みんなはそれを恐れながら仕事をしていた。
『ゆき主任、後は私やるので上がって下さい。』『え?でも、まだ仕事が結構残ってるわよ!?』『あー大丈夫です。私がやっておきますから。お疲れ様でした。』『・・・そこまで言うなら、今日は定時で上がらせて貰おうかなっ!』
単に一緒に仕事をしたくないだけだってば。勘違いすんな。
自分のペースでした方が、よっぽど効率いいわ。・・・てのが本音。
『じゃぁ、安部さん後は宜しくね!』『はーい。』
これから利用者様達の夕飯に取り掛かる。ぶっちゃけ、1人で介助をしていくのは相当キツい。
この施設は一階ごとに『東フロア』と『西フロア』に別れており、あたしは『西フロア』担当。『東フロア』には、もう一人8時半まで勤務の男がいるが、サボリ癖が強い男で期待出来ない。
『まぁ、順番にやってこ。』夕食が地下から上がってくるまで、利用者様を起こし、決められた席へと案内する。もしくは介助する。その作業をしていた時だった。
『お疲れー。』『佐野さん!』『あ、安部が今日夜勤なの?』『はい。』『ふーん。あれ、ゆき主任は?』
夢の中の出来事があたしの頭を勝手に駆け巡り、告白された気分からスッキリ抜けきれてないあたしは、恥ずかしくて佐野さんの顔を見れない。
『主任は帰ってもらいました。』『は?何で?お前一人で夕食介助出来んの?』『元気があれば何でも出来る。』『出来ねーよ!バカなの?お前!』
バカだからあんな夢見るんです。呆れ顔の佐野さんは、フロアの状況を確認した後無言で事務所へと降りて行ってしまった。
そして、ヒィヒィ言いながら利用者様全員を席に着かせ、夕方の五時半。地下から夕食が上がってきた。
『安部さーん。東フロア大変っすよー。』『黙って仕事しろ。』『あはは(笑)相変わらずキツいっすねー!!』あたしよりも一回り以上歳上のこの男。携帯ばっか見ていて本当使えない。予想では、こいつ一人では東フロアの介助が回らず、あたしが手伝う事になるのだろう。
『あいつの為じゃない。利用者様の為だから仕方ない。』とにもかくにも、まずは西フロアの食事を開始。一人で食べれる人、半分お手伝いをして食べて貰う人。そして、全て介助をしなければ食べれない人・・・。仕事内容はとても大変だが、あたしはこの仕事が大好きで苦と感じた事が無い。むしろ、苦だと感じるのはめんどくさい人達との関わりの方。
『よし!やるかっ!!』
腕捲りをし、エプロンを着けていざ、始めようとした時・・・。
『仕事も終わったし、暇だから手伝ってやる。』『佐野さん!?』『利用者様待たせたら可哀想だろ。』
定時で仕事を切り上げてきた佐野さんが、なななんと手伝いに来てくれた。
『申し訳ないからいいです!あたし一人で大丈夫ですから!』『安部、夜勤はこれからだぞ。ここで体力使いきってどーすんだよ。その代わり、次の対戦は勝てよ。』
優しすぎるだろがーーっ!!こんなの反則。ダメ、絶対。
介護歴の大先輩、佐野さんはあたしには絶対見せない優しい笑顔で利用者様に食事の介助を始めた。そして・・・
あたしも佐野さんに介助されたいと心から思った。
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