第二百五十一話 遭遇
「迎撃が来たか……流石に、皇帝の眼前まで素通しはさせてくれぬな」
レーダー画面を睨みつつ、ディアローズが唸った。妨害電波のせいでレーダー・スコープはノイズまみれになっているが、それでも敵との距離が縮まればある程度は使い物になる。おかげで、敵の主力艦隊の位置もすでに確認が完了していた。
だが、こちらから相手を確認できているということは、当然相手からもこちらが丸見えになっているということだ。かなりの数のストライカーが皇帝艦隊から出撃し、こちらに迫ってきている。
「久しぶりに"オーデルクロイス"を拝んでおきたかったが、致し方あるまい」
できれば目視距離まで接近し、しっかりと敵の陣容を確認しておきたいところだったが、あまり無理もしたくない。腕を組みつつ、ディアローズが輝星の顔色をちらりと確認した。
「"オーデルクロイス"というと、帝国の総旗艦だっけ」
「うむ、皇帝の座乗艦だ。我が……いや、すでに
「あれと同じ
"オーデルバンセン"の偉容を脳裏に浮かべつつ、輝星は苦い表情を浮かべた。皇国の現在の総旗艦"レイディアント"が巡洋艦に見えてしまいそうな巨大戦艦だ。
もちろん、"オーデルバンセン"は現在皇国側の戦力になっているため、必ずしも一方的に不利な訳ではない。しかし、今の"オーデルバンセン"は訓練不足のクルーによって運用されている。正直、あまり信頼できるものではない。
「先ほどの戦いのように、我々が一度攻撃を仕掛けて敵の観測機器を破壊すると言う手もありますが……」
レーダー類を破壊すれば艦隊戦で著しい有利を取れる。アンヘル艦隊に勝利できたのも、事前のレーダー破壊によって砲撃の精度が大幅に低下していたからだ。それがなければ、たとえアンヘル公爵を捕虜に出来ていたとしても、戦闘を続行した部隊によって皇国艦隊は撃ち負けていた可能性もある。
もっとも、逆に言えばレーダー破壊はそれだけ有効な戦法だということだ。アンヘル艦隊に圧勝したことで、シュレーアは自信を深めたらしい。微かに愉快そうな声で、そんなことを聴いてきた。
「いや、やめておけ。皇帝は用心深い性格だ、自らの周囲は精鋭中の精鋭で強固に守っている……いかな
ディアローズは我々とは言わず、あくまで輝星個人のリスクを強調した。実際、レーダー破壊戦術は、輝星の技量がなければ成功しなかったからだ。鉄壁の防御陣形で固めた艦隊に対して少数のストライカーで攻撃をかけるというのは、ほとんど自殺に近い。シュレーアたちが無事だったのは、派手に動き回る輝星機に対空砲火が集中したからだ。
「むぅ……」
こうも言われれば、シュレーアとしても頭に冷や水を浴びせかけられた気分になる。一瞬考え込むが、敵機接近警告が熟考を許さない。
無意味に耳触りの良い声で「敵機接近! 敵機接近!」と騒ぎ立てるAI音声に辟易しつつも、シュレーアは強引に思考を切り替えた。ここで自分たちが討たれれば、皇国艦隊は先ほどのアンヘル艦隊と同じようにたやすく壊滅してしまうだろう。無駄に危険を冒すわけにはいかない。
「いったん退きましょう。今は敵の正確な居場所が分かっただけで十分です」
実際、艦隊は惑星ガレアeに向けて撤退中なのだ。皇帝直属の幕僚が看破してみせたように、今の皇国艦隊は弾薬が欠乏している。攻勢をかける余裕などどこにもなく、どう頑張ろうと受けに回らざるを得ない。
「退くのは良いがね、皇帝の腰ぎんちゃくと一戦交えるのは避けられないようだよ」
厳しい表情のヴァレンティナが、視線を遠くの宇宙に向けた。星々の光に、いくつもの青いスラスター噴射炎が混ざっている。
「足の速い部隊だ、この距離で引き離すのはムリだな……」
輝星がにやりと笑って言った。比較的推力の高い"エクス=カリバーン"や"コールブランド"だけならばなんとか逃げ切ることができるだろうが、重装型の"ミストルティン"や一般量産機に過ぎない"ジェッタ""クレイモア"などはそうもいかない。交戦は不可避だ。
「皇帝配下の部隊はすべて近衛兵さ。配備される機体も、当然"レニオン"やその火力支援型である"レニオン・ボーゲン"だ。機動性はかなり高いから、気を付けるんだ」
ヴァレンティナの言葉に、輝星は笑みを深くする。強敵上等だ。
「というと、ディアローズの近衛と同クラスの機体とパイロットが大勢いるわけか。面白い!」
「その通りだが、無理はするでないぞ。連中は皇帝の切り札の一つだ。疲労した状態で戦うべきではない」
「とはいえ、追い返さなきゃここは収まらないんじゃない? 避けようがないんだから、仕方ないよ」
「まったく……」
決して良くはない輝星の顔色に、ディアローズは深いため息を吐いた。強がりなどではなく、本音で言っていそうなのがたちが悪い。
「ヴァレンティナ、シュレーア。
「言われずとも!」
「無論だ!」
口をそろえて叫ぶ二人に、ディアローズは小さく息を吐いた。単純な連中は操作しやすくて楽だ、と言わんばかりの表情だった。
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