第二百八十一話 凶星VS新四天(2)

 弾丸のように飛び込んできた"ガイスト・ケンプファー"のトンファーを、フォトンセイバーで受け流す。しかし当然、同時に副碗も襲い掛かってくる。白色灯の光をうけてギラリと妖しく輝くカギ爪に、輝星は即座に頭部機銃を撃ち込んだ。


「……左副碗破損」


 12.7mmの豆鉄砲でも、ブラスターの砲口に飛び込めば内部構造は滅茶苦茶になる。装填されていた粒子ごと薬室が吹き飛び、左の副碗が小爆発を起こした。アイアンネイルがびくりと痙攣し、そのまま動かなくなる。


「損害軽微。戦闘続行可能……」


 しかし、不意打ちを受けたというのに無線から聞こえてくる声はコンピューターじみて冷静だ。両手のトンファーを同時に突き出し、竜巻じみた回転攻撃を繰り出す。


「ムッ!」


 "ザラーヴァ"を超える膂力を有する"ガイスト・シリーズ"だ。直撃を受ければ、前身機より大幅に装甲が強化された"エクス=カリバーン"とて、ただでは済まないだろう。輝星は即座にバックステップで後退する。


「支援射撃開始」


 そこへ、"ガイスト・イェーガー"のオルガン砲掃射が襲い掛かった。いくら輝星でも、合計十六門の重機関砲の猛射撃をセイバーで弾くのは不可能だ。彼は歯を食いしばりつつ、スロットルを全開にする。メインスラスターの噴射炎が強化コンクリートの路面を焦がし、純白のストライカーはなんとか敵の射線から逃れた。


「ひえ」


 目と鼻の先で粉砕される強化コンクリートを見て、ディアローズが情けない声を上げた。破壊というよりは崩壊という表現が近いほどの、強烈な光景だ。50mm八連装オルガン砲の破壊力は、兵器を名乗るにはあまりにもオーバーキル過ぎる。


「我が愛! 回避を!」


 しかし、オルガン砲を避けたからと言って、輝星の受難が終わったわけではなかった。弾けるようなヴァレンティナの声が耳朶を叩くのとほぼ同時に、屋内で撃ってはいけない出力の極太ビームが"エクス=カリバーン"に向かって走る。


「こ……のォッ!」


 路面を蹴り、ギリギリのところでビームを回避した。外れたビームは装甲ドームを直撃し、戦艦砲の直撃にすら耐えるその装甲板を赤熱させる。


「集中砲火を受けておるではないか! 愚妹とアホ皇女は何をしておるのだ!!」


「すみませぇぇん!」


「誰が愚妹だ!」


 非難の声を上げるディアローズだが、シュレーアは"ガイスト・フェヒター"を押さえるので精いっぱいだし、ヴァレンティナも輝星を援護しようとしつつも"イェーガー"や"ケンプファー"が副碗の速射ブラスター砲で牽制しているため、満足に動くことが出来ないのだ。

 速度、パワー、火力……そして副碗による手数の多さ。輝星はまだしも、シュレーアらには明らかに手に余る強敵だった。輝星の脳の一番冷静な部分が、退いた方が良いのではないかと訴えかけてくる。


「そういう訳にはいかないんだよな……ッ! これがッ!」


 しかし、彼は即座にその考えを打ち消し、闘志を燃やす。ここで皇帝を取り逃がせば、間違いなく彼女は本国に帰還し皇国への再侵攻計画を立てるだろう。軍の被害は甚大だが、帝国の国力をもってすれば艦隊の再建も十分可能だろう。

 二度目の侵攻を押し返す力は、皇国軍にはない。物資も戦費もとうに尽きかけており、戦力の再整備は極めて難しいのだ。皇国の勝ち筋は、ここで皇帝を捕らえること以外に存在していない。撤退などという選択肢は論外だった。


「一機、一機墜とせばマシになる……!」


 輝星はそう呟きながら、戦場を観察した。"ガイスト・アルテレリー"は粒子カートリッジの再装填をしている。"ケンプファー"は"イェーガー"の援護射撃を受けつつ、再びこちらへ接近してきていた。唯一、"フェヒター"だけがシュレーアからの猛射を受けて回避するだけで精一杯になっていた。


「ヴァレンティナ! シュレーアの方を援護してくれ!」


「何? ……いや、分かった」


 素早く状況判断し、輝星は言った。一瞬逡巡するヴァレンティナだったが、すぐに頷いて踵を返した。輝星に中途半端な支援を寄越すくらいならば、シュレーアと協力してまず一機を仕留めてしまった方が良いという判断だ。

 それを確認した彼はニヤリと笑い、スラスターを吹かしてマスドライバーのレールを盾にするように回り込んだ。案の定、マスドライバーを守りたい"イェーガー"は射撃を止める。代わりに、素早く"ケンプファー"が懐に飛び込んでくる。


「逃がさない」


「誰が逃げたって?」


 トンファーが"エクス=カリバーン"の装甲を叩く寸前に、輝星は路面を蹴って真上に飛び上がった。それと同時に、背中に懸架したままの対艦ガンランチャーを発砲する。真下に向かって飛ぶ大型ミサイルに、"ガイスト・ケンプファー"は身を反らしてそれを回避した。空を切ったミサイルは、そのまま路面に着弾して爆発を起こす。


「ご主人様!」


「わかってる!」


 有効打になっていないことは明らかだ。煙幕めいて視界を遮る爆炎の中に、輝星はメガブラスターライフルを連続で撃ち込んだ。煙の中で、スラスター炎が瞬く。避けられたと直感するのと同時に、速射ブラスター砲の応射が返ってきた。

 マスドライバーのレールを蹴って急ターンし、これを回避する輝星。そこへ、再び"ケンプファー"が突っ込んできた。見る限り、対艦ガンランチャーやメガブラスターライフルによる損傷は負っていないようだ。


「シュレーア!」


 輝星は叫びながらスラスターを吹かし、高度を上げた。あっという間に、マスドライバーを跳び越す。"ガイスト・イェーガー"と"アルテレリー"の三つ目がギラリと光り、その砲口がこちらを向く。そしてさらに、"ケンプファー"も輝星を追いかけてきた。三機に直接狙われる、絶体絶命の状況である。後部座席で、ディアローズがひっと息をのんだ。

 しかし、輝星は笑みを深くする。そして軽く息を吸い込み、言った。


「俺を撃て!」

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