第二百三十一話 宙雷戦隊の脅威
輝星たちがメルエルハイム艦隊と合流したのと同じころ、皇国主力艦隊は敵艦隊との戦闘状態に入っていた。
「方位四五、あらたな敵艦群を感知! 反応から見て駆逐艦主体の宙雷戦隊と思われます。数二十、距離
「くっ……」
司令席に座ったシュレーアが、冷や汗を垂らしながら唸る。新手以外にも、皇国艦隊は四方八方を敵に囲まれていた。ほとんどが駆逐艦や小型巡洋艦で構成された宙雷戦隊だ。
これらの軍艦は砲火力こそ貧弱なものの、大威力の対艦ミサイルを発射するガンランチャーを装備している。この手の大型ミサイルが命中すれば、戦艦といえど少なくないダメージを受けるのだ。油断できる相手ではない。
「これ以上敵にまとわりつかれるわけにはいきません。アウトレンジで仕留めなさい!」
無線の受話器を握り、各艦の艦長に命令を下す。すでに多くの帝国宙雷戦隊が艦隊の外縁部ににじりより、護衛艦隊と熾烈な砲火を交えている。これ以上敵の数が増えれば、護衛艦の対処能力を超えて防御陣形を突破されてしまいかねない。
「目標、敵駆逐艦三十七番艦。主砲撃ち方用意!」
艦長の下令により、鈍いモーター音と共に"レイディアント"の主砲が敵艦隊に指向される。当然、ほかの戦艦もそれに続いた。
「主砲発射準備完了」
「撃ち方はじめ!」
戦艦砲特有の巨大な砲身から、極太のビームが発射される。光の矢は狙いたがわず敵宙雷戦隊に殺到したが、相手は小回りの利く小型艦だ。軽快な動きで散開し、巧みに砲撃を躱す。
「慌てるな、照準修正!」
射程ギリギリの遠距離砲撃だ。第一射で命中など期待していない。敵艦の回避運動を見極め、照準に修正がかけられる。続いて発射された第二射では、至近弾が出た。戦艦砲の飛散粒子に晒された帝国駆逐艦の装甲板が赤熱し、舷側の対空機関砲がポップコーンのように弾け飛ぶ。
撃沈とはいかないが、遠距離砲撃としては十分な成果だ。防戦一方の戦況に鬱屈していた艦橋内で、歓声が上がる。このまま修正射撃を続ければ、じきに命中弾も得られるだろう。しかし……。
「敵ストライカー群接近! 距離
「ッ!?」
シュレーアはあわてて報告の上がった方向に目をやる。青い噴射炎を背負ったストライカーの一群が、こちらにむかって一直線に接近してきている。"レイディアント"の周囲に展開した巡洋艦や駆逐艦がさかんに対空砲の火箭を上げているが、すでにかなり艦隊の内側まで接近されている。
直掩の"クレイモア"が迎撃に向かったが、ストライカーの数は帝国の方が多い。ブラスターライフルの弾幕に正面から突っ込むわけにもいかず、遠方から撃ち返すことしかできていないようだ。
「撃ち落とせ!」
艦長に命令されるまでもなく、艦のあちこちに配置された高角砲がビームを吐き散らしはじめる。当然、"レイディアント"と隊列を組んでいた"プロシア"などの他の戦艦もそれに続いた。
計十隻からなる戦艦の弾幕は熾烈極まりないが、それに怯むようでは対艦攻撃などできない。シャワーのように降り注ぐビームを巧みに回避しつつ、帝国ストライカー隊まっすぐに肉薄してくる。
「対空班、何をやっている!」
砲術長の罵声に釣られるようにして、対空機関砲も射撃を開始する。多連装の砲身から放たれる濃密な弾幕が、編隊を組んだ"ジェッタ"に襲い掛かった。
一機の"ジェッタ"が砲弾の嵐に絡めとられ、四肢を吹き飛ばされて爆散する。散開した別の"ジェッタ"が、今度は高角砲のビームをモロに喰らって撃墜された。
「総員、対ショック姿勢!」
しかし、帝国兵たちもただではやられない。勇敢にも突撃をつづけた"ジェッタ"が、肩に担いだ対艦ガンランチャーを"レイディアント"に向けた。放たれた大型ミサイルは、まっすぐに白亜の船体へと向かう。これを撃ち落とすべく機関砲が連続で火を噴いたが、迎撃するにはあまりにも距離が近すぎた。
弾頭の高性能炸薬が起爆すると同時に、艦に重苦しい振動が走った。姿勢を崩すほどのものではないが、やはり感覚としては非常に嫌なものがある。シュレーアは眉をひそめた。
「損害知らせ!」
「四番高角砲塔大破! 誘爆で付近の機関砲座もダメージを受けたようですが、まだ詳細な報告は上がってきていません」
「大したダメージではありません。焦らず迎撃を続けなさい」
口ではそう言うシュレーアだったが、内心は穏やかではない。ストライカーの運用できる対艦兵装で戦艦を仕留めるのは非常に難しい。しかし、副砲などの装甲の薄い区画を破壊されれば、戦闘力は確実に低下してしまう。
中近距離での火力が低下すれば、駆逐艦の接近を防ぐことが出来なくなるため非常に危険だ。これらの艦種はストライカーに装備されているものとは比較にならない威力の対艦ミサイルを大量に搭載しており、戦艦相手でも撃沈を狙うことが出来る。
「敵ストライカー群反転! 反復攻撃です!」
索敵担当のオペレーターが、悲壮な声で報告した。続いて、またも嫌な振動が艦を襲う。シュレーアの頬に、冷や汗が伝った。このままでは、"レイディアント"が危険だ。
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