第二百五十二話 VS近衛(1)

 赤い大出力ビームが、漆黒の宇宙を切り裂くようにして飛ぶ。火力支援型ストライカー、"レニオン・ボーゲン"の攻撃だ。輝星らはそれを。ぱっと散開して回避する。


「要するに、撤退できる程度に叩けば良いのだ。増援も次々現れるハズだから、全員ムリをしてはならぬぞ」


 腕組みをしたディアローズが、偉そうな口調で言う。その指揮官気取りの言い草に微かに頬を緩めつつ、輝星は操縦桿のトリガーを引いた。ブラスターライフルが緑の光条を吐き出し、"レニオン・ボーゲン"の漆黒の装甲に守られた腹部に命中する。塗装が蒸発し、装甲面が赤熱したものの、かろうじて貫通はしなかった。


「う!?」


 が、間髪入れずに二射目が同じ個所に命中した。さすがの重装甲もこれには耐えきれず、あえなくエンジンブロックに貫通されてしまう。


「向こうも長射程の武器を持っているぞ!」


「狙いを絞らせるな!」


 精鋭だけあって、一機落とされた程度では動揺もしない。"レニオン・ボーゲン"は、片手に保持したロングブラスターライフルの砲口を輝星らに向けつつも、小刻みな回避機動を取る。

 さらに、それを援護すべく前衛たる"レニオン"部隊も、ブラスターライフルを撃ち散らしつつ突っ込んできた。牽制程度の射撃だが、回避しないわけにもいかない。


「諸侯軍と違い、近衛は士気も高い。少々叩いたくらいでは撤退してくれないだろうけど……ねっ!」


 突撃槍ランスを構え、スラスターを全開にして"レニオン"部隊に突撃していくヴァレンティナ。当然ブラスターライフルの火線が集中するが、巧みな機動でそれを回避する。避け切れないものは、左腕に装備されているバックラー・シールドではじき返した。


「まずは一機!」


 突撃の勢いのまま、一機の"レニオン"の腹を突撃槍ランスで刺し貫く。蹴り飛ばして穂先を引っこ抜き、さらに間近の"レニオン"にランスに内蔵されたブラスターガンを撃ち込んだ。重装甲の近衛機だけあって一発では装甲を貫通できないが、動きを止める効果はあった。


「貰いますよ!」


 その隙を逃すシュレーアではない。"ミストルティン"の腰部から放たれた大型のミサイルが、"レニオン"の背中に突き刺さった。即座に信管が炸薬を起爆し、漆黒の宇宙に火球が出現する。大型ミサイルの威力は極めて高く、装甲の厚いコックピットやエンジンブロックはまだしも、その他の手足や頭部は吹き飛んでしまった。


「共同撃墜だ、いいね?」


「一機や二機のスコアでどうこう言うような欲深ではありませんよ、私は。お好きにどうぞ!」


 やいのやいの言い合う二人をしり目に、輝星もまた"レニオン"に肉薄した。近衛兵はブラスターライフルでそれを迎え撃つが、"エクス=カリバーン"のフォトンセイバーが閃くとビーム弾は容易にはじき返された。


「ぐっ!」


 自分の発射したビームに襲われた近衛兵は、なんとかそれをシールドで防いだ。しかしその隙は、あまりにも致命的なものだ。いつの間にか"レニオン"の真横に移動していた輝星は、その無防備な横腹にパイルバンカーを打ち込む。


「奴が"凶星"とかいう傭兵ね……! 火力を集中! 一対一の状況を作ってはダメよ!」


 司令官期の号令に、"レニオン"が一気に"エクス=カリバーン"から距離を取った。それとほぼ同時に、"レニオン・ボーゲン"一個中隊によるロングブラスターライフルの一斉射撃が輝星を襲う。


「おっと……!」


 輝星はこれを、ひらひらと舞うような動きで回避する。回避が間に合わないものは、フォトンセイバーで弾いた。口径も出力も高いタイプのブラスターらしく、ビームを弾くたびに剛速球をバットで打ったような重苦しい衝撃がコックピットを揺すった。


「連中の装備する8.8Mwロングブラスターライフルは、口径こそ控えめだが速射性は素晴らしく高いぞ。弾幕に注意するのだ」


 ディアローズが愉快そうな口調で忠告した。輝星は無言で頷き、こちらもブラスターライフルで応射した。反撃を受けないよう動きながらの射撃を続けていた"レニオン・ボーゲン"だったが、一機、また一機と墜とされていく


「どういう腕だ、どういう!」


 帝国にも優れたパイロットはいくらでもいるが、ここまでの規格外は見たことがない。さしもの近衛兵たちも、顔に冷や汗が浮かぶ。


「オトコに見とれるのは結構だがね!」 


 支援射撃を続ける"レニオン・ボーゲン"部隊に、いつの間にか肉薄していたヴァレンティナが突撃をかけた。たちまち、一機の"レニオン・ボーゲン"が突撃槍ランスに貫かれる。


「こちらはわたしに任せてもらおう! たまには格好の良いところを見せなければね!」


「助かる!」


 "コールブランド"の突撃のおかげで、火力支援部隊の足並みは完全に乱れている。これではまともな制圧射撃などできないだろう。今のうちに、敵前衛を削っておくべきだ。


「ちっ、ゼニスとはいえ三機でよくやる……!」


 輝星からの射撃をなんとか回避しつつ、近衛隊の指揮官は歯噛みした。

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