第百四十七話 ゲーム

 くだんのゲームコーナーは、旅館の地下にあった。分厚い木製階段を下りた輝星たちを、電子音と七色の光を四方八方に放つ無数のゲーム筐体が出迎えた。


「旅館のゲームコーナーっつーからしょっぱいモンを想像してたが……こりゃあなかなかだな。ちょっとしたゲームセンターくらいの規模じゃねえか」


 感心した様子でサキが周囲を見回す。そして「おっ」と顔をほころばせると、とある筐体に駆け寄った。


「戦場のほまれじゃねえか! これなら輝星も楽しめるんじゃないか?」


 そう言って彼女が指さしたのは、大型の球状筐体だった。小さなドアが付いており、中には椅子や操縦桿などがコンパクトに収められている。どうやら、ストライカーのコックピットを模しているようだった。


「ほう、こういうゲームもあるのか。面白い」


 筐体の中を覗き込みつつ、ヴァレンティナが感心の声を上げた。ゲームとはいえ、そのクオリティはなかなか高い。本物のストライカーも見慣れている彼女から見てもチープさは感じられなかった。


「アクションは苦手だっつってたが、これは別だろう。ひとつ遊んでみないか?」


「え? あ、うーん……まあやってみるか」


 一瞬躊躇した輝星だったが、興味自体はあるらしく筐体へと入っていった。シートに腰を下ろすと、操縦桿を軽く握って感触を確かめる。筐体の内側の壁には全面に液晶が設置されており、確かに雰囲気としてはストライカーのコックピットそのものだった。


「せっかくだから、対戦しましょうよ。COM相手にやっても面白くないデスし」


 ひょいと顔を出したノラが、ニヤリと笑ってそんなことを言う。そのまま、隣にある別の筐体へ乗り込んでいった。シュレーアも慌ててそれに続く。この場にある戦場の誉の筐体はわずか四台。急がねばあっという間に埋まってしまう。

 残らされたサキ・ヴァレンティナ・テルシス……そしてディアローズの四人は顔を見合わせた。残る筐体は一台のみ。誰が行くかは悩ましい所だ。


「……このメンツなら、お前らの誰かが行ったらどうだ? 皇国勢と帝国勢でそれぞれ二人ずつってことでさ」


 少し考えてから、サキは自ら身を引いた。できればヴァレンティナと対戦したいというのが彼女の正直なところだったが、すでに席が埋まってしまっているのだから仕方ない。この対戦が終わった後に改めて対戦表を組みなおせば良いだけだ。


「ふむ、ならばわらわは不参加で良い。今のわらわは皇国陣営であるからなあ……くふふふ」


「拙者も結構だ。要するに、これはストライカーのシミュレーターなのだろう? 我が主と剣を交えるなら、仮想世界よりも現実でやりたいところだ」


「では、お言葉に甘えるとしようか」


 二人の言葉を受けて頷いたヴァレンティナは、最後の筐体へと向かっていった。残された二人は一瞬顔を見合わせ、二人して輝星の筐体を覗き込む。


「操作法はわかるか?」


「まあなんとなく……」


 小銭入れから出したコインを機械に投入する。いくつかの説明書きが流れた後、正面のモニターにゲーム選択画面が表示された。


「店内対戦ってモードだな、たぶん……」


「そうそれ」


 適当に操作して、先に進める。シュレーアたちの筐体とリンクしたことを確認してから、機体選択画面に移った。古今東西の様々なストライカーのリストが表示される。玉石混交様々な機種があるゼニス・タイプに関してはあまり覚えのある機種はないものの、量産型であればかなりマイナーどころも取り揃えているようだった。


「何選ぶよ? さすがに"カリバーン・リヴァイブ"はねえぞ」


「では"ヴァーンウルフ"は?」


「ええと……あ、あった」


「……すげえな、流石大国のトップエース様だ」


 腕を組んだテルシスがふふんと自慢げに笑ったが、輝星は無情にもそのまま選択カーソルを別の機体に移した。テルシスはがくりと肩を落とす。


「いやさ、ゲームにはI-conなんて機材はついてないんだぞ? 手動操作のみでヴルド人相手に近接格闘を挑むのは無謀が過ぎる。だから……俺はヴァイパーⅡで行く」


 そう言って彼が選んだ機体は、物干し竿のような長大なブラスターライフルを携えた細身の機体だった。背部には大型の多連装ミサイルランチャーを装備している。


「こいつは……地球軍の主力機だな」


「そうさ。地球人テランがヴルド人と戦うために設計した機体だよ。状況的には一番適しているはずだ」


 地球人テランとヴルド人では、身体的なスペックがあまりにも違いすぎる。もちろんパイロット適性は肉体の強さだけで決まるわけではないが、反射速度や耐G能力といったパイロットに必須の能力に関してもヴルド人の方が一方的に有利なのだから手に負えない。

 I-conによる先読みという最大の能力を失った自分が彼女らに対抗するには、対ヴルド人に特化したこの機体を使うほかないと輝星は判断したのである。


「いつもの自信はどうしたんだよ、まったく」


 呆れたように鼻を鳴らすサキだったが、輝星はあくまで真剣だった。


「まあ、見せてやるよ……I-conの補助がない俺のドン臭さってやつをな……」


 そんなことを言う彼の額には、一筋の冷や汗が流れていた……。

 

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