第二百九十話 母娘対決(3)
迫りくる"ラー・グルム"とミサイル。双方を同時に対処せねば、勝ち目はない。しかしディアローズは皇帝に背を向け、ミサイルにライフルを向けた。コンソールを叩いてレーザータレットとライフルの火器管制をリンクさせる。
発砲を半自動に設定し、迎撃開始。レーザータレットが撃ち落としたミサイルを、ビームが正確に射貫いていく。サイズこそ小さいが単調な動きしかできないのがミサイルだ。セミオート射撃でも容易に撃ち落とすことが出来た。あっという間に、すべてのミサイルが無力化された。
「くくく、血迷ったか!」
しかし、差し迫った脅威はミサイルだけではないのだ。背後から、弾丸のような勢いで"ラー・グルム"が肉薄してくる。メガライフル乱射のオマケつきだ。背を向けたまま、ランダム回避運動で射撃を避けるディアローズ。
コックピットのモニターには、真紅のビームが真後ろから前方へと飛んでいく様子が表示されていた。前方からの射撃でさえかなり恐ろしいというのに、後ろから来る射撃ともなればシャレにならないほどの恐怖を覚えた。ディアローズは背筋を震わせたが、それでも怯みはしない。
「そこだッ!」
振り向きもせず、腕だけ後ろに突き出してライフルを発砲する。当然だがライフルの砲口は"ラー・グルム"からはかけ離れた砲口を向いている。ノールック射撃など、輝星でもなければそうそう成功するものではない。
「馬鹿め!」
皇帝は嘲笑したが、そんな彼女の真横にあるデブリが突如爆発した。さきほどディアローズが隠していた対艦ガンランチャーの予備弾倉にビームが当たり、誘爆したのだ。対艦ミサイル四発ぶんの爆発力は尋常ではない。金属パーツがバラバラになり、散弾のようになって"ラー・グルム"へと襲い掛かる。
そう、ディアローズは最初からこれを狙い、皇帝をちょうど良い位置へと誘導していたのだ。
「ぬわーっ!」
横っ面を金属片の群れに打ち据えられた"ラー・グルム"は、激しく吹き飛ばされた。金属片が装甲に当たるたびに、激しい火花が起きる。流石に致命的なダメージを与えるには至らないが、行動の自由を一瞬奪うには十分だ。
「これでぇっ!」
左腕でガッチリとライフルを固定したディアローズは、スロットルを全開にして"ラー・グルム"へと突撃した。ライフルの砲身へ装着された銃剣が、恒星ガレアの淡い光を反射して獰猛に輝く!
「な、にぃッ!?」
銃剣を矢じりのように突き出し、"エクス=カリバーン"は"ラー・グルム"へと真っすぐに突っ込んでいく。さしもの皇帝も、爆発を受けた直後にこれを回避するような余力はない。
銃剣の鋭い切っ先が、"ラー・グルム"の腹部へ突き立った。機体を激しい衝撃が襲い、コックピット内で輝星とディアローズは吹っ飛ばされそうになる。しかしその威力に耐えきれず、銃剣は装甲を貫通することなく砕け散ってしまった。
勢い余った"エクス=カリバーン"は"ラー・グルム"へ衝突し、両機はもつれ合った。
「うわわわわっ!?」
「この……ヒヤヒヤさせてくれるッ!!」
憤怒の表情を浮かべて、皇帝は叫ぶ。"ラー・グルム"の方が質量が大きい分、衝突のダメージは少ない。"エクス=カリバーン"の肩を掴んで強引に引きはがし、投げ飛ばした。
「わああっ!」
大人と子供ほどの体格差がある両機だ。"エクス=カリバーン"はおもちゃのように吹っ飛ばされた。その衝撃で、握っていたライフルも取り落としてしまう。
「これでトドメだ……!」
皇帝は、メガブラスターライフルを"エクス=カリバーン"へと向ける。ディアローズは慌ててスロットルを押し込んだが、もう間に合わない。皇帝の長い指が、操縦桿のトリガーを弾いた。
「ひっ……」
息をのむディアローズ。しかし……彼女は何の入力もしていないにも関わらず、"エクス=カリバーン"の左手が胸のマウントからフォトンセイバーを引き抜いた。居合めいて抜き放たれたビーム刃は、飛んできた大出力ビームを真っすぐにはじき返す。
「はっ!?」
予想外過ぎる出来事に、一瞬皇帝の脳がフリーズした。まっすぐ自分の方へ帰ってきたビームに、回避は間に合わない。光弾は"ラー・グルム"の肩口へ着弾、その装甲を弾き飛ばした。
「ぐわっ」
反動でスピンする機体を抑え込みつつ、皇帝が唸る。そこへ、スラスターを全開にした"エクス=カリバーン"が襲い掛かった。
「これで終いだッ!!」
そう叫んだのは、輝星である。銃剣突撃の衝撃で、気絶から目覚めたのだ。彼は強烈な回し蹴りを"ラー・グルム"の頭部へとお見舞いした。堅牢さに定評のある皇帝専用機も、流石に首はもろい。ゼニスの全力のキックを受け、首が引きちぎれて頭部ユニットがそのまま宙を舞った。
「がああああっ!!」
憤怒の咆哮をあげる皇帝だが、もう遅い。セイバーの切っ先が、"ラー・グルム"の腹へ突き立てられた。ちょうど先ほど銃剣が刺さった部分だ。半ばまで貫通されていた装甲は、二度目の攻撃に耐えきれなかった。ビームの刃はのまま、エンジンまで貫通する。
先ほどまでの大暴れが嘘であったかのように、"ラー・グルム"の全身から力が抜けた。しかし……
「まだだ! まだこんなところで終わるわけにはいかぬ!」
皇帝が叫び、シート下のレバーを力いっぱい引いた。"ラー・グルム"の背部装甲が爆砕ボルトで吹き飛び、内部から何かが射出される。脱出ポッドだ。
「なんだと!?」
ディアローズが困惑の声を上げる。ストライカーは小型化のため、通常は脱出装置の類を備えていないのだ。だが、"ラー・グルム"は規格外の大型機である。こう言った機構を装備するだけの余裕は、十分にあった。
脱出ポッドは、背部に備えたロケットエンジンに転嫁し、猛烈な勢いで加速した。この場から逃走するつもりらしい。
「往生際の悪い……!」
輝星はうなり、即座に追跡を開始した。
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