第二百八十九話 母娘対決(2)
一合剣を躱しただけでフォトンセイバーが爆散するような手合いと、まともな格闘戦が成立するはずもない。ディアローズは即座に機体を反転させ、スロットルを一気に開いた。気絶した輝星に負担がかかりすぎないようには気を付けているものの、ほとんど全力に近い逃げっぷりだ。
「くははははは! はーっはっはっは! それだ、その姿が見たかった!」
一方、ディアローズにさんざん煮え湯を飲まされていた皇帝は、意趣返しとばかりに哄笑をあげつつ"エクス=カリバーン"を追跡する。"ラー・グルム"の怪物的な加速力により、いったん開いた両機の距離はぐんぐんと詰まっていく。
あっという間に剣の間合いまで接近した皇帝は、その巨剣を思いっきり振り下ろした。ディアローズはあわててワイヤーガンを射出し、付近のデブリへアンカーを吸着させる。巻き取り機構が全力で働いたことで、間一髪"エクス=カリバーン"は刃から逃れた。
「ひええ……怖いとかいうレベルではないぞ、アレはっ!」
直撃を受ければ、いかに"ゼンティス"の重装甲を受け継ぐ"エクス=カリバーン"とはいえ耐えきれないだろう。剣というよりは、死神の大鎌に近い。その迫力に、ディアローズは自分の血圧が一気に下がったような感覚を覚えた。
「安心しろ、ここでは殺さん! 貴様は拷問の上、余の目の前でしっかりとギロチンにかけねば我慢がならんからなっ!」
物騒なことを叫びつつ、皇帝は剣を振り回す。それをなんとか避けつつも、ディアローズはひどく嫌な気分になった。皇帝の言葉に、脅しの色はない。拷問だのギロチンだのという言葉は、本音だろう。
実の娘である自分をこうも切り捨てられるというのは、ディアローズからすればひどくショックなことだった。もちろん、裏切ったのは自分の方だから、仕方がない事だというのは理解している。しかし理性的は判断と感情的な納得は別物だ。せめて、少しくらいはうろたえてくれないだろうかと、身勝手な不満を覚えずにはいられなかった。
「あのビデオに出ていた男……アレが貴様の情夫なのだろう? そ奴も捕まえて、貴様の目の前で犯してやるからな。覚悟しておけ!」
「言うと思ったわ! この……好色女が!」
しかし、そんな重苦しい気分も皇帝のこの発言で吹き飛ぶ。代わりに湧いてきたのは、自分のオトコを取られてなるものかという戦意だった。これも女の本能かと、ディアローズは小さく自嘲する。
とにかく、今はなんとかしてこの女を倒す必要がある。正攻法ではムリだ。機体スペックに差がありすぎるし、ディアローズにはその差を埋めるだけの技量もない。おまけに、"エクス=カリバーン"のコックピットには爆発一つで気絶してしまうほど
「まさに八方ふさがりだが……
操縦桿をきゅっと握り、"ラー・グルム"の猛攻をしのぐ。その剣さばきは鋭く早いが、流石に小回りは効いていない。大ぶりな攻撃は、付け入るスキも大きいのだ。
横薙ぎの斬撃を回避するのと同時に、近隣のデブリへワイヤーガンを飛ばした。着弾と同時にワイヤーを巻き上げ、"ラー・グルム"から距離を取った。
「まったく、鬱陶しい……! さっさと諦めてしまえば良いものを……余に勝る部分が一つとしてない貴様に、勝ち目など最初から皆無であることにそろそろ気付いたらどうだ?」
自分勝手なことを叫びつつ、皇帝は"エクス=カリバーン"を追跡する。やはり推力の差は埋めがたく、稼いだ距離は一瞬で詰められてしまう。猛烈な勢いで迫ってくる巨剣を、ディアローズは再びワイヤーガンを使うことで回避した。
「ちょこまかちょこまかと!」
"ラー・グルム"のスピードは恐るべきものだが、大型機だけあってその動きは直線的だ。ワイヤーガンを利用したトリッキーな動きには、流石に追従しきれない。
「ちぃっ!」
剣だけでは決め手にかける。そう直感した皇帝は、即座に戦法を変更した。操縦桿のボタンを押して安全装置を解除、背部にマウントされたミサイルコンテナから小型の高機動ミサイルを大量に放つ。
「こんなデブリまみれの宙域でミサイルなど!」
それを見たディアローズは素早く機体をターンさせ、デブリの影にはいる。半数近いミサイルが回避しきれず、その巨大な鋼板へと直撃した。小規模な爆発が連続し、デブリが弾かれて不規則なスピンを始める。
残るミサイルも、"エクス=カリバーン"に接近するなり肩部に装備された対ミサイルレーザータレットの迎撃に遭う。不可視の低出力レーザーが射出されるたびに、その小さな弾頭を焼かれ空中で爆発していく。ミサイル群は、みるみるうちに数を減らしていった。
「ミサイルなど目くらましよ!」
しかし、皇帝もその程度は予測していたらしい。いつの間にか、ミサイルの逆側へと移動していた"ラー・グルム"が、メガブラスターライフルを撃ち散らし突撃してきた。
これでは挟み撃ちだ。ミサイルの大半はレーザータレットが処理できるだろうが、流石に全弾撃墜とはいかないだろう。しかし、そちらに気を取られていては、皇帝への対処が遅れてしまう。絶体絶命のピンチだった。
「そう来ると思ったぞ……!」
しかし、ディアローズの表情に焦りはない。にやりと笑い、背部のマウントから8.5Mwブラスターライフルを引き抜いた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます