第百八十二話 エクス=カリバーン

「もともと、この機体は"エクスカリバー"の試作機として製造された物です。しかし、現在の"カリバーン"は、その性能を大きく凌駕しています。エクスカリバーを超えたカリバーン、ゆえに"エクス=カリバーン"……どうです、悪くないでしょう?」


 自慢げに語る機付長だが、肝心の"エクス=カリバーン"は現在皇国機と帝国機を無理やりツギハギしたような不自然な姿をしている。輝星らの何とも言えない視線に気づいた機付長は、慌てて弁明する。


「い、いや、大まかな作業こそ終わりましたが、アレはまだ未完成品です。余った資材を使ってデザインは、こう、見える感じに整えておくのでご安心を!」


「流石にわらわもダサイ機体には乗りたくないからな……せいぜい格好良く仕上げるのだぞ」


「言いたいことはわかるが偉そうに言ってんじゃねーよコラ」


 腕組みして胸を張るディアローズを、サキが睨みつける。とはいえ、夜這いの件では世話になった身だ。ディアローズが余裕の表情で見返すと、彼女は口をへの字にして目をそらした。


「ちなみに、具体的にはどのあたりが強化されてるんですかね」


 見た目はさておき、パイロットとしては性能や乗り味が気になってくる。輝星の疑問に、ニヤリと機付長が変わった。


「最大の変化は、エンジンの換装です。相転移タービンが従来のものから、"ゼンティス"が装備していた超高出力のものへと積み替えています。おかげで、出力はなんと五割増し!」


「け、結構変わってるなあ。というか、よくエンジン積み替えなんてできましたね。製造メーカーが違うのに……」


「そのへんはこう、エンジンマウント周辺のフレームをちょっと切ったりして、こう」


「大丈夫なのそれ!?」


 フレーム切断と聞けば、流石の輝星も冷静ではいられない。機付長は曖昧な表情を浮かべつつ、目をそらした。


「補強もしてありますから、まあ大丈夫じゃないじゃないですかね……たぶん」


「たぶん……」


 何とも不安になる言葉に、輝星は顔をしかめた。


「えー、あと装甲も凄い強化されてますよ。なにしろ元皇族専用機の装甲板を豪華に使ってますから。引き上げた"ゼンティス"本体から引っぺがしたものだけではなく、戦艦に保管されていた予備の装甲も使用してガチガチに仕上げてあります」


「装甲とかいります? いや、ないよりはあった方がいいんですけど」


「こいつ、今まで一回も被弾してないからなあ……」


 随分な激戦を繰り広げてきたものだが、輝星はこの機体に乗り始めてからまともに被弾したことなどほぼないのである。装甲を積んで重量を増やすより、軽量化してくれた方がありがたいのだが……。


「いや、なんというか……複座コックピットと新型エンジンを乗せたら、元の装甲じゃスペースが足りなくて……"ゼンティス"って、結構な大型機だったでしょう? ためしにつけてみたら、なかなかおさまりが良くて」


「さ、流石にもろもろむき出しで戦うのは怖いですね。仕方ないか……」


「ま、まあ装甲はあって損はないぞ。馬鹿みたいに強いエースに肉薄されても、なんとか生き延びられたりするし」


「実感こもってるなあ……」


 サキがあきれたような声で言った。ディアローズは一度輝星機に押し倒され、危うくエンジンをフォトンセイバーで貫かれかけているのである。"ゼンティス"の強固な装甲がなければ、彼女はあの時点で撃墜されていただろう。


「まあ、装甲はさておきです。エンジン出力が上がったので、スラスターも武装も強化されてますよ」


 ストライカーのメインスラスターは、エンジンの排熱で推進剤を加熱する方式を取っている。そのため、エンジンが強化されると推力もアップする場合が多いのだ。


「推力はなんと二十パーセント増し! 武装も強力なヤツを用意しましたから、今までみたいに一発二発当てただけでは敵機に傷もつけられない、なんて事態にはなりません」


「ああ、それはありがたいな。前回の戦いでは、随分火力不足で難儀したからなあ」


 攻撃をいくら加えても動き続ける帝国製ゼニスの堅牢ぶりには、輝星をしてずいぶんと苦戦させられたものだ。


「頭部機銃、ワイヤーガン……この辺りは変わっていません。しかしフォトンセイバーはハイエンド製品に交換しましたし、パイルバンカーも本体と杭を強化して貫通力を上げています」


「正統進化って感じですね。ライフルは?」


「8.5Mw程度の出力では貫通できない敵機も多いことが分かったので、思い切って別の武器を用意しました。アレです」


 機付長の視線の先には、様々な武装が固定された兵装ラックがあった。一般的なブラスターライフルやマシンガンが並ぶ中、太く長い砲身を持った大型の手持ちブラスターがひときわ目立っている。


「四天の……"パーフィール"でしたか? あの重装型のゼニスが装備していた連装メガブラスターライフルを改造して、単装化したヤツです。取り回しも連射性もあまり宜しくありませんが、そのぶん威力は折り紙付きですよ」


 高い命中精度を誇る輝星であれば、わざわざ重量の過大な連装式にする必要はないのである。機付長の改造は理にかなっていた。しかし、輝星は明らかに気に入らなさそうな表情だ。


「……装弾数は?」


「……八発です」


「少な……出撃の時は、前のライフルも持って行きますよ。もったいなくて一般機相手には使えたものじゃない」


 ザコも大量に相手しなくてはならないのが、弱小軍隊の辛い所だ。機付長もそれは理解しているため、難しい表情で頭を掻いた。


「ま、仕方ないですね。ペイロードも増えてますから、なんとかなるでしょう」


「まあ、それは良いのだがな。この機体はいつ頃完成するのだ? 帝国軍も、いつまでもまってくれぬぞ? できれば早めに仕上げてもらいたいのだが」


 そう語るディアローズの口調は、元古巣だろうになんとも他人事だ。機付長は顔をしかめる。


「まあ、一週間はかかりませんよ。帝国の連中が動き出す前に、慣熟飛行はしてもらいたいですからね。せいぜい頑張って仕上げますよ」


「ま、まあ無理はしないでくださいね……」


 暗い笑みを浮かべてから、"エクス=カリバーン"のほうへふらふらと歩き始める機付長を、輝星は引きつった表情で見送った。

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