第6話 まさかまさかの・・・!?
『安部、お疲れ。』『あれ?佐野さん、サボリですか?』いつもの喫煙所。夜勤のあたしは4時半から始まる仕事にも関わらず、みんなが早く出勤するから自分も真似して早く来ている・・・みたいな感じ。
そんなこんなで夕方4時に前に職場へ到着。夜勤の激務に早々とダルさを感じながらも、初っぱなから佐野さんに出くわすとは、なんたる幸運。
『安部を待ってた。』いつもの如く、タバコを加えながら壁に寄り掛かっている佐野さんを目の前に、あたしはまたゲームの説教をされるのだと思っていた。『え?あたしをですか?何で?』あたしは鞄の中からタバコを取り出し、火を付ける。
『俺、彼女と別れたんだよね。』『え?佐野さんから彼女いたんですか?』
とかって、白々しく言ってみるあたし。本音は嬉しくて頭に花咲いてるのに。
『いたけど、他に好きな女が出来たから別れた。』
ちょいちょい。落ち着けあたし。何を勘違いしとる。佐野さんの『他に好きな人が出来た』の好きな人はあたしだと思うなよ。 そうじゃなかった時のダメージがでか過ぎる。
でも、普通期待するよね。このシチュエーションなら。
『そうなんですね。』『まぁ、好きな女ってお前なんだけど。』
ほらぁーーー!!やっぱりこうなるじゃぁーーん!!
・・・違う違う。素直に喜んじゃダメだった。あたしには彼氏がいる。
『美桜、何してるの?』『え!?良介?』『佐野さん、美桜に仕事以外で関わるの、辞めて貰えますか?』『何?お前。安部の何なの!?』
何だこれは?よくあるドラマのワンシーンではないか。ドロドロの昼ドラ感覚の。ヤバいです。ここ、視聴率上がる所です。
『美桜は俺の彼女です。俺達、付き合ってるんです。』『・・・安部、そうなの?』『そうみたいです。』『へぇー。安部って彼氏いたんだ。』
憧れていた恋の板挟み。佐野さんの不満そうな表情があたしをドキドキさせ、良介の真剣な表情があたしをハラハラさせる。まさか、佐野さんがあたしを好きになってくれるなんて、思いもよらなかった。
だがしかし、今のあたしは喜んではいけないのである。
『安部。』『な、なんでしょう?』『お前が選べよ。』『何をでしょう!?』『そうだね。美桜が決めてよ。俺を取るか、佐野さんに行くか。』
うーん。悩める乙女炸裂。とかほざいてる場合じゃない。今のあたしの気持ち・・・。佐野さんはあたしの憧れであり、良介は現在の彼氏であり、不満な所は一切ない。
『憧れ』と『彼氏』。でも、あたしの心が求めているのは・・・。
『安部、俺にしとけよ。』『美桜、俺は美桜を大事にする。』『あたしは・・・』
『安部、早くしないと相手の援軍が来るぞ。』
・・・え?援軍?今、間違いなく『援軍』って言ったよね!?
『美桜、急いで!』『安部、今回は勝てよ』『いや、佐野さんも良介も、あの何か・・・』
『だぁぁぁぁーーーーっ!!!!』
『美桜っ!!家の中で騒がないの!うるさいっ!!』
母上のお叱りの声が聞こえる。
そして、あたしは自分の部屋のベッドに昨夜の服装のまま横たわっている。
『なんじゃこりゃ。夢!?』
携帯電話時間を確認すると、夕方の4時。
『やばっ!!夜勤なのに遅刻する!!』
どこまでが現実で、どこからが夢なのか考える暇もない。ついでに風呂に入る時間も着替える時間もない。
・・・きったねー。
『夢で疲れた・・・。仕事行きたくない。』
佐野さんの勤務時間は朝の8時半から夕方5時半。週に一度だけ、遅番で夜の7時半まで残っている。
『このメンタルで佐野さんに会うのきっつー・・・。』
結局、あたしは風呂にも入らず着替えもせず、メイクだけ、昨夜の顔面に上塗りをして夜勤へと向かうのであった。
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