第百八十四話 肩慣らし
ただでさえ凶悪な技量を持つトップエースが、敵機を一撃必殺する火力を得たらどうなるか? 答えは圧倒的なワンサイドゲームである。
「じゅ、十連続で叩き落されるとは……」
苦悩の表情を浮かべたノラが、"ザラーヴァ"のコックピットで呻く。"エクス=カリバーン"の試験が始まって数十分が経過し、当然の如く始まったヴァレンティナら三人との模擬戦だったが……結果は元帝国勢の完敗だった。
「エレノール卿の火力は味方の時は頼もしいが、敵に回ると何とも恐ろしいものだな。まさか接近もさせてもらえないとは驚きだ」
"エクス=カリバーン"には"天雷"ことエレノールの愛機"パーフィール"から引っぺがしたメガブラスターライフルが搭載されている。定格出力12Mwという高出力を誇るこの大型ブラスターは、四天機の強固な装甲をも一撃で貫通することが出来る。
「……というかむしろ、わたしは我が愛がこんな機体で我々に立ち向かっていた方が驚きだよ。非力で反応も遅く、扱いやすさ以外に長所がない。これで原型機よりは性能が上がっているというのだから、もはや笑うしかないな」
「酷い言いようだなあ……いい機体だったよ、"カリバーン・リヴァイブ"はさ……」
"カリバーン・リヴァイブ"の双子の弟といっていい機体である"コールブランド"を操るヴァレンティナは、乗機に不満があるようだった。彼女の元の愛機と比べれば、やはり性能の低さは隠せない。開発にかけられた金額が、文字通りけた違いなのだから仕方がないだろう。
「曲りなりとも善戦できたのは、乗ってた機体の性能が高かったから……なんて事実は認められないデスよ。性能差が小さくなったからこそ、ある程度戦えなきゃあ……四天のコケンに関わるデス!」
「帝国を裏切っておいて四天の沽券もなにもあったものではないであろうが……」
気炎を上げるノラに暇そうなディアローズが突っ込みを入れたが、彼女はそんな言葉を丸々無視して撃墜判定で停止したシステムを再起動した。テルシスもそれに続く。
「せめて一矢でも報いねばな! ノラ卿、援護を!」
猛烈な加速で、テルシスの駆る近接型ゼニス"ヴァーンウルフ"が肉薄する。四天機は完全に修理が完了しており、そのスピードは以前に相対した時と全く遜色がない物だ。
「ほれ、撃墜スコアが向こうから来たぞ」
「演習だっての」
気楽な軽口を飛ばすディアローズに苦笑しつつも、輝星はさっとメガブラスターライフルの砲口を"ヴァーンウルフ"に向けた。しかしそこへ、ブラスターマグナムの太い光条が降り注ぐ。ノラの援護射撃だ。
「そう何度も何度もッ! やらせないんデスよッ!」
「くくく、負け犬の遠吠えは耳に気持ちが良いな。さあご主人様よ、叩き落してしまえ」
「だからなんでそんなに偉そうなんだよ!」
ディアローズに言い返しつつも、輝星の行動は冷静だった。胸部から肩部へと移設されたフォトンセイバーのマウントからグリップを引き抜き、緑の光刃を振るってビームを"ヴァーンウルフ"へと弾き飛ばす。
「なんのっ!」
しかしテルシスはその動きを読んでいた。自らも左手でフォトンセイバーを起動し、飛んできた光弾をさらに弾いた。
「やるじゃないか……!」
明後日の方向に飛んでいくビームを一瞥し、輝星が獰猛な笑みを浮かべた。ビームを弾くのは輝星だけの専売特許ではないらしい。
「拙者も日々進化しているのです!」
誇らしげな表情でテルシスが吠え、"エクス=カリバーン"に向かって長剣を振るった。輝星はそれを回避せず、あえてフォトンセイバーで受け止める。長剣と光刃の磁場が反発しあい、バチバチとスパークが散った。足裏のアンカーを作動させつつ、ぐっと衝撃を受け止める"エクス=カリバーン"。
「パワーアップは伊達じゃないな……!」
"エクス=カリバーン"はやや押されているものの、なんとか堪えている。以前ならば、一方的に吹っ飛ばされていたところだ。エンジン換装の甲斐あり、帝国のハイエンド機にもなんとか性能面でも食い下がることが出来るようになっている。
「高性能機も悪くはないであろう? 貴様の身の為にも
「そうかもね!」
つばぜり合いしつつも、"ヴァーンウルフ"の左手のフォトンセイバーが閃くのを見た輝星は即座に操縦桿のトリガーを引いた。セイバーのグリップにペイント弾が降り注ぎ、使用不能判定が出る。
「二刀流なんかやらせないって!」
「く、その機銃はこちらにも欲しいな!」
帝国機に頭部機銃などついていないのだ。歯噛みするテルシスだったが、彼女の耳朶をヴァレンティナの声が打った。
「一歩退け!」
輝星機の真横から、突撃槍を構えた"コールブランド"が突っ込んできた。テルシスが釘付けにしている隙に、これで仕留めようというハラだろう。テルシスは頷き、機体を後退させた。
「一勝くらいはさせてもらうよ、我が愛!」
「甘ァい!」
突っ込んできた"コールブランド"をひょいと避け、輝星はニヤリと笑った。セイバーを捨て、"コールブランド"の腕をひょいとつかむ。そのまま、突進の勢いを利用して"ヴァーンウルフ"のいる方向へと向けて投げ飛ばした。
「何っ!?」
「うわっ!」
僚機はマトモにぶつかり合い、破滅的な音を立てて吹っ飛んだ。そこへ、輝星がメガブラスターライフルを容赦なく撃ち込む。太いビームがテルシス機に命中するのとほぼ同時に空の粒子カートリッジが排出され、次弾が装填された。ふらふらと立ち上がろうとするヴァレンティナ機に、二射目をお見舞いする。一撃一殺。僚機ともに撃墜判定が出た。
「く、一機になっても!」
さすがの早業に舌を巻きつつも、ノラは冷静だった。砲口を自分の方へと向ける"エクス=カリバーン"に、牽制射撃を加える。それと同時に地面を蹴り、スラスターを吹かした。
「射撃戦だと命中精度の高いそちらが有利……でも、その得物のデカさは頂けませんねッ!」
なにしろ、メガブラスターライフルはかなりの大型武装だ。白兵の距離なら、取り回しが悪く仕えたものではなくなるはずだ。一気に距離を詰め、得意の至近距離射撃戦に持ち込むつもりだった。
「ふっ!」
絶えず撃ち込まれるビームをセイバーでしのぎつつ、輝星はメガブラスターライフルを背部のハードポイントユニットへと収納した。そのまま両手でフォトンセイバーのグリップを握り、"ザラーヴァ"へと突っ込む。
「サキサンに影響でもされましたかぁ!?」
「チャンバラは俺も嫌いじゃないんでね!」
「そんなのに付き合うほど暇じゃ……むっ!」
"エクス=カリバーン"の加速力は、ノラの予想以上だった。格闘兵装は届かない距離をキープするはずが、懐へと飛び込まれてしまう。なんとかブラスターマグナムの銃剣で迎撃しようとするも、セイバーの光刃によって弾かれてしまう。
「っく!」
身を引こうとするノラだったが、もう遅い。唸りを上げたパイルバンカーが、"ザラーヴァ"の腹部へと炸裂した。コックピットに、撃墜判定を知らせるAI音声が流れる。
「くそー……」
結局、十一回目のチャレンジも失敗に終わった。悔しげに唸りつつ、ノラは操縦桿から手を離すのだった。
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