第二百六十六話 旧四天VS新四天(1)
「ちっ!」
"ガイスト・フェヒター"が自分の方へ突っ込んでくるのを見て、ノラは舌打ちした。すさまじい加速力だ。皇族専用機より上という分析は、ディアローズの
「……」
"ガイスト・フェヒター"の肩部で折りたたまれた副碗が、速射砲めいて低出力ビーム弾をばらまく。鋭いターンでそれを回避しつつ、ノラはブラスターマグナムで反撃した。
「回避、回避……」
つながったままの無線から聞こえてくる声は、電子音声めいて無感情だ。不気味なことこの上ない。ツヴァイと名乗ったそのパイロットは、大剣の切っ先に付いたロケットエンジンまで用いて複雑な機動を取りマグナムを避け切った。曲芸じみた、見ていて気持ちが悪くなってくるような動きだった。
「殲滅する」
そうこうしているうちに"ガイスト・フェヒター"は目と鼻の先まで接近していた。ギロチンめいた巨大な刃を構えて突撃してくるその姿は、ストライカーというよりはクリーチャーの類に見える。ノラの背筋に鳥肌が立った。
「ぐ!」
斜面を蹴り、なんとか分厚い刀身から逃れる。先端のロケットエンジンが吐いた噴射炎が、"ザラーヴァ"の装甲表面をわずかに炙った。文字通りの危機一髪だ。
だが、ギロチンブレードを回避したからと言って安心しては居られない。敵には器用に動く副碗が装備されているのだ。その砲口がビームを射出するよりはやく、ノラはマグナムの銃剣を突き出した。
「防御」
速射ブラスター砲の砲口に突き刺さるはずだった銃剣は、副碗に装備された三本の鋭いカギ爪で弾かれてしまう。主碗に比べれば華奢に見える副碗だが、"ザラーヴァ"の全力の刺突を受けても小ゆるぎもしていない。すさまじいパワーだ。
「どきなさい、ノラちゃん!」
飛んできたエレノールの声に、ノラは条件反射的に従った。スラスターを全開にして機体を後退させる。それを追おうとした"ガイスト・フェヒター"だが、エレノールはそれに容赦なく連装メガブラスターライフルを撃ち込んだ。
二条の太いビームが氷の斜面に直撃し、ドライアイスが一瞬で気化してもうもうと白煙が立ち上がる。その煙幕の中で、三つのピンクの光点がギラリと輝いた。"ガイスト・フェヒター"だ。
「避けられた!?」
悔しげな声をあげるエレノールだが、二射目を放つ余裕はなかった。コックピットに警告音が響き渡ったのだ。即座にランダム回避機動を取ると、すぐ真横を極太のビームが通過した。飛散粒子が"パーフィール"を襲い、そのマゼンタ色の塗装を泡立たせる。
『コンデンサー容量危険値』
電子音声が告げる。致命的なダメージこそ負っていないが、サブモニターに表示された機体のステータスはあちこちが黄色に変色していた。かすっただけでこれだ、直撃を受ければ重装甲の"パーフィール"とはいえ消し炭になりかねない。
「テルシス様! 砲撃機の方はあなたが抑えてくださいまし!」
"ガイスト・フェヒター"だけでも油断のならない相手だというのに、艦砲なみの威力の兵装を装備した砲撃機の相手までしていられない。余裕の消し飛んだ声でエレノールは叫んだ。
「やってはいる……が、手強い!」
むろん、テルシスもぼんやりしていたわけではない。ツヴァイの対処をノラらに任せた彼女は、"ガイスト・アルテレリー"のほうへ果敢に白兵を仕掛けていた。鈍重な砲撃機など、懐へと入り込みさえすれば対処はたやすい。そのはずだった。
だが、やはりこの機体も尋常ではない。特徴的な重ブラスターカノンには、大推力のスラスターが装備されていたのだ。アインはこれを魔女の箒のように操り、テルシスを寄せ付けない。そして一瞬の隙をつきツヴァイを援護した。
「次発装填」
巨大な粒子カートリッジを廃棄し、リボルバー状の弾倉から新たなカートリッジが薬室へと送り込む。当然テルシスはこの隙を逃さず斬りかかったが、副碗のアイアンネイルが巧みに長剣を弾いてしまう。
「反撃」
「むっ!」
さらに続けて放たれた速射ブラスター砲を、テルシスは盾で防いだ。だが、その間にアインは操縦桿のボタンを押し込んだ。重ブラスターカノンの戦端付近で小型スラスターが噴射炎を吐き出し、そのバカでかい砲口が驚くほどの速さで"ヴァーンウルフ"へと向けられる。
「むむーっ!」
最高級の防御力を誇る高品質シールドでも、この攻撃を防ぐのはムリだ。テルシスは泡を食ってスラスターを吹かし、なんとか射線から逃れた。一瞬遅れて砲口から爆発めいた粒子の奔流が放たれる。その閃光じみた光に、自動防眩機能が作動して"ヴァーンウルフ"のメインモニターが一瞬暗くなる。
「こいつ、出来る……!」
歓喜の笑みを浮かべるテルシスだが、危機的状況に陥って喜んでいられるのはこの女くらいだ。当然、ノラたちは焦りに焦っている。
「はやくこっちに援軍を寄越すデス! これは不味いデスよーッ!」
「こっちも忙しい! 貴様らでなんとかしろ!」
助けを呼ぶも、ディアローズから返ってきた答えは無情なものだ。なぜ輝星に操縦を代わらないのかと、ノラは思わず頬を膨らませた。
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