第二百十七話 敵陣打通作戦(2)
砲火飛び交う戦場に向け、皇国・ヴァレンティナ派連合軍の戦艦部隊が前進していく。いかに輝星たちが強くとも、極めて盤石な敵陣を突破するのは非常に難しい。一時的にでも、敵の防衛線に穴をあけてやる必要があった。
「突破部隊の援護の為、ポイントE368に制圧射撃を行います。すべての戦艦戦隊は砲撃準備を行ってください」
「目標、ポイントE368。距離580。弾種は粒子弾」
総司令たるシュレーアの号令を受け、艦長以下の各員がせわしなく指示を飛ばし始める。各艦の砲塔が鈍い音を立てて旋回した。太い砲身が、敵艦隊のド真ん中を指向した。今回の射撃はあくまで制圧が目的であり、敵の回避は織り込み済みだ。そのため、細かい射撃目標の設定はしない。
「全主砲、射撃準備ヨシ」
緊迫した空気の中、シュレーアは艦橋正面のモニターを強く睨みつけた。右手を高々と掲げ、振り下ろす。
「全艦、砲撃開始」
「主砲斉射、撃ち方はじめ!」
戦艦砲の巨大な砲身から、莫大なエネルギーを秘めた粒子ビームが発射された。多数の戦艦から放たれた光条は、亜光速の光の矢となって帝国部隊に降り注ぐ。
あまい照準の射撃でも、部隊が密集しているためそれなりの被害はでる。ビームの通り道の間近に居ただけのストライカーが装甲を泡立たせつつ爆散し、直撃を喰らった駆逐艦がくの字にへし折れた。
「くそ、戦艦が出てきたの!?」
「回避急いで! まぐれ当たりでも一撃で死ぬわよ!」
その隔絶した火力に晒された帝国前衛艦隊は、一時的な混乱に陥る。射線から逃れるべく、ストライカーや駆逐艦が蜘蛛の子の散らすように逃げていった。
しかし、それも戦場全体で見ればあくまで限られたエリアでの話だ。攻撃を受けなかった帝国部隊は、冷静に反撃の指示を飛ばす。
「対艦装備のストライカー隊を回せ。敵の本隊がノコノコ前に出てきたんだ、これはチャンスだぞ」
帝国軍には、予備戦力などいくらでもある。スクランブル状態で待機していたストライカーが、対艦ガンランチャーを担いで次々と発艦していった。目指すは当然、皇国総旗艦"レイディアント"だ。
「方位三四五、上角二十より敵ストライカー隊接近。数百二十」
「直掩機と護衛艦隊に迎撃は任せます。ただし、戦艦の射線は
「砲撃そのまま、対空戦闘用意!」
「対空戦闘よーい」
敵の数は多いが、まだ十分な量の砲撃が出来ていない。ここは、なんとか耐える必要があった。戦艦部隊の周りにいた駆逐艦や防空巡洋艦が、自らを盾にするようにして帝国ストライカー隊の進路に立ちふさがる。
「弾幕を張れ! 敵機を殿下に接近させるな!」
護衛艦隊の主砲と高角砲がほぼ同時に火を噴いた。緑の火箭が帝国ストライカー隊へと真っすぐに向かっていく。だが、敵部隊は機敏な動きでそれを回避する。撃ち落とすことができたのは、わずか三機のみだった。
「田舎ものの砲弾に当たるかっての!」
帝国パイロットが、侮蔑もあらわに吐き捨てた。しかし、そこへヴァレンティナ派の機体が突撃してくる。"ジェッタ"と"ジェッタ"の対決だ。ヴァレンティナ派の機体には白いストライプがデカデカと描かれているため、判別は容易である。
「行かせるわけにはいかないんでねっ!」
「このっ! 裏切り者め!」
帝国兵は歯噛みしつつ、撃ち込まれたブラスターライフルの射撃をなんとか回避する。だが、そこへさらに"ウィル"がロングソードを片手に突っ込んでいった。"ジェッタ"はなんとかフォトンセイバーを抜いて迎撃しようとしたが、間に合わない。火花をあげつつ、真紅の装甲が両断された。
「ふははは! まずは一機!」
その"ウィル"のパイロットは、なんとボーゼス子爵だった。惑星センステラ・プライムの戦いで皇国に寝返り、その代償として輝星のキスを要求した帝国貴族である。
「この戦場にいるんだろう、"凶星"殿。どうか私の活躍を見ていてくれ……!」
そう語るボーゼス子爵の表情には、隠し切れない色欲の気配があった。どうやらこの戦いで戦果を挙げ、それをネタにして輝星に絡もうとしているらしい。
不純極まりない動機だが、そのおかげか士気は極端に高かった。それに当てられてか、部下たちの動きもいい。ボーゼス子爵の部隊は獅子奮迅の活躍を見せ、帝国ストライカー隊をうまく足止めできている。
「連中、やるじゃないか」
その姿を見ていた皇国の新鋭防空巡洋艦"クローバー"の艦長が、ニヤリと笑う。帝国の裏切り者たちとの共同作戦に不安を感じていた艦長だったが、今のところ連携は上手く行っている。
"クローバー"は三連装15cm複合砲四基十二門と高性能レーダー・射撃管制装置を装備した、皇国の巡洋艦の中でも屈指の防空能力をもった艦だ。その艦長としては、友軍の影に隠れて敵をやりすごすような真似をするわけにはいかない。艦長は、自らも打ってでることにした。
「援護してやれ! 砲弾を榴弾に切り替え、信管は対空信管をセット!」
「弾種を榴弾に変更、対空信管」
"クローバー"の主砲、三連装15cm複合砲に砲弾が装填された。弾種はそれまで発射していた粒子弾ではなく、実体弾である榴弾だ。
「目標、トラックナンバー37-12! 主砲、撃ち方はじめ」
「撃ち方はじめ!」
猛烈な発射炎と共に、防空巡洋艦の主砲から大量の砲弾が発射される。ビームに比べれば亀に等しい弾速だが、すでに敵機までの距離はかなり詰めている。そのため、艦長は実体弾でも十分に命中させることができると判断していた。
そしてその判断は、間違ってはいなかった。空中で榴弾が炸裂し、漆黒の宇宙に幾重もの火球が発生する。その一つに、ボーゼス子爵機を狙っていた"ジェッタ"がからめとられた。破片によって装甲をズタズタにされた"ジェッタ"は、身じろぎしながら爆散する。
「ほほう! 皇国にも腕のいい砲手がいるらしいな……!」
ニヤリと笑うボーゼス子爵。称賛の声をあげつつ、次の獲物を探して周囲をねめつけた……。
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