第二百六十七話 旧四天VS新四天(2)

「まったく、ゾワゾワさせてくれますわねっ…!」


 極大ビームから辛くも逃れたテルシスを視線の端に捉えつつ、エレノールは小さく安堵した。彼女の対面では"ガイスト・フェヒター"が副碗の速射砲を撃ち散らしつつ突撃の隙を伺っており、テルシスの援護をしている余裕など微塵もない。

 額から垂れてきた汗が目に入りひどく痛むが、それでも彼女は敵機を睨みつけ続けた。案の定、"ガイスト・フェヒター"は巨大なギロチンブレードを構えて突っ込んできた。巨大な噴射炎を背負いながら猛スピードで接近してくるその姿は、歴戦の騎士であるエレノールですら背筋が寒くなるほどの威圧感がある。


「やらせないデスよッ!」


 ノラが突撃阻止のため、両手のブラスターマグナムを連射する。当然エレノール自身も連装メガブラスターライフルと連装ガトリングガンを同時に発砲したので、ちょうど十字砲火の形になった。

 が、この程度の弾幕と十字砲火で撃墜できるなら、とうに戦いは終わっている。案の定、"ガイスト・フェヒター"はギロチンブレード先端のロケットエンジンを噴射してキテレツな機動を取った。40mm弾とビームの嵐はむなしく空を切り、代わりに"ザラーヴァ"へと速射ブラスター砲の雨が撃ち込まれる。


「ぐっ!」


 片手間の射撃だというのに、恐ろしく正確な照準だ。回避は間に合わず、ノラはなんとか腕で体をガードする。厚ぼったい装甲表面で、粒子弾が弾けて消えた。


「気持ちが悪い動きをするんじゃあありません!」


 エレノールは連装メガブラスターライフルを投げ捨てながら叫んだ。この武装は威力こそ抜群だが装填スピードが遅く、初弾を外した以上二発目の射撃は間に合わない。かわりに連装ガトリングガンを両手で押さえ、迫りくる"ガイスト・フェヒター"へ砲弾を撃ち込み続けた。

 発射音が一連なりに聞こえるほどの発射速度を誇るガトリングガンは猛然と砲弾を吐き出し続けたが、ツヴァイはそんなことで怯みはしなかった。


「回避続行」


 稲妻めいた動きで的確に砲弾を回避し、数秒とたたないうちに"パーフィール"をギロチンブレードの射程内へと納める。ロケットエンジンがうなりを上げ、鉄塊めいた巨大で分厚い刃がエレノールに迫った。


「このっ……!」


 背中を逸らし、なんとか凶刃から逃れる。そのままスラスターに点火し、急いで距離を取った。


「追撃」


「やらせませんわっ!」


 連装ガトリングガンと速射ブラスター砲が同時に火を噴いた。実体弾とビームがすれ違い、お互いの装甲に叩きつけられる。双方かなりの重装甲機だ。被弾しているにもかかわらず発砲は止めない。


「阻止する」


 が、そこへ介入してきたのが、またもテルシスを振り切ったアインの"ガイスト・アルテレリー"が再度の砲撃を撃ち込んだ。


「ぐぅーっ!!」


 そこらのエースならば、間違いなく反応が間に合わず超出力ビームによって機体ごと爆散していただろう。それほどまでに、アインの射撃は素早く正確だった。

 それでも、エレノールとて元四天だ。ギリギリのところで地面を蹴り、なんとか加害範囲から逃れた。極大ビームが氷山にひょくげきし、周囲を巻き込んで大崩落を起こした。


「味方が近くにいるというのに、なんてヤツですの!!」


 憤慨しつつも、やや期待した様子でエレノールは周囲を見まわした。厄介な敵機がフレンドリーファイヤで墜ちてくれるというのなら、こんな有難い話はない。

 しかし、やはりそう上手くはいかなかった。もうもうと立ち上がる白煙を切り裂きながら、"ガイスト・フェヒター"が砲弾のように突っ込んでくる。白黒の装甲の表面にはいくつもの弾痕があるが、大したダメージは受けていないようでその動きにはいささかの衰えもない。


「どこぞの男みたいに厄介な手合いデスね、アンタはっ!」


 その横合いから、"ザラーヴァ"が突っ込んだ。ツヴァイはエレノールを集中攻撃しているが、ノラも座して彼女がやられるのを見ているワケにはいかない。自分とテルシスの二人だけでこの化け物を撃退するのは、まず無理だろうと良そうで来ているからだ。


「迎撃」


 "ザラーヴァ"の重厚なボディから放たれるキックを、ツヴァイはギロチンブレードの腹で受け止めた。ストライカー用の携行兵装としては規格外の質量を誇るその剣は、"ザラーヴァ"の全力の蹴りを受けてもまったく揺らぐことはなかった。

 その上、防御と同時に背中の副碗が迎撃をするからたまらない。超剛性スチール製のカギ爪が唸り、"ザラーヴァ"に迫る。


「さっきからブツブツ、ブツブツ……アンタはゲームのCPUデスかってーの!」


 ノラはこれを、マグナムの銃剣で受け止める。二本のアイアンネイルと二本の銃剣が真正面からぶつかりあい、すさまじい火花が周囲に飛び散った。


「く!」


 氷山の斜面に、"ザラーヴァ"の足がめり込んだ。華奢な副碗だというのに、パワーとトルクに重点を置いて徹底的にチューニングされた"ザラーヴァ"と真っ向から力比べできるのだから、敵機も尋常ではない。

 おまけに、"ガイスト・フェヒター"にはまだ主腕が残っているのだ。ギロチンブレードのロケットから炎が噴き出し、重厚な刃が"ザラーヴァ"に迫る。


「このーっ!」


 カギ爪をいなしつつ、ノラは機体を全力後退させた。それと同時に操縦桿のトリガーを弾き、胸部グレネードランチャーを発砲する。多目的榴弾が短い砲身から吐き出され、白黒の怪物へ直撃した。一瞬遅れて、エレノールの連装ガトリングガンの雨も降り注ぐ。

 砲弾が炸裂し、"ガイスト・フェヒター"は炎に包まれた。その間にも、ガトリングの40mm弾は唸りを上げて連続着弾している。それでも、"ガイスト・フェヒター"は止まらない。爆炎の中、三眼式カメラが妖しく輝いた。


「化け物め……っ!」


 背筋に冷水をぶちまけられた表情で、ノラは唸る……

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