第二百四十六話 戦艦対決(1)
輝星らがストライカー母艦で補給を終え、戦線に復帰したときには、すでに戦艦部隊同士の戦端は開かれていた。巨砲が火を噴き、漆黒の宇宙に色とりどりの光条を刻む。
「流石にあの中に加わるのはゴメンだな。艦隊の防衛に徹することにしよう」
飛び交っているのは、小型艦程度ならかすっただけで消し飛ぶ威力の高出力ビームだ。そんな中をストライカーでウロチョロしていれば、流れ弾で戦死する羽目になりかねない。ヴァレンティナの提案は、至極まっとうなものだった。シュレーアは、腐っても総大将なのだ。ラッキーヒットで墜とされるわけにはいかない。
「そうですね。……戦況はどうなっていますか?」
後半の言葉は、ヴァレンティナではなく交戦中の"レイディアント"に向けられたものだ。戦場は敵味方の妨害電波に満ちており、とても電波通信が通じるような状況ではないが、指向j性の高いレーザー通信なら問題なく使うことが出来る。
「敵はいまだに統制を回復できていないようであります。その上、
通信先で答えたのは、ソラナ参謀だった。艦隊全体の指揮は、現在ソラナら幕僚陣が執っている。地球の軍人が見れば卒倒しそうな状況だが、指揮官先頭を常に求められるヴルド人の軍隊ではさして珍しいものではない。指揮官などと言っても、実質は象徴……旗印のようなものだ。
「拮抗ですか……」
シュレーアは唸りながら、敵艦隊の方を見やった。猛烈な反撃をしている艦もあれば、混乱した様子で右往左往している艦もある。総指揮官であるアンヘル公爵が敗北したあげく身柄を拘束されたため、混乱をきたしているのだ。
とくに、アンヘル公爵直属の部下たちは大変なことになっているだろう。彼女が今どこに居るのかわからない以上、下手に反撃してアンヘル公爵ごと敵艦を吹っ飛ばすような事態は、何としても避けたいからだ。
「ここまでやって拮抗というのは、やはり流石と言うしかありませんね」
それでも、なにしろアンヘル艦隊は数が多い。公爵など知ったことかとばかりに、主砲を撃ちまくっている艦も多い。それに先ほどの攻撃でも、すべての主力艦のレーダーを破壊できたわけではない。皇国側の戦艦も、すでに何隻かは直撃弾を受けているようだった。
「もう一押し欲しい所だな。そろそろ、その……例の映像を使うというのはどうだろうか? 非常に業腹だが、有効な手であることは間違いないからね」
例の映像というのは当然、輝星とディアローズで撮影した"えーぶい"のことだろう。提案した本人であるヴァレンティナの声は非常に恥ずかしそうだったが、出演した当人である輝星の恥ずかしさはその比ではない。彼の顔は、噴火したように真っ赤になった。
「本気で使うの、あれ……」
「使いたくないのはわかる、わたしも同感さ……腐っても姉、身内の恥だからね。とはいえ、我々は不利な側だ。使える手は使わねば、勝てる
「まあ、それはわかるけどさ」
輝星は小さくため息を吐いた。恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
「安心したまえ。これのせいで婿にいけなくなる、というのはあり得ないからね。わたしの方は、受け入れ態勢もばっちりだとも」
「口説いている最中に申し訳ないが、あの映像はまだ使わぬぞ」
話が不味い方向に進んでいることを察したディアローズが、断定するような口調でそれを遮った。ディアローズ自身はともかく、輝星もシュレーアも腹芸は苦手なタイプだ。いつボロを出すやら分かったものではない。
「この手の士気低下を狙った戦術は、実施するタイミング次第で効果が変わってくる。勝てそうと思っている状況では、少々ショックを与えたところで『ま、勝っているからいいや』と気にされない場合も多いのだ」
「さすがにアレを気にしないってのは、難しい気もするけどね……」
皇帝の実の娘の最悪なスキャンダルだ。爆弾じみた効果があるのは間違いない。
「まあ、確かに多少は有利になるだろうが……せっかく撮ったのだから、最適のタイミングで使用したいのだ。つまり、あれを視聴することによって、もっとも皇帝に対して怒りがわいてくるタイミングだな」
「なるほど……確かに、今ここであの映像を使ってアンヘル艦隊を撃退したところで、皇帝
「そういうことだ。流石に、あの映像一つで尻尾を巻いて全軍を撤退してくれるはずもないからな」
ディアローズは深く頷いた。何にせよ、現有戦力だけで敵をすべて殲滅することはできないのだ。強力な切り札とはいえ、使うタイミングは吟味する必要がある。
「せっかくだから、今は捕虜にしたアンヘル公爵を有効利用させてもらうのだ。発光信号で、向こうに『アンヘル公爵はこちらの旗艦で預かっている』と知らせると良い。アンヘル公爵家やその臣下の艦隊は、それだけで攻撃が出来なくなるはずだ」
「ひ、人質を使う気か。相変わらず卑怯な……」
ヴァレンティナが軽蔑したような声で呻いたが、ディアローズはどこ吹く風だ。
「使える手は何でも使わねば、そう言ったのは貴様のハズだが? ン?」
「ぐっ……」
姉妹のギスギスしたやり取りに、シュレーアは顔を引きつらせる。自分の姉がこんなヤツでなくてよかった、といわんばかりの表情だ。
しかし、ディアローズのいう事にも一理ある。シュレーアはいまだに回線がつながったままのレーザー通信を使って、彼女の作戦を"レイディアント"に伝えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます