第二百三十三話 騎兵隊

「ふ……」


 ビームの射手、リレンは愛機"プライスタ"のコックピットでニヤリと笑った。そのまま照準を少しだけずらし、第二射を発砲する。紫のストライカーが抱えた巨大な狙撃用ブラスターカノンから放たれた高出力ビームは、狙いたがわず二隻目の駆逐艦を屠った。


「リレンさん! 貴女、どうしてここに!?」


 状況から、誰の手による援護かを察したシュレーアが、無線の受話器に向けて叫ぶ。


「え、援護はありがたいですが、貴女は地上担当だったハズ……」


「暇だったから」


 リレンの返答は、極めてシンプルだった。たしかに、宇宙では激闘が続いているものの、惑星ガレアeの地上には帝国軍はまだ降下していない。どうやら退屈に耐えかね、配置されていた場所から飛び出してきてしまったようだ。

 本当なら懲罰ものの独断専行なのだが、危機を救ってもらった以上文句は言い難い。シュレーアは頭を抱えつつ、ため息を吐いた。そうしている間にも、リレンは次々と駆逐艦を撃沈していく。駆逐艦の主砲より"プライスタ"のブラスターカノンの方が射程が長いため、反撃は飛んでこない。


「あ、ありがとうございます……しかし、貴女にも非常に重要な役割を任せているのです。これが終わったら、早く定位置に戻ってください」


「それは……面白くないね。すぐ終わっちゃいそうだし……」


「当然ッ! すぐワタシが終わらせるので、さっさと戻るデスよッ!」


 乱入者は、リレンだけではなかった。どこからともなく現れたノラの"ザラーヴァ"が、彗星のような尾を曳きつつ敵駆逐艦群に襲い掛かった。機関砲がノラを迎え撃つが、そんなもので怯む彼女ではない。

 巧みに弾幕を回避しつつ、ブラスターマグナムを駆逐艦の推進ブロックに打ち込んだ。対艦攻撃に使うにはやや非力な武装だが、それでも駆逐艦相手には十分だ。スラスターの噴射孔から、真っ赤な爆炎が噴出した。これでもう、駆逐艦はまともに身動きが取れない。


「救援ならワタシ一人で十分デス!」


 隣の戦域に配備されていたノラだが、本隊の危機ということで駆け付けたのだろう。すでにダミー外装も脱ぎ去っている。


「むぅ……」


 口を尖らせて可愛くすねるリレンだが敵の砲からすればそれどころではない。予想外の攻撃を受け、明らかに隊列が乱れていた。


「あっ、あれっ……"ザラーヴァ"じゃない! 四天様が裏切ったって、本当だったの!?」


「げ、迎撃! 近づけさせるなーっ!」


 狂ったように撃ち散らされる機関砲弾を回避しつつ、ノラは獰猛に敵艦へと襲い掛かっていく。二隻目、三隻目もあっという間に撃破した。

 さらに、この隙を逃すまいと戦艦隊も主砲を撃ちまくる。ノラとリレン、そして戦艦隊に挟撃された駆逐艦部隊は、みるみる数を減らしていった。


「これじゃ対艦ミサイルなんか当てられない! いったん退くぞ!」


 さすがにこんな状態で攻撃を続行しても勝ち目はない事は、宙雷戦隊の司令官も理解している。悔しさをにじませる声で、撤退を指示した。無事な艦はスラスターを全開にして、"レイディアント"から離れていった。


「陣形を組みなおす必要があります、ノラさんは艦隊外縁部の敵部隊を攻撃してください」


 駆逐艦の接近を許したのは、護衛艦隊が四方八方から攻撃をうけて隊列が乱れたからだ。高い攻撃力と機動力を併せ持った"ザラーヴァ"の援護があれば、強固な防御陣形を組みなおせるだろう。こほんと咳払いしてから、シュレーアは命令した。


「ええー? しゃーないデスね……」


 撤退していく敵宙雷戦隊を追撃しようとしていたノラが、しぶしぶといった様子で頷く。


「というか、輝星サンたちは? そろそろ帰ってくるんじゃないデスか?」


「ぴゅい!?」


 輝星という名前を聞いて、リレンが妙な声を上げた。酷く慌てた様子で、雪玉のような惑星――ガレアeの方へと突然帰っていく。どうやら、輝星とはまだ顔を合わせたくないようだ。なんてマイペースな女だろうかと、シュレーアは苦笑する。


「まだわかりません。敵のジャミングのせいで、まともな通信が……」


 その時、通信オペレーターが嬉々とした声で報告した。


「前衛部隊から報告! 帝国から離反したメルエルハイム家・ファフリータ家の艦隊からの無線を受信したそうです。艦隊は現在、我々との合流を目指してLフィールドを通過中とのこと」


「Lフィールドに居るなら、近いうちに合流できそうデスね」


 スロットルを開きつつ、ノラは肩をすくめた。


「もしかしなくても、ワタシらが来る必要はなかったデスか?」


「いえ、かなりギリギリの所でした。本当に感謝していますよ」


 メルエルハイム艦隊がいる宙域は本隊からはあまり離れていないが、まだ敵の勢力圏内だ。敵の攻撃を受けているのなら、そう簡単にここまでたどり着くことはできないだろう。

 なんにせよ、ノラらのおかげで当面の窮地を脱することが出来たのは確かだ。シュレーアはここでやっと、危機を脱したことにより安どのため息を吐いた。


「戦争が終わったら、勲章をたっぷりあげますよ。期待していてください」


「勲章なんかいらないのでカネが欲しいんデスけどぉ……」


 ノラは若干げんなりした表情でうめいた。

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