第二百八十話 凶星VS新四天(1)
マスドライバー施設はコンテナ船などの打ち上げも想定されているため、当然それを収納する装甲ドーム内には極めて広大な空間が確保されている。ストライカーが十分全力で機動できるだけの高さと広さだ。
「流石に……厄介ですね、これはッ!」
ヘビーマシンガンを乱射しながら、シュレーアが唸る。"ガイスト・フェヒター"は機敏な動きで射線からするりと抜け出し、照準を絞らせない。無駄に巨大なギロチンブレードを装備しているというのに、そこらの軽量型ゼニスより軽快に動くから恐ろしい。
「そやつらに構うな! マスドライバーさえ破壊してしまえば、我々の勝ちなのだぞ!」
「わかってますよ! わかってますが……」
マスドライバーの構造体には軍艦の装甲と同等の部材が使われている。大火力が持ち味の"ミストルティン"とはいえ、一発や二発の砲撃では破壊しきることはできない。
しかし、クローン兵たちと交戦している現状では、じっくり腰を据えた砲撃などできるはずもない。半ばやけになって肩部ブラスターカノンを放つシュレーアだったが、マスドライバーのレールに命中した緑の光弾は軽く弾かれ霧散してしまった。
「ええい、誰ですか! こんな無駄に丈夫な仕様で発注したのは!!」
こんな有様では、やはり戦闘中に隙を見て破壊、などというのは不可能だろう。とにかく今は、目の前の敵を倒すことに集中しなくてはならない。
「しかし、皇帝の姿が見えないのが不安だな。奴め、いったいどこに……」
一瞬思案するヴァレンティナだったが、"ガイスト・アルテレリー"の砲撃がそれを遮る。閉所ということでビームの出力はやや落としているようだが、それでも直撃を受ければ即死は免れない威力であることには変わりない。
その寒気がしそうな威力の砲撃を、ヴァレンティナは路面を蹴って回避した。一瞬遅れてビームが着弾し、舗装の強化コンクリートをごっそりとえぐり取る。爆発めいてまき散らされたコンクリート片が"コールブランド"の装甲を叩いた。
「我が愛! 協力して仕留めよう、持久戦は狙わない方がよさそうだ!」
本来ならば、新四天は旧四天に任せる予定だった。しかし、いくら広いとは言っても閉所は閉所。やはり、野戦のように動き回るのは難しい。このままでは、回避しきれず直撃を受けるのではないかという不安があった。
「わかった!」
輝星としても、クローン兵たちはひどくやりにくい相手だった。気配の希薄さは戦闘が始まってもそのままだ。攻撃や回避の兆候がつかみづらいため、普段の未来予知じみた先読みができなくなってしまっている。連携でもなんでも使って、一機でも仕留めておきたいところだった。
「ディアローズ、"フェヒター"と"アルテレリー"の説明は聞いたけど……こいつらはどういう機体なの?」
輝星が相対しているのは、トンファーを両手に装備した機体と。大口径機関砲を八門束ねたオルガン砲をこれまた両手に装着した機体の二機だ。どちらも白黒カラーで、肩部の副碗等のガイスト・シリーズに共通した外見をしている。
「トンファー装備が"ガイスト・ケンプファー"で、オルガン砲装備は……"ガイスト・イェーガー"か? あの武装は"ガイスト・アルテレリー"用の近接用装備のはずだが……」
それぞれ"天眼"、"天轟"に相当する機体だろう。"天眼"といいつつどう見ても近接白兵戦装備だが、こんな閉所で狙撃装備を使うのはあまりにも辛すぎる。装備換装でもしてきたのだろうか?
「まあ、なんにせよ注意せするのだ。ご主人様とて一筋縄で勝てる相手ではないぞ!」
なにしろ、わずか二機で旧四天を圧倒した連中が四機だ。シュレーアにしろヴァレンティナにしろエースと言っていい実力者だが、一流ではあっても超一流ではない。この難敵を相手にどこまで食い下がれるのかは未知数であり、その分の負担が輝星にかかることは間違いないだろう。
「無論!」
叫びつつ、輝星はメガブラスターライフルの砲口をこちらへ向かってくる"ガイスト・ケンプファー"へと向けた。輝星の指がトリガーを弾き、太いビームが放たれる。
「……!」
"ガイスト・ケンプファー"は、その砲撃を軽いステップで回避した。即座に二発目を撃とうとする輝星だったが、そこへ50mm弾の雨が降り注いだ。"ガイスト・イェーガー"のオルガン砲だ。大口径機関砲計十六門の猛烈な弾幕は、どんな重装甲のストライカーでも一瞬でスクラップに帰ることが出来る威力だろう。
「ぐっ……!」
なにしろ攻撃範囲が広いので、回避するのも一苦労だ。なんとかスラスターを焚いて加害範囲の外へと逃れた輝星だったが、そこへ"ガイスト・ケンプファー"が躍り出る。
「撃破する」
電子音声のような無機質な声とともに襲い来る重金属製のトンファーを、輝星は何とか左手で抜いたフォトンセイバーでしのぐ。しかしそれと同時に、肩から伸びてきた副碗のアイアンネイルが"エクス=カリバーン"に襲い掛かった。
「四本腕! ……面白い!」
しかし、そう簡単にやられる輝星ではない。身体を逸らすことで、なんとかガギ爪から逃れた。爪の先が"エクス=カリバーン"の胸装甲にかすり、ガリガリとひどく耳障りな音を立てる。
「我が愛!」
そこへ、
「助かる!」
副碗のせいで格闘戦の手数が二倍になっているのがとにかく厄介だ。ある程度距離を取って戦いたいところだが……
「最接近する」
オルガン砲の援護射撃を背に、"ガイスト・ケンプファー"は弾丸のような速度で再び突っ込んできた。この加速性を相手に、距離を取って戦うのは容易ではない。輝星の顔に、獰猛な笑みが張り付いた。
「副碗がなんだ! やってやるさ……!」
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