第百四十八話 苦戦のエース

「フィールドは廃墟都市、チームは……ちょうど皇国と帝国で別れたな」


 コンソールの液晶パネルに表示されたデータをちらりと確認してから、輝星は小さくつぶやいた。廃墟都市というフィールド名が示す通り、周囲にはボロボロの高層ビルが大量に立ち並んでいる。本物と見まがいそうな、なかなかリアルなグラフィックだ。


「操作法はホンモノとそう変わりがないぜ。ま、動かして見ろよ」


 このゲームを以前に遊んだことがあるらしいサキが助言を飛ばした。輝星は頷き、操縦桿を丁寧に握るとそっと押し込んだ。


「ふむ、なるほどな? 基本は同じか。とはいえ、思考制御が使えないぶんを自動操作で補ってるわけだな。これはなかなか厄介だぞ……」


 ぶつぶつ呟きつつ、輝星は機体の操作を確認していった。数分ほどしてノラからボイスチャットが飛んでくる。


「もうそろそろ動かし方は分かったデスよね? さっさと戦いたいんデスけど」


「操作法……は、大丈夫だ」


「同じく。いつでもいけますよ」


 そう答えたのはシュレーアだ。輝星と違い、声からはやる気満々の様子が伝わってくる。


「じゃ、チュートリアルは終わりってことで……行きますよ!」


 気迫のこもった声とともに、真紅の機体がビルの合間から飛び出してくる。帝国製重ストライカー、"ウィル"だ。


「四天機はあったはずだが……手加減してくれたか!」


「機体性能で押しつぶしたって、面白くないデスからね!」


 そう叫ぶノラに、輝星は即座に照準を合わせた。実際のストライカー戦とはあまりに勝手が違う。相手の射程内に入る前に叩き落さねば、不利になる一方だ。ロックオンが完了すると同時に、背部の多連装ミサイルランチャーを斉射する。


「その程度では目くらましにもならないデスよ!」


 だが、殺到するミサイルをノラは廃ビルを盾にして容易に防いで見せた。そして即座にビルの陰から飛び出し、メガブラスターライフルを発砲する。飛来する真っ赤なビームに輝星は慌てて回避機動をとったが、間一髪で間に合わず肩に被弾してしまう。画面に表示されたHPヒットポイントゲージがゴッソリと減少した。鳴り響く警告音に、輝星は顔をしかめる。


「どうしました? 実機なら撃墜デスよ!」


「わかっとるわい!」


 罵声に罵声を返しつつも、ロングブラスターライフルで応射する。が、ノラはこれも容易に回避してしまった。さらに悪いことに、ビルの屋上からもう一機のストライカーが飛び込んできた。ヴァレンティナの"ジェッタ"だ。


「ゲームが苦手というのは本当のようだね。だが、きみほどの戦士に手加減するのは失礼だろう! 申し訳ないが墜とさせてもらう!」


「げえ!」


 一機だけでも手に余っているというのに、ニ対一など微塵も勝ち目がない。急いでビルに身を隠しつつ、僚機であるシュレーア機の位置を確認する。


「援護! 援護して! 死んじゃう!」


「おっまかせをーッ!!」


 歓喜の声とともに、急迫するヴァレンティナ機の進路をふさぐようにして青い"クレイモア"が現れた。シュレーア機だ。


「貴方の騎士はテルシスさんだけじゃあないんですよ! 私が来たからにはもう安心です!」


「きゃー格好いいー」


 ヤケクソになった輝星は棒読みで歓声を飛ばした。そんな雑な声援でも、シュレーアのテンションはうなぎのぼりだ。彼女は目をキラキラさせつつ、相対するヴァレンティナ機にライフルの砲口を向けた。


「ゲームとはいえこんな機会はまたとないんですよ! 貴女には噛ませ犬になっていただく!」


「面白い、やってみればいいさ。出来るものならね!」


 "クレイモア"が連射したビームを盾で防ぎつつも、ヴァレンティナは獰猛な笑みで彼女に応じた。腰からロングソードを引き抜き、シュレーア機に突っ込む。


「ふっ、剣術なら私に勝てると? 甘い甘い!」


 シュレーアもこれにツヴァイハンダーの抜剣で応じた。長剣同士がぶつかり合い、激しい火花が飛ぶ。


「ふっ、砲術だけの女ではないことは知っているさ!」


「それは重畳!」


 熾烈な剣戟を交わす二機だったが、それを見た輝星はニヤリと笑って操縦桿のトリガーを引いた。


「手段を選んでいる余裕はない! 悪いけど出来るだけ避けてくれ!」


「うわあああ!?」


 ミサイルの暴風がシュレーアとヴァレンティナを襲った。慌てて離脱するシュレーアだったが、数発のミサイルを背部に喰らってしまう。ゲームだからほとんど被害がなかったが、実機だったら大事である。


「ひ、ひどいことをする……」


 一方、ミサイルの猛爆を喰らったヴァレンティナの"ジェッタ"は半スクラップ状態になっていた。撃墜こそ免れているものの、パーツがあちこち破損し戦闘力が大きく減じている。


「い、いえ、ナイス判断です。流石は輝星さん!」


 冷や汗をかくシュレーアだったが、チャンスには違いない。剣を銃に持ち替え、その砲口をヴァレンティナ機に向けるシュレーア。しかし次の瞬間、敵機接近警告が輝星の耳に飛び込んできた。


「よそ見とはらしくないデスねえ!」


 ノラ機だ。彼女の"ウィル"は背中にマウントされた大型フォトンセイバーのグリップに手を添えながら、猛スピードで突っ込んで来ていた。


「やっぱり来たか、くそっ!」


  慌ててロングブラスターライフルを向ける輝星だったが、取り回しの悪い大型火器では迎撃が間に合わない。"ヴァイパーⅡ"の銀色の装甲に、"ウィル"の真紅のビーム刃が迫った。


「まずは一本頂く! 」

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